意味がわかると怖い話:「蛇神様の贄」(2/2 ページ)
「蛇神様の贄」解説
山の神様は「生贄に選ばれたことを喜ぶ者」を食べたがっていました。だから幸に、「彼女以外の全ての村人を殺してみせ」、生贄に選ばれたおかげで命拾いした、良かっただろうと訊ねたのです。彼女は「良かった」と答えてしまいましたから、神様にとっては、食材の下ごしらえが整ったわけです。
白樺香澄
ライター・編集者。在学中は推理小説研究会「ワセダミステリ・クラブ」に所属。クラブのことを恋人から「殺人集団」と呼ばれているが特に否定はしていない。怖がりだけど怖い話は好き。Twitter:@kasumishirakaba
「ベタ」の裏が「ベタ」になる
今回みたいな話、「生贄にされた先で蛇神様と会った話」のようなタイトルの4ページ漫画だったらたぶんハッピーエンドだったんですけどね。残念です。
あらゆる文化の流れは大抵、前の世代へのカウンターカルチャーだったりしますから、「ベタ」の裏をかいたつもりが次の「ベタ」になっていく……というのはよくある話です。
今回のテーマで言えば、「怪物への生贄に捧げられる少女」という「ベタ」(生贄にされそうになっている女性を救い出し、怪物を倒す英雄譚はギリシア神話の時代からの「あるある」です)をひっくり返した、「怪物が思ったよりいいやつで仲良くなれる」という、ハートフルな異類婚姻譚的ストーリーはここ何年か、定期的にツイッターなんかでバズッている印象です。
これはいわゆる悪役転生ものなんかと同じく、若い世代を中心とした「何かを一面的に『敵』としてしまう価値観」への忌避が根底にあるのかな、なんて分析はできると思うのですが、難しいのは「誰でも分かり合えるはず」という素敵な考え方は、容易に「誰でも自分の価値観に染められるはず」という同調圧力に転じてしまうことで、「他者」をあくまで「他者」として尊重する原則を忘れてはいけないでしょう。……なんて説教臭いことを考えながら書いたわけではなく、「そろそろ、『生贄を求める化け物サイドが良いやつ』って方がベタになりつつあるはず! さらにひっくり返しちゃえ!」と、素朴にサプライズを狙っただけなのですが。
今、ツイッターで、化け物が素直に生贄をむしゃむしゃ食べて、ヤンキーのギャルがストレートにオタクくんをキモがって、奴隷商人がガチでエルフを虐待する話を書いたら逆に新鮮だと言われてバズるかもしれませんね(誰がそんな悲しい話読みたいんだ)。
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