アニメ映画「ウルフウォーカー」が大傑作である「5つ」の理由 「もののけ姫」に通ずる、オオカミの象徴(1/3 ページ)
上映中のアニメ映画「ウルフウォーカー」の素晴らしさを全力で解説する。
アイルランド・ルクセンブルク合作のアニメ映画「ウルフウォーカー」が10月30日より全国で公開されている。
本作を手掛けたスタジオは“カートゥーン・サルーン”。これまで製作した長編作品「ブレンダンとケルズの秘密」「ソング・オブ・ザ・シー 海のうた」「ブレッドウィナー」の3本全てがアカデミー賞長編アニメーション賞にノミネートされるなど、世界的な評価を得ている。
結論を申し上げれば、本作も抜群のエンターテインメント性と、人間社会への鋭い批評性を同時に備え、何よりもアニメとしてのクオリティーと豊かさに圧倒される、年間ベスト級の大傑作だった。
しかも、本作は子どもから大人まで見る者を選ばない、海外アニメ映画になじみがない方にも大プッシュでおすすめできる、万人向けの内容でもあった。その理由と、作品の魅力を以下にたっぷりと記していこう。
1:女の子2人の友情の物語
物語の舞台は中世アイルランドの街。オオカミ退治のためイギリスからやってきたハンターを父に持つ少女のロビンは、森の中で“ウルフウォーカー”であるメーヴと出会う。ウルフウォーカーは人間とオオカミが1つの体に共存しており、傷を癒す魔法の力を持っていた。
この主人公の女の子2人のキャラクターが、とにかく魅力的だ。ロビンは父の森でのハンターの仕事を手伝いたいと願っているが、街では子どもが城壁の外に出ることが禁じられているため、家にこもっての家事、または調理場で働くことを強要されてしまうという、全く自由ではない境遇にいる。
一方、森で自由に暮らしているメーヴはワイルドな性格で、武器を身につけていたロビンにもフランクに接し、やがて森で遊ぶ楽しさを教えてあげる。だが、メーヴはとある理由により眠り続けている母を恋しがっており、物語が進むに連れて年相応の幼さも見えるようになっていく。
彼女たちは性格も住む場所も全く異なる。だが、共に片親が不在であり、孤独を抱えているという共通点もある。彼女たちは子どもらしいふるまいで次第に仲良くなっていき、やがて残酷な大人の世界にも立ち向かうことになる。その過程はかわいらしい以上にけなげでいじらしく、誰もが彼女たちが大好きになり、その幸せを願いたくなるだろう。
2:抑圧されてきた女性の解放を描く
この「ウルフウォーカー」には、抑圧されてきた女性の解放を描くという、明確なフェミニズムのメッセージがある。
前述した通り、街で暮らしている少女ロビンは、自分の望む生き方ができないでいる。家にいれば街の権力者である護国卿が一方的に「調理場に行かせろ」と言い放ち、ロビンのお父さんも「お前を守るため」という名目で森へ行くことを禁じている。
護国卿は男性社会の権威主義的な価値観を象徴するような悪役キャラクターであり、娘を愛しているはずのお父さんも(その身の安全を心から願うからこそ)ロビンを街の中に閉じ込めてしまう。それは、当時ではなんら不思議ではない考え方であり、現代でも普遍的にある女性への抑圧の構図だ。その護国卿が敬虔なキリスト教徒であり、自らの言動を“神のご意思”のもとで正しいと信じていることも、痛烈な宗教への批評になっている。
そんなロビンに自由を教えてくれるのが、ウルフウォーカーという魔法の力を持ち、オオカミたちと森で暮らしている少女のメーヴだった。彼女たちが楽しく遊ぶシーンは、この上なく楽しそうで、そして解放的だ。いわば、この「ウルフウォーカー」は、オオカミという動物の自由な生き方と、幼い女の子2人の友情をもって、男性社会からの脱却を爽快感たっぷりに描いているというわけだ。
そうした楽しく解放的なシーンがある一方で、この幼い女の子2人が大人の主義主張に従うしかなかったり、はたまた市井の人々からの憎悪の目を向けられるなど、精神的に追い詰められるつらいシーンも多い。それも、現実で同じように苦しんできた女性たちの心情に寄り添うために必要不可欠と思えるものだった。
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