「PUI PUI モルカー」大ヒットの今こそ知るべき「ストップモーションアニメ」の世界 傑作8選+2本を紹介(2/3 ページ)
5:「リラックマとカオルさん」
OLの平凡な日常を描くNetflixオリジナルのアニメシリーズだ。癒やし系のほんわかした内容とおもいきや、アラサーの女性が社会人として世知がらさを感じたり、あるいは痛々しい行動を取ってしまったりする様がバラエティ豊かに映し出される。この「見た目はかわいいのに、ディテールが凝っていて、人間の悪意も噴出する」様は「PUI PUIモルカー」に通じている。
リラックマを「家の中で話し相手がいない孤独なOLのイマジナリーフレンド」と解釈すると、さらに切なくなれるだろう。そのリラックマの背中には、なぜか怪しいチャックがあったりもするというのも、なかなかにホラーだ。
6:「アリス(1988)」
チェコ出身のアニメーション作家ヤン・シュヴァンクマイエルの長編映画デビュー作だ。題材としているのは言わずと知れた「不思議の国のアリス」であるが、ディズニーアニメ版とは似ても似つかないほどにグロテクスで不気味。何しろ、時計を持って急いでいる白ウサギからして、お腹から“中身”をポロポロと出していて、見た目もリアルな剥製のウサギでかわいらしさのかけらもないのだから。
「お誕生日会」のシーンに至っては、もはや「悪魔のいけにえ」のような恐ろしさに満ちている。「不思議の国のアリス」にもともとあった支離滅裂さや意味不明さが、そのままでホラーになり得ることを証明した、稀有な作品だ。現在はAmazonプライムビデオやU-NEXTで見放題である。
7:「キング・コング(1933)」
モンスター映画の金字塔と呼ぶべき同作では、今のような特撮技術やCGなどがない時代だからこそ、ストップモーションアニメが使われている。このキングコングは、悪い言い方をすれば「カクカクと動いている」ことこそが、不思議なことに怖い。前述の「ちえりとチェリー」や「アリス」もそうなのだがストップモーションという手法そのものが、恐怖を呼び起こす理由になっているのだ。
話運びも起承転結がしっかりしており、独善的な人間の愚かさも存分に作劇に表れている。古い白黒の映画だからと侮らずに見てほしい。現在はAmazonプライムビデオやU-NEXTで見放題である。
8:「ぼくの名前はズッキーニ」
両親の元で暮らすことができない、施設に住むワケありの子どもたちの姿を追った映画だ。人形でできたキャラクターそれぞれはかわいらしいと同時に目の周りに“クマ”があるデザインであるため、その過酷な境遇が際立つようになっている。
主人公のあだ名であるズッキーニは“石頭”や“のろま”という意味も含んでいる。その親からのほぼ悪口でもあった呼び名を、主人公が大切にしているというのがまた切ない。大人こそが、子どもとの接し方、気付きにくい子どもの価値観を知れるだろう。現在はU-NEXTで見放題である。
おまけその1:「バンブルビー」
映画「トランスフォーマー」シリーズのスピンオフ作品だ。なぜ3DCGを駆使した同作を紹介するのかというと、「PUI PUI モルカー」第2話の冒頭に本作のパロディーと思しきポスターが登場するからである(タイトルは「MOLFORMERS」になっていた)。
こちらも相棒となるクルマがとにかく愛らしい作品で、監督は前述のストップモーションアニメ「KUBO」のトラヴィス・ナイト。先人へのリスペクトという意味で、このパロディーを登場させたのだろう。
「バンブルビー」は現在Amazonプライムビデオで見放題である。ちなみに、「PUI PUI モルカー」の見里監督も「KUBO」を始めとしたライカ作品の大ファンであり、「コララインとボタンの魔女」が自身の創作のきっかけになったと語っている他、その最新作の「ミッシング・リンク 英国紳士と秘密の相棒」では推薦コメントを寄せている。
おまけその2:「くまのアーネストおじさんとセレスティーヌ」
「PUI PUI モルカー」は「1話も2話も警察沙汰」ということでも話題になった。人間の悪事もあってモルカーのけなげさやかわいらしさがより際立つのだが、この手描きタッチのアニメ映画「くまのアーネストおじさんとセレスティーヌ」で犯罪行為をしでかし、警察から追われることになるのは主人公のおじさんと少女のコンビである。
ほんわかした見た目に反して、まるで「レオン」のようなハードボイルドな逃走劇。当時(フランスでの公開は2012年)のフランスの世相を反映して、困窮状態に陥った庶民の心境をつづっているように見えるのも興味深い。現在はU-NEXTで見放題である。
まとめ:ストップモーションはホラーになる?
ストップモーションアニメ作品で興味深いのは、意外にもホラーとの相性が良いことだ。前述した通り「ちえりとチェリー」には大人が見ても本気で怖いホラー描写があるし、「アリス」は全方位的に不気味だし、「キング・コング」はカクカクした動きこそが恐ろしい。これもまた、現実にある“もの“を撮影した、実在感があるからこその怖さだろう。
「PUI PUI モルカー」の見里監督も、実は過去にはほぼほぼホラーといえる作品を手掛けている。例えば、公式にYouTubeで配信されている短編「あたしだけをみて」では、独占欲の強い彼女におびえる男性の心境をつづった内容に思えるようで、後半では「実はこうだった」どんでん返しがあり、それにまた戦慄する内容になっていた。しかも、モルモットらしい小動物がひどい目に遭うシーンもある。
そして、現在は本編が配信されていないが、同じく見里監督作「マイリトルゴート」も実に恐ろしい内容だった。ベースとなっているのは童話「オオカミと7匹の子ヤギ」で、「もしもオオカミの胃袋の中で子ヤギたちの消化活動が始まっていたら」と想像したことから創作を始めたというのがまず凶悪だ。実際の本編でも、「大人にだけ意味が分かる」形で、おぞましい「ある事実」を示していたため、心から良い意味でイヤな気分になれた。
これらに比べると「PUI PUI モルカー」は楽しげな作品だが、人間の悪意こそが恐ろしいと示している、「実は怖い」内容も兼ね備えている。以上にあげたストップモーションアニメ作品を見れば、さらにその怖さの理由の一端が分かるのではないだろうか。
そして、これから日本でもストップモーションアニメがもっと注目されてほしいと願うばかりだ。見里監督や「ちえりとチェリー」の中村誠監督の他にも、今はTwitterで多数のコマ撮りアニメの投稿で注目されている篠原健太(マンガ家の方とは別人)もいる。ぜひ、その創作活動を追ってみてほしい。
(ヒナタカ)
参考:1月放送開始!注目のパペットアニメ「PUI PUI モルカー」と監督・見里朝希の世界 - YouTube
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