現実の「将棋電王戦FINAL」に着想を得た映画「AWAKE」 モヤモヤが残る対局に付けたもう1つの“決着”(3/4 ページ)
さらに、山田篤宏監督は劇中に大きく登場する3回の対局の描き方に、明確なバリエーションをつけている。具体的には、最初の子ども同士の対局は「役者の顔と盤面を交互に映す」という従来の将棋の映画と同様の演出をしている。これにより、盤面の状況を映しながらも役者の表情を捉えることで、二重に勝負の優劣を示すことができている。
2つ目のタイトル戦(棋神戦)では、そのプロ棋士の対局と並列するように、AIと大学の将棋サークルとの対局もカットバックしながら描写している。さらに、そこに大盤解説場での棋士の解説の映像を挿入するという、テクニカルな編集がなされている。
そして、クライマックスの対局では、途中から「主人公であるはずの吉沢亮の顔がほとんど映らない」という演出をしている。これは、山田監督の「『顔勝負』にはしたくなかった」「最後の1手に見ている人たちの意識が向かうように計算していたから」という意向によるもの。役者の表情を映さなかったことで、むしろ最後の一手がどちらに転ぶのかが分からなくなる、緊張感のある演出になっているのだ。
このように、それぞれの対局でメリハリのある、工夫に工夫が凝らされた演出がされているため、全く飽きることがなく、将棋を知らなくても画(え)の力でも存分に楽しめるという、エンターテインメントとしての間口をさらに広げることに成功している。
クライマックスの対局は「将棋指しロボット」が1日しかレンタルできなかったこともあり、スケジュールがギチギチの中で急ピッチで撮影していたらしい。将棋中継の映像、天井からの画も必要だったため、そのカット数は膨大。撮影後にスタッフと役者たちはヘトヘトに疲れ果てていたのだとか。その苦労のかいのある白熱の対決の様子は、ぜひスクリーンで見届けてほしい。
4:吉沢亮の笑顔に注目!
本作は若手俳優陣の演技も実に素晴らしい。吉沢亮は自ら体重を増量し、姿勢や歩き方、夢中になると眼孔を大きく見開くなど、孤独だった元・棋士でありプログラマーの“変人”ぶりを見事に表現している。彼が時折見せる豊かな表情と、繊細なしぐさを見れば、その変人ぶりも含めて彼のことが大好きになれるはずだ。
対して、そのライバルとなる若葉竜也は、吉沢以上にセリフが少ないにもかかわらず、わずかな表情の変化、静かな佇まいなどで、天才としての孤独と葛藤を体現していた。彼は「指し手(駒を置くときの手つき)を完璧にする」という個人的な目標を掲げていたそうで、その努力は「本物のプロ棋士に見える」という形で結実していた。
その他、2人の主人公よりもクセの強い大学の先輩を、落合モトキが楽しそうに演じているのも見逃せない。「ムチャクチャな性格に見えるが、どこか憎めない」という彼の度が超えた変人っぷりが、より映画を豊かにしている。
さらなる注目は、主演の吉沢が「心からの笑顔を見せる瞬間」だ。というのも、山田監督は本作を「主人公が執着を捨てていく、徐々に人間になっていく物語でもある」と考え、最初のシーンからずっと吉沢に「笑わないで」という注文をしていたそうだ。そのため、大学生活のシーンなどで、吉沢は笑ったとしても、それは少し歪んだ笑顔になっている。
そんな吉沢演じる主人公が、どのような時に心からの笑顔を見せるのか……に注目してほしい。そこには、さらなる感動が、間違いなくある。
(ヒナタカ)
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