アニメ映画「マロナの幻想的な物語り」レビュー 「劇団イヌカレー」と「MOTHER2」を掛け合わせたような衝撃
のんや小野友樹が吹き替え声優を務めたアニメ映画「マロナの幻想的な物語り」は、あまりに新しい映像体験だった。
ルーマニア・フランス・ベルギー合作のアニメ映画「マロナの幻想的な物語り」が、9月11日から全国で公開中だ。
本作についてまずお伝えしたいのは、「日本のアニメと全然違う!」ということだ。全く新しい映像表現に感動できることは間違いないだろう。その具体的な魅力を以下にお伝えする。
1:劇団イヌカレー×ムーンサイドの衝撃
筆者の第一印象は、「『魔法少女まどか☆マギカ』の劇団イヌカレーと、『MOTHER2 ギーグの逆襲』のムーンサイドが組み合わさったみたいだ!」ということだった。
2011年に放送され絶大的な人気を誇ったアニメ「魔法少女まどか☆マギカ」は、少女たちが次々に過酷な試練に直面する作劇を筆頭に、作画のクオリティー、幻想的かつ怖さも感じさせる背景描写も話題を集めた。そのプロダクションデザインと異空間の設計を手掛けたのが、アニメ作家ユニットの劇団イヌカレー。この他にも2020年に放送された「マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝」をはじめ、劇団イヌカレーはアニメ作品に多数参加。“切り絵”や“ステンドグラス”を思わせる、ファンタジックでありながら時にグロテスクでもある独特のセンスが支持を集めている。
1994年に発売されたスーパーファミコン用ゲーム「MOTHER2 ギーグの逆襲」におけるムーンサイドとは、特に“トラウマ”として語られることが多い異世界だ。主人公たちが突如として迷い込むその場所は、ワイヤーフレームのネオンが輝く見た目、サイケデリックなBGM以上に、住人たちの言動が意味不明を超えて狂気に満ち満ちていて、下手なホラー映画より恐ろしかった。一方で、その絶大なインパクトと、慣れてくると一周回って(?)魅力的にも見えてくるムーンサイドは、いまだにゲームファンの間で語られる伝説的な要素となっている。
その劇団イヌカレーと、ムーンサイドの両者を一気に味わえるのが、この「マロナの幻想的な物語り」だ。もちろん実際には劇団イヌカレーは一切関わっていないし、制作者がムーンサイドを参考にしているわけでもないはずだ。しかし、黒の背景にカラフルな家やお店が並ぶ夜の街の光景、抽象的に描かれた人々の姿、そしてほんの少しの怖さは、その両者を強く連想させると共に、その摩訶不思議な印象が、躍動感をもったアニメに昇華されている、ということに大きな感動を覚えるのだ。
そして、誰もが圧倒されるであろうことは、そのアニメーションとしてのクオリティー、そしてイマジネーションだろう。例えば、主人公の犬の最初の飼い主になる曲芸師は、まるでタコだ。重力や関節を無視するかのように腕や脚をグネグネとくねらせ、常識ではとらわれない動きをし続けている。その表現は過剰であるが、同時に曲芸師という仕事を的確に表していた。
その後も、1枚1枚がすでにアートとして成立しているカラフルでファンタジックな絵が、常に動き続けるというぜいたくさ。絵のトーンやタッチも変わっていき、ひとときとして同じような場面はない。しかも、終盤には2Dの絵が立体的に立ち上がり、その3Dの空間を疾走し、それをカメラが追いかけるという、ジブリ映画のような“奥行き”表現までもがある。
「魔法少女まどか☆マギカ」や「MOTHER2 ギーグの逆襲」を知らないという方でも、「子どものころに読んでいた海外の絵本の挿絵が常に動いている」と考えれば、イメージがしやすいだろう。ときに優しく、ときに怖い要素もあった絵本が少しでも記憶にある方であれば、アニメとしての斬新さよりも、懐かしさの方が先に立つ内容なのかもしれない。
自由奔放、超現実的、変幻自在、アーティスティック……さまざまな形容が思い浮かぶが、いずれの言葉も十分ではない。92分という上映時間中、ずっと絵画の世界に飛び込み、そして一つ一つを味わい尽くすかのような感動は、もはや言語化は不可能だ。とにかく、まずは「見てほしい」。そうでないと、この魅力は伝わらないのだから。
2:“犬の視点”が哲学的な提言につながる
「マロナの幻想的な物語り」の主人公であるマロナはミックス犬。彼女は生まれてすぐに曲芸師の青年の手に渡り、その後も飼い主が変わるごとに違う名前をつけられ、それぞれと信頼関係を育んでいく……というのが基本的なプロットだ。
そのシンプルな物語の中で、哲学的な提言がいくつもなされている。例えば、劇中でマロナはこう心の声で言う。「人間はいつだって、ないものを欲しがる。人はそれを夢と呼び、私はそれを不安という」と。
この言葉から分かるのは、「犬と人間では目線や考え方が違う」ということ。マロナは“すでにあるもの”で充足しているが、彼女が出会う人間の心は変わりやすく安定しない。彼女はその価値観を冷静に見つめている。
この目線の違いは、そのまま本作のアニメの抽象的な表現にもつながってくる。絵のタッチが場面によって変わる、特徴を極端に描写したかのような人間たち、そういった摩訶不思議な表現は、「犬から見た当たり前の光景」という風にも解釈できるのだ。
事実、監督のアンカ・ダミアンはこう述べている。「アニメーションのユニークな表現と視点は、見る人に大きく影響を与えます。特に犬の目線からものごとを見るということは、普段なら気が付かない真実を映し出す鏡を手にするようなものです」と。確かに、劇中のファンタジックな描写は、マロナにとっての“ほんとうのこと”とも解釈ができる。そのために、アニメという表現が必要だった、ともいえるだろう。
また、犬の嗅覚は人間に比べてはるかに優れている一方で、その視力は弱く、色の見え方も人間とは異なるという事実がある。だが、犬が具体的にどのように世界を見ているかは、誰にも分からない。自由自在に動くアニメは、そんな犬の“見え方”の1つの答えを示してくれた、ともいえる。そのことにも、今までにない感動を覚えるのだ。
なお、マロナには美しく博愛主義の母と、乱暴な差別主義者の父がいたものの、同時に生まれた9匹の末っ子であることから“ナイン”と呼ばれ、その後も両親とは一緒には暮らせなかったという、悲しい生い立ちがある。彼女の哲学的な思考は幼少期から始まり、そうした悲劇についても静観を超えて諦観しているように見える。「世界の残酷さが分かっている犬」ということも、目線の違う人間にとっては衝撃的であり、なおかつ“あり得る”ものとして映るのかもしれない。
3:のんと小野友樹の完璧な吹替版
本作は字幕版が先行公開されており、9月11日から吹き替え版が全国で上映される。吹き替え版で主人公のマロナの心の声を担当するのは、「この世界の片隅に」でのんびりした女性を演じ各界から絶賛を浴びたのん。曲芸師の青年を演じたのは、「ジョジョの奇妙な冒険 Part4 ダイヤモンドは砕けない」で不良だが心優しい少年に完璧にハマっていた小野友樹。その他、平川新士、夜道雪、笹島かほるといった面々が顔をそろえている。
それぞれの演技のクオリティーは言うまでもなく最高であるし、特にのんが演じたマロナは、その少し浮世離れしたような独特の声が、冷静に哲学を口にする彼女の性格にもマッチしていた。そんな彼女の言葉が分からなくても可愛がる、小野友樹演じる優しい曲芸師とのやりとりは、ずっと見ていたくなるほどの尊さに満ちている。字幕版と見比べて、キャラクターの印象の違いを確認してみるのも一興だろう。
そののんは、本作について「マロナの感じる喜びも不吉な予感も、映像と音楽に乗せて私たちの心に流れ込んでくる感覚があり、頭で思考する前に感情が巡ってくる不思議なリアルがありました」とも語っていた。これは「マロナの幻想的な物語り」の魅力を過不足なく表現した見事な評だ。その感情の巡りを、のんの見事な声の演技からも受け取ってほしい。
4:犬の“ちっぽけな幸せ”を考えたくなる
本作の主題歌「Happiness」では、こういう一節がある。
日本語訳
幸せは ほんのちっぽけなこと
取るに足りないこと
一皿のミルク
大きな温かい舌
昼寝
骨をかくす場所……
元の英語歌詞
Happiness is a small things.
Almost nothings
A saucer of milk
A big wet tongue
A nap
A place to bury a bone ……
これは、前述したマロナの哲学「人間はいつだって、ないものを欲しがる。人はそれを夢と呼び、私はそれを不安という」にもリンクする価値観だ。一皿のミルク、昼寝、そんなちっぽけな幸せを十分にマロナは感じているのに、劇中の人間たちはマロナと初めは幸せな時を過ごすものの、やがて新しいことを求めていき、いつしかちっぽけな幸せを素直に享受できないでいるようにも見える。
人間にとって、「犬にとっての幸せは身近なものかもしれない」などと考えることは、とても有意義なことだろう(特に飼い主にとっては)。ひょっとすると、犬の「大切な人と一緒に過ごす時間がいちばん大切」と思っている気持ちに気付けるのかもしれないのだから。
「マロナの幻想的な物語り」のストーリーそのものは「異なる飼い主のもとで暮らしていった犬の生涯を追う」と単純明快だ。しかし、そこにはいくつもの哲学的な思考や、新たな気付きがある。何よりも、今までに見たことがない、言語化が不可能なアニメの世界に浸ることができる、ぜいたくな体験が得られる作品だ。ぜひ、劇場のスクリーンでこそ、堪能していただきたい。
(ヒナタカ)
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