意味がわかると怖い話:「禁忌地」(2/2 ページ)

» 2020年09月20日 21時00分 公開
[白樺香澄ねとらぼ]
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「禁忌地」解説

 「山の神様が怒った」ために赤い花が咲き、アラホリくんの運命が変わったと感じたユイさん。……しかし、本当にそうだったのでしょうか?

 白い彼岸花とはなんだったのか。山の禁忌地は、アラホリくんの見立て通り、毒性の低い白い彼岸花を人工的に栽培していたかつての救荒植物の畑だったのでしょう。白い花は劣性遺伝だそうですから、赤い花が咲く場所から隔離し、花粉や種子を持ち込んで種が混ざらないように入れる人間を限り、衣類もおろしたてのものでないといけないという決まりが出来上がったのです。

 ユイさんは、昼間赤い彼岸花の咲き乱れる河原を歩きました。そしてその夜、白い花が咲き誇る場所にそのままの靴で入り込んだのですから……恋人の人生を狂わせたきっかけが自分にあると、彼女が気づくことはあるのでしょうか。

「言い伝え」の合理性

 今回のお話のモチーフは、『捜神記』に採録された古い中国の民話です。

 ある川沿いの町に、「町はずれにある亀の像が血の涙を流したら近く大水害がある」という言い伝えがあり、町の人のほとんどはそれを忘れていたのですが、ある身寄りのない老婆だけはそれを固く信じており、毎朝、亀を見に行っていたそうです。

 ある日、町の悪ガキたちが「おばあちゃんにドッキリを仕掛けよう」と、亀の目に血糊を塗っておきました。老婆は仰天して街中に「水害が来る!」と言って回り、そのまま山まで走って行ってしまいました。みんな老婆の狼狽ぶりに大爆笑していたのですが、次の瞬間、本当に川が大氾濫を起こし、町は水底になり老婆以外誰も助かりませんでした……

 というお話なのですが、おそらくは説話としてのメッセージは「古い言い伝えをバカにしちゃいけないよ」というところにあり、「毎日、川沿いにある亀の像を見に行くと氾濫の予兆が確認できる」という、これまでの水害からの教訓がベースにあり、「大抵、天災は過去の記憶が薄れてみんなが油断した頃に起こり、再び甚大な被害を出す」ことに警鐘を鳴らすものだったのでしょう。

 「言い伝え」の合理性、というところでは作中でも言及されている「彼岸花」の悪いイメージにも、しっかりとした理由が見出せます。

 彼岸花には無数の「こわい」別名があります。死人花、地獄花、幽霊花……「摘んだら死ぬ」とまで言われている地域もあるそうです。

 日本で一般的に見られる彼岸花は、突然変異の三倍体であり種子を残せないので、どこかのタイミングで海外から持ち込まれ、各地で栽培されるようになったものと言われています。「勝手に生える」植物ではないので、彼岸花が咲いているエリアには人の意思が介在します。

 その毒性ゆえに、墓を掘り荒らす小動物が忌避することを狙って墓地のそばに植えられたり、あるいは水に晒せば毒が抜け、鱗茎からデンプンが取れるので救荒作物として栽培されたりと、「共同体のインフラ」の意味合いが強かったために、不心得者や子どもがむやみに持って行かないよう、毒性を誇張した「こわい」伝承がつくられたのでしょう。

白樺香澄

ライター・編集者。在学中は推理小説研究会「ワセダミステリ・クラブ」に所属。怖がりだけど怖い話は好き。Twitter:@kasumishirakaba


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