騒音おばさんがモチーフの映画「ミセス・ノイズィ」がまさかの大傑作だった(2/3 ページ)

» 2020年12月06日 11時30分 公開
[ヒナタカねとらぼ]

 SNS炎上およびメディアリンチの側面は、主人公がお隣さんの嫌がらせを題材とした小説を書き始めたこととも絡み、さらに加速していく。いったん膨らんでしまった悪意がさらに増幅していき、もう後戻りができない事態になっていくのだ。

 構想に3年をかけ、本作のオリジナル脚本を執筆した天野千尋監督(共同脚本は松枝佳紀)は、本作で描いた“SNSの暴力性”についてこう語っている。「個々人が気ままに発する無数のつぶやきが、時にものすごい凶器となって人に襲いかかったり、本人の意図しない形で広がったりする。それは人を傷つけることもあれあれば、自分に跳ね返って傷つくこともあります」と。

 そうなのだ。SNSで何げなく発信した、しかし攻撃性のある言葉は、「人を呪わば穴二つ」になりかねない。誰しもが陥りかねないその事態の恐ろしさを、強烈な展開でもって教えてくれる本作は、何よりの教材となるだろう。

騒音おばさんがモチーフの映画「ミセス・ノイズィ」がまさかの大傑作だった理由 (C)「ミセス・ノイズィ」製作委員会

4:「正しさ」があるかからこその争い

 本作のテーマについて、天野千尋監督は“「正しさ」について考えること”にもある、と語っている。その背景には「争いごとが絶えない根本は、正しさが1つではなく、立場や思想によって異なるから。だから私たちは、自分が正しさを貫くだけだけでなく、相手の正しさにも目を向けることが必要」との思いがあるという。

 そうなのだ。争いごとにおいて、自分が間違っていると思って戦っている人はほとんどいないだろう。自分の正しさを信じて戦っているからこそ、重要なことが見えなくなっていたり、過ちを犯してしまうことも、誰かを深く傷つけてしまうこともあるはずだ。

 そうならないために必要なことの1つが、「なぜ相手がそのことを正しいと思っているのか」と想像することなのではないだろうか。本作はとある巧みな語り口をもって、間違いを犯さないために何ができるのか、もしも間違いを犯してしまった時にどうすれば良いのか、その答えを提示してくれている。

 本作は「お隣さんとのバトル」という発端こそミニマムな物語ながら、SNSの問題に限らない、この世に偏在する全ての「争い」に通ずる寓話になっている。コメディー、ホラー、サスペンスと来て、さらに学びの多いヒューマンドラマに発展する点でも、大きな感動がある。

騒音おばさんがモチーフの映画「ミセス・ノイズィ」がまさかの大傑作だった理由 (C)「ミセス・ノイズィ」製作委員会

5:まとめ(ネタバレが厳禁な真の理由)

 この「ミセス・ノイズィ」は俳優陣の演技も実に素晴らしい。主演の篠原ゆき子の“普通の女性”からにじみ出る倦怠感や怒りの感情は文句のつけようがないし、強烈なお隣さんを演じた大高洋子は個性派俳優として大きな話題になりそうなハマりっぷり。その他の脇を固める面々に至るまで、本当にこういう人はいそう(いる)と思える実在感があるからこそ、本作の物語は真に迫ったものとして感じられるはずだ。

 そして、本作のネタバレが厳禁である理由は、物語中のとある“構造”にこそある。それ自体は名作とされる映画でもよくあるものなのだが、この「ミセス・ノイズィ」においては前述した「争い」および「正しさ」という普遍的なテーマと密接に絡んでいるという点で重要だ。その構造を用いて物語を描いた理由が、「ある瞬間」ではっきりと分かった時、筆者は嗚咽するほどに涙したのだ。

 ぜひ、本作を見終わった後は、自身の行いにフィードバックして、考えてみてほしい。「自分も正しさを信じすぎて、何かを見誤っていないか、争いの中で誰かを傷つけてやしないか……?」と、きっと襟を正すことができるだろう。

ヒナタカ

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