6年間の引きこもりは「最高だった」 元“世界一即戦力な男”の作家・菊池良さんに聞く普通な生き方、ヘンな生き方(2/2 ページ)
「正統派」を目指さない理由
―― 菊池さんはヤフー退職後、フリーの執筆活動に専念。作品は『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』が文体模写、『芥川賞ぜんぶ読む』がレビュー、『文豪探偵』『ニャタレー夫人の恋人』は物語文とバラバラですが……。
あ、確かに。
―― 自分で気付いてなかったんですか?
今気付きました。確かにどれも違いますね。ただ、「企画性」や「パッケージング」の部分では共通したものがあると思います。
引きこもりミュージシャン・ノリアキさんの存在が大きいと思います。ノリアキさんはいきなり古屋監督のプロデュースでミュージシャンになってアルバムを出した方で、僕はそういうのが面白いと思っているんですよね。
僕は基礎を学んだ身ではないので、正統派なことをやっても基礎をやってきた人には勝てないと思っています。
そういう考えもあって、自分のオリジナルの部分でやっていこうと考えています。
―― そういえば、名刺の肩書は「ライター」になっていましたが、本を出していても「作家」ではないんですか?
そういう感覚はないですね。自分が本を出しているとか連載を持っているとか、そんな人生になるとは全く予想してなくて、今でも不思議な感覚です。
でも、肩書問題はあるんですよ。「ライターです」と名乗っても、どんな仕事をしているのか説明していくと「ライターではないですよね?」と言われてしまうし。では作家かというと、ミステリーや純文学を書いているわけでもない。もっと企画性の強いものを書いています。
―― 作家の正確な定義は分かりませんが、確かに「『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』の著者です」と言っても“作家っぽさ”は弱いかもしれませんね。
最近は、自分の仕事を説明するときは「フリーランス」と書いています。すごくふわっとしてますけど、フリーで文章を作ってるだけなので。
「何百万部も売れてドラマ化、アニメ化、映画化したら、また引きこもってもいいかな」
―― 普段、周囲から聞かれがちなことはありますか?
聞かれがちなこと……。「どうやって食ってるんですか?」と聞かれますね。
―― どストレート。
で、「まあ何とか食えてます」みたいな。
―― おお、そうなんですね。
うん……そう……。いや、こうして生活はできているので、何とかなっていると言えばなっているし、なっていないと言えばなっていないんですが。
ざっくりした僕の計算なんですが、本って、100万部売れると著者に1億円くらい入るんですよ。つまり、本を出す仕事をしているなら、10年に1回ミリオンセラーを出せば全ての帳尻が合うんです。
―― 「合わなかったらどうしよう」という不安はないですか?
ないですね。できなくても大丈夫だろうと思ってます。そうなったらそれはそれで、別のことをやります。人生1回きりなんだから何が起きてもいいでしょ、と。
もしも人生が何回もあるなら、「AとBを両方やった結果、Aの方が絶対にいい」と思うかもしれませんけど、人生が1回しかないんだったら、そういう比較はできないわけじゃないですか。
だったら、自分の人生で何が起きてもいいんじゃないか、と思っています。
―― 1つの人生の中で「過去のこれは嫌だった。未来でもう一回起きたら嫌だなあ」というのもない?
ないですね。いや、あるか? ……うーん、あんまり考えたことがないですね。
――「何が起きてもいい」という考え方になったのはいつからでしょうか?
引きこもりを経験してからですかね。めちゃめちゃ楽しかったんですよ。あれは最高でした。
自分の書いた本が何百万部も売れてドラマ化、アニメ化、映画化したら、また引きこもってもいいかなと思ってます。
―― 引きこもるには、成功が必要なんですか?
例えば、もしも今の僕がジョージ・ルーカスと対談になったら「僕みたいなものがすみません」と、すごく下から行くことになると思います。そうではなくて「やあ、最近どう?」と言えるようになりたい、というか。
本当に対等になることは不可能だとしても、卑屈にならずに関係性を持てるようになりたい、という気持ちがあります。
今の自分の状態だと「まだ水野さんには会えないな」と思っているんですよね。
―― 自分の人生に影響した人と胸を張って会えるようになりたい、というか。
昔の話になるんですが、引きこもり時代に初めて水野さんとお会いしたとき「お前は危険そうだ。俺は会わない」みたいに言われたことがあって。
―― 危険……というのは?
自分に何か危害を加えるんじゃないかとか、そういうことですよね。
―― ……その後、「まず大学に行って普通になるんだ」と助言されていることを考えると、よっぽど“普通ではない”というか、尋常ならざる者と思われてたんですかね。
でも、これから活動していくなかで、自分の書いた本が国民的にヒットすれば言えるわけです。「あ、水野さんも最新作100万部いったんですか、映画化ですか」みたいに。
―― 「僕もですよ」と。
それが自分の原動力かもしれません。
おわりに:菊池さんから見た“ヘンな人”
―― 本日はありがとうございました。最後に、菊池さんが思う“ヘンな人”を紹介してもらってもいいですか?
うーん、誰だろう。わりと商業的にまとまってる人もいますが……。
―― 仕事柄、「ヘンであることがむしろ普通」的なところもあるでしょうから難しいかもしれませんが……。
あ、おぱんぽんさんはどうでしょう。「白米しか食べずに生活する」とか「日本縦断マラソン」とか、おかしなことやっていますよ。最近だと「プロテイン1カ月生活」。
―― 大丈夫なんですか、プロテインだけの食生活って。
ガチで体に悪いと思いますけど……。会社員だから、たぶん普通に働きながらこういうことをやってるんですよね。大丈夫なのかな。
あと、現在は“芸術家が作った公園のアスレチックみたいな家”に住んでいます。平たんな床がほとんどなくて、丸かったり、坂になっていたり、アリジゴクみたいになっていたり。ジャングルジムみたいな感じです。
キッチンだけが平たんで、そこに寝袋を敷いて寝ているとか。
―― 一般的な家の概念から遠過ぎて、まったくイメージが湧きませんが……。
とにかくまあ、そういうヘンな家があって、そこにおじさん3人で住んでいる方です。
まあ、一番ヘンなのは「こんなにヘンなことをしているのに、あんまり知られていない」ということですね。
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