意味がわかると怖い話:「いないはずの男の子」(2/2 ページ)
「いないはずの男の子」解説
「ゴールデンウイーク」に観ていた番組で「遺体発見から明日で12年」「殺害は発見の1時間前」と紹介されているということは、友田信広が殺されたのは12年前の5月ということです。語り手が「12年前の雛祭り」前後に遊んでいた相手が本当に友田信広ならば、彼女の家にいたのは「遊び相手が欲しくて彷徨っていた信広の霊」ではなく、「生きた信広」だったはずなのです。
そして彼が誘拐されたのは「12年前の正月休み」ですから――
語り手の父親は当時、妻の長期入院で経済的に緊迫していたと想像できます。彼はその頃、娘に「友達を家に連れてくるな」と厳命していました。
語り手は、開けてはいけない記憶の扉に手をかけてしまったようです。
「記憶が違う」という怖さ
「記憶が食い違う」というモチーフも、怖い話の定番です。本人にとっては絶対的で、自身のアイデンティティーにも関わる「記憶」というものが、実のところパーソナルであやふやなものだと突き付けられることは、例えば「死」を扱うのを同じくらいのインパクトを与えられるからでしょう。
「虚偽記憶」……欠落した記憶を他の記憶や周辺情報で埋め合わせようとしたり、あるいは誘導尋問によって記憶を作り上げてしまうケースは実例として存在し、例えば悪名高い児童虐待冤罪事件「マクマーティン保育園事件」では、無資格のカウンセラーによるいい加減な尋問の結果、証人となった多くの子どもが、「魔女を見た」「悪魔崇拝の儀式に参加し生贄(いけにえ)の血を飲んだ」といったデタラメを、「実際にあったこと」として信じ込んでしまったといいます。
これは筆者が、おばけなんている訳ないと分かっているのにおばけが怖い理由でもあります。「おばけがいない」ことは「おばけを見たと思い込む」ことがないとは保証してくれないからです。「心霊体験をしたという勘違い」は、「心霊体験」と変わりありません。自身の信じる「記憶」が真実か否かを、主観的に確かめる術はないのですから。
ちなみに「友田信広ちゃん」の写真は幼き日の筆者でございます。かわいいでしょ。
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