ジッパーを閉める音で体が固まる 東日本大震災被災者に聞く“10年たった今なお続くトラウマ”(2/2 ページ)
避難所滞在、仙台市外で働いていた家族と合流
初日に避難所で配られたのは水でふやかしたアルファ米(※5)の塩おにぎりと緊急用の水で、米がゴチゴチに硬かったのを覚えています。家族分の配給は無かったので、分けて食べました。
避難先は母校の小学校でしたが、見事に校舎がひび割れており、近づくと危険とアナウンスがありました。また、「どこの地域が津波でやられた」「あそこはだめだ」「どこのコンビナートが燃えている」とたくさんの情報がうわさとして回ってきました。
津波に直接襲われた地域ではありませんでしたが、夜に外を見ると空襲のように燃える空が見えました。たぶんコンビナートの火災(?)が見えていたのだと思います(※6)。
その後父、兄もなんとか合流し、兄は「地震で近くの住宅の玄関が吹き飛んだのを見た」と、父は「迫る津波を見た」と話していました。
父は帰りになんとかコンビニに寄れたらしく、「暗い中わけも分からず手に取って買ってきたんだ」と差し出されたコンビニ袋には、おにぎりや栄養ドリンクが入っていました。もちろんレジは止まっていたそうなので、会計は「大体でいい」と言われたそうです。
※5:アルファ化米(アルファ米とも呼ばれる)とは、炊くなどした米に乾燥処理を行ったもの。お湯や水で戻すことができ、非常食などとして用いられている
※6:投稿者いわく「コンビナート火災の件ですが、どこのコンビナートが燃えたのか覚えておらず……。たぶん仙台港の方かなとは思うのですが、空が真っ赤だったことばかり印象に残っています」とのこと。位置、時間帯から考えると、仙台製油所での火災(仙台湾に面しており、3月11日午後9時20分ごろに発生したとされる)かもしれない。この火災では、同市内やその付近で勤務していた消防職員も同様の記録を残している。「(仙台市内の消防署の屋上から)大きく赤々と立ち上る火煙を確認した」「炎は停電し灯りの無い夜空を赤く不気味に照らしていた」(東日本大震災関連情報 4.7 石油コンビナート災害に対する活動より)
本震から数日後:避難所を出たあとの生活
私たちが避難所から出たのはそれから3日後になります(※7)。
スーパーはなかなか復活せず、体力のある私と父、兄が調達に出ました。3月とは思えない雪の降る中、父と2人で「おひとりさま3点」と書かれたスーパー前で待機しました。時間にして2〜3時間、それが終わるとまた別のスーパーに行きました。
それでもなかなかすぐに食べられるような食事は手に入らず苦労しましたが、我が家はプロパンガスだったため、なんとか調理できました。電気の復旧も、その翌日深夜だった気がします。
電気が復旧すると火災が発生することもあるため、避難所にいる人たちに原付で知らせにいきました。「私たちの住んでいる地域は電気がついたので、その地域の人は火災が起こる可能性がある」(※8)と。また、高台を超えた向こうの地域ではガス漏れが発生していて、異様な空気が漂っていました。
低い気温の中、そうやって続けて食糧を調達しに出ていたせいか、私は40度近い高熱を出して寝込んでしまいました。ニュースを見ると原発についての報道や津波、避難所の情報。何も考えられませんでした。
※7:避難所にいたころは「絶えずアンパンマンの曲が流れており、テレビではACのCMが流れていました。『どこの地区で数百の水死体が浮いているのを確認した』『父の知り合いが子どもと一緒に車で流されて亡くなっていた』など、ショックなニュースが続きました」とのこと
※8:停電からの復旧時に発生する火災は「通電火災」と呼ばれている。電気機器の転倒、配線の破損などによって起こる可能性があり、「(停電時に)避難するときは、必ず電気のブレーカーを落として」と呼び掛けている自治体も
本震1カ月後以降
家が片付き、食糧の調達も困らずに暮らせるようになるまで、1カ月以上かかったのではと思います。
中学時代の夏期講習会で知り合った友人が亡くなっていたり、お世話になった別の高校の先輩が亡くなっていたり、ショックな報告は何カ月たっても続きました。
主要な道路はすぐに修復されましたが、私たちの住む住宅街のひび割れや隆起はしばらく放置されました。津波の地域やそれに近い避難所に救援が行っていましたし、実際その地域のほうが大変だったため、当然だと思います。
ただ、市街地の住民も家の倒壊で避難し、仮設住宅に移った人たちが大勢いました。
現在も続くトラウマ
ーー 元のような生活に戻るまでに一番大変だったことは何でしょうか?
これはいろいろありますが、一番はトラウマを負ったことです。
携帯やテレビの緊急地震速報の音を聞くだけで体が震えますし、それに近い音……ジッパーをギュッと閉める音、カッパの衣擦れの音、ホントになんで? と笑う人もいるかもしれませんが、近しい音を聞くだけで体が固まってしまいます。
子どもも地震速報の真似や、避難訓練のアナウンスの真似をすることがありますが、そのたびに理由を話してやめてほしいと伝えています(警報音は効果があると思うので、これは仕方がないことだと理解しています)。
ーー それは現在(取材した2020年11月時点)も続いているのでしょうか?
体が震えたり、固まったりしてしまうのは現在もあります。同じく被災した姉も同様のようです。
今は地元を離れて東京にいますが、自宅近くに行くたび、補装の跡のある地面を見つけては当時のことを思い出しています。
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