名作『オホーツクに消ゆ』×JR北海道「流氷物語号」 奇跡のコラボができるまで:月刊乗り鉄話題(2020年12月版)(4/4 ページ)
テーマは殺人事件だけど大丈夫か? その問いへの明快な回答が「オホーツクに消ゆ」にある
石黒さん(きっかけになった北海道新聞のコラム著者)は「MOTレール倶楽部」の活動でJR北海道や網走市など沿線自治体と信頼関係を築いてきました。私とつながった時点から、JR北海道、網走市にコラボ企画を相談してきました。
始めはどちらも半信半疑だったようです。しかし、堀井氏、荒井氏、KADOKAWA青柳氏の許諾を伝えたことで私たちのホンキが伝わりました。
JR北海道からは列車に装飾ヘッドマークや装飾サボ(サイドボード:行先表示版)の取り付け許可をいただきました。「流氷物語号」のパンフレットなどにコラボ内容を盛り込んでくださるとのこと。網走市も北海道へ「地域づくり総合交付金」を申請し、イベント開催費用などを応援していただけるとのことです。
このコラボに対する反対意見はありませんでした。しかし、地元からは「殺人事件のゲームのコラボはマイナスイメージにならないか?」という意見があったそうです。そう、すっかり忘れていました。というより、うすうす感じていたことです。オホーツクに消ゆというゲームの正式タイトルは『北海道連鎖殺人 オホーツクに消ゆ』です。
しかし、この問いについて私には明確な答えがあります。このゲームのテーマは「殺人」ではありません。幸福を求めつつ、殺人にたどり着いてしまった人々の「悲哀」です。だからこそプレイヤーは登場人物に感情移入し、その足跡に思いを寄せます。悲しみ、恨みの向こうにある人生の真実を探しに行く物語です。ラストは明るい未来の予感で終わります。『北海道連鎖殺人 オホーツクに消ゆ』はそんなゲームでした。
例えるなら、松本清張原作の映画『砂の器』や『ゼロの焦点』のロケ地を訪ねるようなものです。トラベルミステリーとして、内田康夫原作の浅見光彦シリーズのドラマの数々も旅情を刺激します。特に映画にもなった『天河伝説殺人事件』の天河神社はまさに殺人現場でした。でも、浅見光彦ファンにとってここは聖地の1つ。西村京太郎さんも小説の中で、全国の鉄道で事件を起こしています。
いずれも第一級の人気があり、読者やドラマ視聴者の旅情を誘います。ゲームにもアニメにも文学作品や映画と同様のコンテンツツーリズムがあります。殺人事件は例外ではありません。『北海道連鎖殺人 オホーツクに消ゆ』は、日本のゲーム史において名作文学に匹敵する作品です。
アドベンチャーゲームのブーム再来かも?
『オホーツクに消ゆ』は30年以上も前の作品です。なぜコラボの題材として魅力的だと思ったのか。その理由として、最近『オホーツクに消ゆ』をリスペクトするゲームがいくつか登場しています。
前出の樋口浩路さんの作品『にいがた歴史観光科学とかのミステリーアドベンチャー』は、もともと特定非営利活動法人 にいがたデジタルコンテンツ推進協議会が開催した「にいがたデジコングランプリ 2018」の応募作品でした。アプリの部グランプリを獲得した『新潟歴史観光科学ミステリーツアー〜大河の妃密〜』をリファインしたゲームです。
2019年1月にはNintendo Switch用ゲーム『伊勢志摩ミステリー案内 偽りの黒真珠』が発売されました。制作はハッピーミール、販売はフライハイワークス。レトロスタイル旅情ミステリーアドベンチャーとして、荒井清和さんを起用し、あえてファミコン風のドット絵としました。『オホーツクに消ゆ』のオマージュ的作品になっています。現在はPCやプレイステーション 4にも移植されています。
そして第2弾『秋田・男鹿ミステリー案内 凍える銀鈴花』も2020年12月24日の配信開始が決定しました。
これらの作品は『オホーツクに消ゆ』のファン層を掘り起こしました。だからこそ原点を懐かしく思う人々に「流氷物語号×オホーツクに消ゆ」は楽しんでいただけると思います。コラボに関係なく「流氷物語号」に乗車される方も、この地を舞台にした名作があることを知れば、釧網線沿線を旅して良かったと重ねて思っていただけるでしょう。
また、この旅で初めて『オホーツクに消ゆ』と出会う人々のために、ファミコン版『オホーツクに消ゆ』が最新機ハードで復活してくれたらいいなあ。映画やドラマになったらいいなあ。登場人物の何人かが再登場する続編『オホーツクに消ゆ2』が出たらいいなぁ。などと願わずにはいられません。
今回のコラボが、『オホーツクに消ゆ』をはじめ、ミステリーアドベンチャーゲームブーム再来のきっかけにもなったらうれしいです。
「流氷物語号」×『オホーツクに消ゆ』については、今後、JR北海道の「流氷物語号公式サイト」や、MOTレール倶楽部のFacebookページで情報発信される予定です。2021年2月27日〜28日にはロケ地を巡るファンミーティングが開催される予定になっています。こちらも期待してください。
堀井雄二さんからのメッセージ
『オホーツクに消ゆ』を作るにあたって、釧路から北浜、網走まで実際に足を延ばして取材しました。当時、ゲームを作るにあたってロケハンまですることは稀で、その様子を記事にして『ログイン』に掲載したのでした。
現地の光景を見ながら、ここはどういうふうに使おうかなど、あれこれ想像するのは楽しい作業でした。また、取材の途中で食べた蟹がすごく美味しかったことも記憶しています。
あれから30年以上、実際の列車とコラボし、それが走るなんて、とても感激です。どんな旅になるのか? 今から楽しみにしています。
荒井清和さんからのメッセージ
発売から30年以上経ってこのような企画が実現するのはすごいですね。時を越えたロマンを感じます。ゲーム発売当時とは描き方が多少は変わりましたが、真紀子の純粋なかわいさ、めぐみの小悪魔っぽさ、シュンの真っ直ぐさが出るように描かせていただきました。ぜひ彼らとともに旅情を満喫していただければと思います。
杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてPC雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。鉄旅オブザイヤー選考委員。ITmedia ビジネスオンラインで「週刊鉄道経済」連載。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。JR路線の完乗率は100%、日本鉄道全路線の完乗率は99.69%(2020年10月時点)
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