連載
» 2020年11月22日 21時00分 公開

意味がわかると怖い話:「ミサキの悪夢」(1/2 ページ)

謎の女がささやく名前は……。

[白樺香澄,ねとらぼ]

 ひとたび気づくと、なにやら違う光景が見えてくる……「意味がわかると怖い」ショートストーリーを紹介する連載です。

意味怖

「ミサキの悪夢」

大手掲示板サイトへの書き込み

169:ミサキの悪夢1/4:2014/05/03(土) 20:37:34.51 ID: 3dQbEzd1

 最初にあの女の夢を見たのは、小学2年の夏休みだった。

 夜中、寝苦しさに目を覚ますと、背の高い真っ黒な影が自分を見おろしていることに気づいた。ガリガリに痩せた髪の長い女で、僕が声を上げるより前に、ゴキリと折れるような勢いで腰を曲げて顔を近づけてきた。

「ヒロカズくん」

 女は僕の耳元でそう囁き――そこで本当に目が覚めた。

 ヒロカズは同級生で、家が近かったため幼稚園に上がる前からよく遊んでいた友達だったが、夏休みに入る前から喘息が悪化して入院していた。

 ヒロカズが肺炎で死んだと母から聞かされたのは、翌日の夕方のことだった。

 二度目は高校に上がった年の秋だ。同じように真夜中に目が覚め、気づくとあのガリガリの女が覗き込んでいて……次は「イシイ先生」。担任教師の名前だった。

 翌朝、イシイは学校に来なかった。朝のホームルームで学年主任から彼が交通事故に遭ったと伝えられ、その午後には訃報がもたらされた。

 イシイは穏やかな定年間近の数学教師で、僕は割と好きだった。ヒロカズの時ほどでないにせよショックだったし、あの女が不気味でならなかった。長く入院していたヒロカズと違って偶然の事故だったから、「相手を心配していたからそんな夢を見たのだ」と説明することもできない。

 人の死が関わることだけに、友人に話すのは不謹慎に思えて躊躇われた。考えて、ここに投稿してみることにした。今も昔もやってることは同じってわけだ。

170:ミサキの悪夢2/4:2014/05/03(土) 20:39:56.11 ID: 3dQbEzd1

 すると、レスを返してくれる人がいた。

>ミサキの一種かもしれませんね。各地に伝承がある、死神のようなものです。

>何かの条件の下、決まった人数(高知の七人ミサキなど、「7」と言われることが多いです)

>を憑り殺さないと成仏できない亡者だと説明されます。

 僕はすぐに詳細を求める返信をした。レスはすぐについた。

>想像ですが、その女はあなたやあなたの家系に関わる誰かの霊で、あなたの周りの人を

>殺すことが成仏する条件なのかもしれません。

>ただ、誰の命を奪うかを予告してくるなら、それを防ぐことも可能だと思います。

 彼(か彼女、か知らないが)の投稿を見て調べると、確かに僕の地元にも「ミサキ」の伝承はあって、「特定の一族に憑き、その家族や周囲の人間を3人、殺すまで祟り続けるとされる」という説明がなされていた。

 予告があるなら、周りの人間が殺されるのを防げるかも――それを試す機会は幸いなことに、しばらく訪れなかった。

171:ミサキの悪夢3/4:2014/05/03(土) 20:42:00.38 ID: 3dQbEzd1

 次に女の夢を見たのはイシイの時から10年も経った、2年前のことだった。

 夢の中で僕は実家のベッドにいた。あのガリガリの女が、暗闇の中で僕を見おろしている。女は巨躯を折り曲げ、僕の耳元に口を寄せる。

「モトキさん」

 僕は飛び起きた。実家を出て4年も暮らす、見慣れたマンションの壁が目に入った。

 モトキ――それは僕の名前だった。

 朝一で勤め先に電話を入れ、体調不良で休むと伝えた。有休が溜まっていたのは幸いだった。 夜のニュースで、会社の最寄り駅のすぐそばで3人が刺される通り魔事件があったことを知り、僕は胸を撫で下ろした。

 次はその半年後だった。夢の女はまた「モトキさん」と言った。女は僕自身を3人目とさだめ、どうしても殺すつもりらしい。

 日曜だったので、友人との飲みの約束を別日にずらしてもらうだけで済んだ。2日後、その友人から「行くはずだった飲み屋、あの夜トラックが突っ込む大事故があったらしいぞ」と言われ、僕は安堵すると同時に暗澹(あんたん)たる気持ちになった。いつまで逃げられるか……僕は意を決して、ネットで調べた霊能者に相談に行くことにした。

172:ミサキの悪夢4/4:2014/05/03(土) 20:44:44.99 ID: 3dQbEzd1

 銀座の一等地に事務所を構えるその中年男性は、恰幅の良い体を高価そうな着物で固めていて、相撲部屋の親方のようだった。

 霊視だと言い、僕の額に手をかざした男性はしばらく何事か口の中でぶつぶつ呟いていたが、首をひねって、

「確かに、おっしゃるような霊が憑いているのは間違いありません。ただ……私にはどうも、そんな悪いモノとは思えないのですよ」

「悪いモノとは思えない、って。僕はもう2回も殺されかけたんですよ?」

 思わず声を荒げてしまった。押し問答の末、彼は不承不承といった様子で除霊の儀式をしてくれた。……といっても、文字をしたためたお札を燃やし、その灰を水――聖水と呼んでいたが、カルキ臭い水道水としか思えなかった――に溶かして飲むというだけの、あっけないものだった。謝礼も、一晩飲んだら消えるほどの金額しか請求されなかった。

 その晩、女の夢を見た。女は真っ暗な闇の中に立っていて、白目のない真っ黒な眼球で僕をじっと見つめていた。僕の名も、他の誰の名前も告げられることはなかった。

 夢から醒めて、僕は解放されたのだと悟った。それから1年半、女の夢は見ていない。

 なんとなく誰かに聞いてもらいたくなって投下した。スレ汚しだったら申し訳ない。

【2日後の朝刊記事】

――××市で交通事故 自転車の男性が死亡

五月四日夕方、××市の県道で乗用車と自転車が衝突する事故があり、自転車に乗っていた男性が死亡した。

四日午後五時四十分ごろ、××市×××町の県道で、△△市方面に向かって走行していた普通乗用車が、信号機がある横断歩道を渡っていた自転車と衝突した。この事故で自転車に乗っていた××市の会社員・信濃基紀(しなのもとき)さん二十八歳が、病院に搬送されたが頭などを強く打ちその後死亡が確認された。乗用車を運転していた七十代の女性にはケガはなかった。警察では女性から話を聞くなどして詳しい事故原因を調べている。

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