アニメ映画「ウルフウォーカー」が大傑作である「5つ」の理由 「もののけ姫」に通ずる、オオカミの象徴(2/3 ページ)
ちなみに、トム・ムーア監督によると、当初の企画案ではロビンは男の子の設定だった。しかし、過去に手掛けた作品では男の子が主人公であったこと、そして「社会の常識に異を唱えることは、男の子より女の子の方がより難しい」といった考えから女の子へと変更をしたのだそうだ。このフェミニズムのメッセージは、女の子2人が主人公であったほうが、より痛切かつストレートに響くのは間違いない。
3:「ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス」や「かぐや姫の物語」も思い起こす、シーンによって異なる映像表現
シーンによって異なる映像表現がされていることも、この「ウルフウォーカー」の大きな特徴だ。なかでも、メインの舞台である“街”と“森”それぞれに、対照的な美術設定がなされている点に注目してほしい。
ロビンが不自由なままに暮らしている街は版画を参考にして、正方形や長方形など直線や角ばったもので描かれており、美しくある反面、窮屈な印象を受ける。
一方で、メーヴが暮らしている森では、水彩画や鉛筆のようなラフなタッチで描かれている。直線やシンメトリーなものは避けられており、手描きの線が主体であるため、それだけで解放的で自由な印象があるのだ。
さらに、四つ足で歩くオオカミの視点は、3Dのダイナミックなカメラワークで魅せており、“オオカミの嗅覚”という人間の感覚ではつかみづらいものも、視覚として表現されている。ここで、同じくオオカミに変身するシーンがあるゲーム「ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス」を思い出す方もいるだろう。
また、「怒っていたら線を粗く怒っているように描く」「冷静で落ち着いていれば線もシンプルになる」という、キャラクターの感情によって線の描き方も変えている。これは故・高畑勲監督の「かぐや姫の物語」に刺激を受けた表現なのだそうだ。
言葉による説明ではなく、“線”や“形”により舞台の意味や複雑な心境を語るというのは、“絵”で描いたアニメでしかなし得ない表現だ。そのインパクトは絶大なものであるし、何度でも繰り返し見たくなる豊かさがあり、何よりも見ていて気持ちが良い。終盤の大迫力のアクションや、あまりにも美しい画は、それだけで感涙ものだ。
4:「もののけ姫」に通ずる、オオカミの象徴
この「ウルフウォーカー」は、オオカミたちと人間たちの対峙という構図、動物および自然への畏怖を示す作劇など、宮崎駿監督の「もののけ姫」を想起させるところが多い。
トム・ムーア監督も「『もののけ姫』のような美しいアドベンチャーアクションを目指した」と明言しており、オオカミのスピーディーな疾走や、奥行きを意識した躍動感のあるアクションシーンなど、アニメとしての表現にも共通点を見いだせるだろう。
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