SF(すこし・ふしぎ)映画の最高峰「ドロステのはてで僕ら」をきみは見たか? 大絶賛の5つの理由を全力で解説(3/3 ページ)
これは故・藤子・F・不二雄が提唱したジャンルであり、「ありふれた日常の中に紛れ込む非日常的な事象」をテーマとして扱ったものだ。「ドロステのはてで僕ら」を見終えたときにはきっと、『ドラえもん』や『エスパー魔美』といった作品と同じように「ああ、すこし・ふしぎの物語だったんだ」という感慨を覚えることだろう。
4:未来にまつわるメッセージ
タイムトラベルものにおいて、「未来を知るのは良いこととはいえないのでは?」という諌言がされることはよくある。この「ドロステのはてで僕ら」でも、主人公の男・カトウは未来を知ることに対して否定的な考えをもっている。
劇中では、2分前の自分が女性をデートに誘ったのだから、現在の自分もデートに誘わなければならなくなっている、劇中の言葉で言うところの「未来に引っ張られている」という状態なので、そのカトウの意見により同調できるだろう。
そして、“未来を知ること”からスタートしたこの「ドロステのはてで僕ら」では、未来のことを知り得ない、タイムトラベルなどできない現実の私たちに向けた、とてつもなく感動的なメッセージが用意されていた。それは同時に、「なぜ世の中にはSF(すこし・ふしぎ)やファンタジーがあるのか」「なぜそれを私たちは“楽しむ”のか」という創作物の意義そのものの“問い直し”にもなっていたのだ。
このメッセージをもって、「ドロステのはてで僕ら」は真の大傑作になったと断言する。それは「バック・トゥ・ザ・フューチャー PART3」における名言「未来は自分で切り開くものなんだよ! だから頑張るんだ!」に似ているようで、それとも少し違う。「この映画を作ってくれてありがとう!」と心からの拍手喝采をしたくなるほどの、素晴らしい価値観の提示であった。
5:劇団ヨーロッパ企画の作品の面白さを知ってほしい
本作を手掛けたのは、人気劇団のヨーロッパ企画だ。公演以外でも、映画やドラマの脚本の執筆、バラエティやラジオ番組の制作、はたまたスマホ向けアプリの開発など、多方面に渡って活躍している。
ヨーロッパ企画や、その代表である上田誠が脚本や企画を手掛けた作品群は、物語が練りに練られており、やはりとんでもなく面白い。同名の舞台を映画化した「サマータイムマシン・ブルース」は本作と同じく小さな範囲のタイムトラベル要素が楽しく、森見登美彦の小説をアニメ映画化した「ペンギン・ハイウェイ」もSF(すこし・ふしぎ)のエッセンスを存分に感じる内容であったし、「前田建設ファンタジー営業部」も“マジンガーZの格納庫を実際に作れるのか?”というバカバカしくもある問いを突き詰めた志が高い映画だった。
さらに、直近では7月12日にYouTubeでライブ配信されたSFドラマ「U.F.O.たべタイムリープ」もすこぶる面白かった! こちらはタイトル通り「恋はデジャ・ブ」や「ハッピー・デス・デイ」に通ずる、同じ時間を繰り返す“ループもの”で、長回しによる撮影には確かな意義があり、予想の斜め上を突き抜ける展開がめじろ押し。さらに主演の宮野真守のオンステージぶりも徹頭徹尾楽しめるという内容だ。U.F.Oをまんまと食べたくなるので、宣伝としても圧倒的に正しい。
さらに、この「ドロステのはてで僕ら」の原型となった10分の短編映画「ハウリング」も、現在U-NEXTで見ることができる。短編の時点から十分すぎるほどの面白さがあったこと、長編化において単なる“引き伸ばし”にしない工夫がたくさん追加されていることも分かるだろう。
これらの劇団ヨーロッパ企画の作品はどれも傑作ぞろいだが、今回の「ドロステのはてで僕ら」がヨーロッパ企画が初めて劇団全員で取り組む長編映画である、ということも特筆しておきたい。「サマータイムマシン・ブルース」や「曲がれ!スプーン」は“舞台の映画化”であったため、言うまでもなく舞台でも展開できるのだが、「ドロステのはてで僕ら」はこれまで書いてきた通り、長回しで撮影した、全編ほぼワンカット・リアルタイム進行の、“映画”という媒体でないと成り立たない内容でもあるのだから。
また、「ドロステのはてで僕ら」で芸達者な劇団ヨーロッパ企画の団員たちが演じている、ダメダメなところが多いキャラクターも愛おしくてしょうがない。しかも、今回は「かぐや姫の物語」で主人公の声を務めた他、「七つの会議」や「仮面病棟」などメジャーな映画にも出演している朝倉あき演じるヒロインがめちゃくちゃかわいいことになっている。朝倉あきがめちゃくちゃかわいい(大切なことなので2回)。
現在「ドロステのはてで僕ら」を上映している劇場は、東京都内では下北沢トリウッド、TOHOシネマズ池袋、TOHOシネマズ日比谷の3館とわずかで、全国でも30館弱と、鑑賞できる機会そのものが少ないという状況だ。それでも、7月10日からは一部のイオンシネマでの公開がスタートし、徐々に上映劇場は増えていってはいる。気になった方はいま一度、劇場情報を確認してみてほしい。
もう、ここまで「大好き!」と、「大傑作!」と、そして「全人類見て!」と、大絶賛できる映画はなかなかない。最初に掲げた通り、この世で一番面白い70分間を期待しても、きっと裏切られることはないだろう。また、エンドロールの最後には、とある斬新な“おまけ(と呼ぶのにはあまりに重要なもの)”も用意されているので、お見逃しのないように!
(ヒナタカ)
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