意味がわかると怖い話:「異形の寺」(2/2 ページ)
「異形の寺」解説
寺に現れた怪異は本当に、語り手の考えたとおり「高僧の加護にすがる亡者の霊」だったのでしょうか。「それ」は本当に、「円空、円空」と言っていたのでしょうか?
そして煙草を吸い、仏像を投げつけたことで彼が難を逃れられたのだとしたら、「兄」の「火気厳禁」「仏像には手を触れるな」という注意は、まるで怪異への抵抗手段を潰すためのもののようです(東北には、「山で悪いモノが近くにいると感じたら、煙草を吸うと祓うことができる」という言い伝えが残る地域があるのだそうで、近年の怪談でも「煙草を一服すると怪異から逃れられた」という話型は珍しくありません(無論、「山では煙草が魔除け」というのは、実際には「煙草の匂いで人間がいることを知らせ、危険な野生動物を近づけない」知恵だったのでしょうが)。
えんくえんくえんく……喰えん、喰えん、喰えん……。
「久宜」寺という名前も、思えば意味深です。クギ。久宜寺が毎年、夏の決まったある日に海からやってきて、生贄を食らうことを欲する怪異を鎮めるための「供犠」の寺だったとしたら。地名などで、縁起の悪い字が慶字に書き替えられるのはよくあることです。「千尋さん」が、外から生贄を調達する係を務めていたのだとしたら……。
「父」は、語り手が逃げ延びた代わりに「食われて」しまったのでしょうし、前の夏に音信不通となった「バイト」の男の子もおそらく……。
地名と怖い話
「地名に怖い意味が隠されていた」という話はよく聞きますが、逆に「何でもない地名だったはずが後付けで怖い名前になった」という例もあるようです。
たとえば、渋沢栄一の故郷として知られる埼玉県の「血洗島」。いつ金田一耕助が来てもおかしくない字の並びで、「赤城の山の神が下野の二荒山の神と戦ったときに、得た傷口をこの地で洗い流した」という伝承が伝わっているそうです。
しかし実際には「血洗」という地名は、アイヌ語の「ケッセン(「岸・末端」といった意味で宮城の「気仙沼」と同語源)」に漢字を当てたもの、あるいは利根川の氾濫が相次いだ時代に「地洗い」もしくは「地荒い」と呼ばれたのに由来するという説が有力なようです。
ちなみに「赤城の山神の戦い」云々の神話は、日光の「戦場ヶ原」という地名から着想を得たストーリーであるらしく、さらに言えば「戦場ヶ原」は元は、単にめちゃくちゃ広いことから「千畳ヶ原」だったのではないかという説があり、二重に「字面と音の響きにつられて後から意味が付加される」パターンだったようです。
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