意味がわかると怖い話:「異形の寺」(2/2 ページ)

» 2020年08月23日 21時00分 公開
[白樺香澄ねとらぼ]
前のページへ 1|2       

「異形の寺」解説

 寺に現れた怪異は本当に、語り手の考えたとおり「高僧の加護にすがる亡者の霊」だったのでしょうか。「それ」は本当に、「円空、円空」と言っていたのでしょうか?

 そして煙草を吸い、仏像を投げつけたことで彼が難を逃れられたのだとしたら、「兄」の「火気厳禁」「仏像には手を触れるな」という注意は、まるで怪異への抵抗手段を潰すためのもののようです(東北には、「山で悪いモノが近くにいると感じたら、煙草を吸うと祓うことができる」という言い伝えが残る地域があるのだそうで、近年の怪談でも「煙草を一服すると怪異から逃れられた」という話型は珍しくありません(無論、「山では煙草が魔除け」というのは、実際には「煙草の匂いで人間がいることを知らせ、危険な野生動物を近づけない」知恵だったのでしょうが)。

 えんくえんくえんく……喰えん、喰えん、喰えん……。

 「久宜」寺という名前も、思えば意味深です。クギ。久宜寺が毎年、夏の決まったある日に海からやってきて、生贄を食らうことを欲する怪異を鎮めるための「供犠」の寺だったとしたら。地名などで、縁起の悪い字が慶字に書き替えられるのはよくあることです。「千尋さん」が、外から生贄を調達する係を務めていたのだとしたら……。

 「父」は、語り手が逃げ延びた代わりに「食われて」しまったのでしょうし、前の夏に音信不通となった「バイト」の男の子もおそらく……。

白樺香澄

ライター・編集者。在学中は推理小説研究会「ワセダミステリ・クラブ」に所属。怖がりだけど怖い話は好き。Twitter:@kasumishirakaba


地名と怖い話

 「地名に怖い意味が隠されていた」という話はよく聞きますが、逆に「何でもない地名だったはずが後付けで怖い名前になった」という例もあるようです。

 たとえば、渋沢栄一の故郷として知られる埼玉県の「血洗島」。いつ金田一耕助が来てもおかしくない字の並びで、「赤城の山の神が下野の二荒山の神と戦ったときに、得た傷口をこの地で洗い流した」という伝承が伝わっているそうです。

 しかし実際には「血洗」という地名は、アイヌ語の「ケッセン(「岸・末端」といった意味で宮城の「気仙沼」と同語源)」に漢字を当てたもの、あるいは利根川の氾濫が相次いだ時代に「地洗い」もしくは「地荒い」と呼ばれたのに由来するという説が有力なようです。

 ちなみに「赤城の山神の戦い」云々の神話は、日光の「戦場ヶ原」という地名から着想を得たストーリーであるらしく、さらに言えば「戦場ヶ原」は元は、単にめちゃくちゃ広いことから「千畳ヶ原」だったのではないかという説があり、二重に「字面と音の響きにつられて後から意味が付加される」パターンだったようです。

前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2404/18/news134.jpg 21歳の無名アイドル、ビジュアル拡散で「あの頃の橋本環奈すぎる」とSNS騒然 「実物の方が可愛い」「見つかっちゃったなー」の声も
  2. /nl/articles/2404/18/news025.jpg 生後5日の赤ちゃん、7歳のお姉ちゃんから初めてミルクをもらうと…… 姉も驚きの反応がかわいい
  3. /nl/articles/2404/18/news057.jpg 9カ月の赤ちゃん、バスで外国人の女の子赤ちゃんと隣り合い…… 人生初のガールズトークに「これは通じあってますね!」「ベビ同士の会話、とろけます」
  4. /nl/articles/2404/17/news037.jpg 【今日の計算】「8+9÷3−5」を計算せよ
  5. /nl/articles/2404/17/news034.jpg 「妹が入学式に着るワンピース作ってみた!」 こだわり満載のクラシカルな一着に「すごすぎて意味わからない」「涙が出ました」
  6. /nl/articles/2404/18/news155.jpg 大谷翔平選手、ハワイに約26億円の別荘を購入 真美子夫人とデコピンとで過ごすかもしれないオフシーズンの拠点に「もうすぐ我が家となる場所」
  7. /nl/articles/2404/17/news179.jpg 「ケンタッキー」新アプリに不満殺到 「酷すぎる」「改悪」の声…… 運営元「大変ご迷惑をおかけした」と謝罪
  8. /nl/articles/2404/16/news192.jpg 「ゆるキャン△」のイメージビジュアルそのまま? 工事の看板イラストが登場キャラにしか見えない 工事担当者「狙いました」
  9. /nl/articles/2404/17/news129.jpg 「ハーゲンダッツ硬すぎ!」と力を入れたら……! “目を疑う事態”になった1枚がパワー過ぎて約8万いいね
  10. /nl/articles/2404/16/news175.jpg 「そうはならんやろ」をそのまま再現!? 「ガンダムSEED FREEDOM」のズゴックを完全再現したガンプラがすごすぎる
先週の総合アクセスTOP10
  1. 生後2カ月の赤ちゃんにママが話しかけると、次の瞬間かわいすぎる反応が! 「天使」「なんか泣けてきた」と癒やされた人続出
  2. 車検に出した軽トラの荷台に乗っていた生後3日の子猫、保護して育てた3年後…… 驚きの現在に大反響「天使が女神に」「目眩が」
  3. 安達祐実、成人した娘とのレアな2ショット披露 「ママには見えない!」「とても似ててびっくり」と驚きの声
  4. 兄が10歳下の妹に無償の愛を注ぎ続けて2年後…… ママも驚きの光景に「尊すぎてコメントが浮かばねぇ」「最高のにいに」
  5. “これが普通だと思っていた柴犬のお風呂の入れ方が特殊すぎた” 予想外の体勢に「今まで観てきた入浴法で1番かわいい」
  6. 「虎に翼」、新キャラの俳優に注目が集まる 「綺麗な人だね」「まさか日本のドラマでお目にかかれるとは!」
  7. 「葬送のフリーレン」ユーベルのコスプレがまるで実写版 「ジト目が完璧」と27万いいねの好評
  8. お花見でも大活躍する「2杯のドリンクを片手で持つ方法」 目からウロコの裏技に「えぇーーすごーーい」「やってみます!」
  9. 弟から出産祝いをもらったら…… 爆笑の悲劇に「めっちゃおもろ可愛いんだけどw」「笑いこらえるの無理でした」
  10. 3カ月の赤ちゃん、パパに“しーっ”とされた反応が「可愛いぁぁぁぁ」と200万再生 無邪気なお返事としぐさから幸せがあふれ出す
先月の総合アクセスTOP10
  1. フワちゃん、弟の結婚式で卑劣な行為に「席次見て名前覚えたからな」 めでたい場でのひんしゅく行為に「プライベート守ろうよ!」の声
  2. 親が「絶対たぬき」「賭けてもいい」と言い張る動物を、保護して育ててみた結果…… 驚愕の正体が230万表示「こんなん噴くわ!」
  3. 水道検針員から直筆の手紙、驚き確認すると…… メーターボックスで起きた珍事が300万再生「これはびっくり」「生命の逞しさ」
  4. フワちゃん、収録中に見えてはいけない“部位”が映る まさかの露出に「拡大しちゃったじゃん」「またか」の声
  5. スーパーで売れ残っていた半額のカニを水槽に入れてみたら…… 220万再生された涙の結末に「切なくなった」「凄く感動」
  6. 桐朋高等学校、78期卒業生の答辞に賛辞やまず 「只者ではない」「感動のあまり泣いて10回読み直した」
  7. 「これは悲劇」 ヤマザキ“春のパンまつり”シールを集めていたはずなのに…… 途中で気づいたまさかの現実
  8. 「ふざけんな」 宿泊施設に「キャンセル料金を払わなくする方法」が物議 宿泊施設「大目に見てきたが厳格化する」
  9. がん闘病中の見栄晴、20回以上の放射線治療を受け変化が…… 「痛がゆくなって来ました」
  10. 食べ終わったパイナップルの葉を土に植えたら…… 3年半後、目を疑う結果に「もう、ただただ感動です」「ちょっと泣きそう」