映像制作経験のない監督が7年かけ作り上げたヤバい映画「JUNK HEAD」レビュー(1/3 ページ)
製作期間7年のストップモーションアニメ映画「JUNK HEAD」のヤバさと魅力を語る。
映画「JUNK HEAD ジャンク・ヘッド」が3月26日より公開されている。パッと見のビジュアルで「なんだかヤバそうだ」と思った方は、大正解だ。本作は製作過程も内容も規格外の、狂気と独創性に満ち満ちた怪作だったのだから。
実際に、北米最大のジャンル映画祭の呼び声も高いファンタジア国際映画祭で最優秀長編アニメーション賞を受賞した他、「パシフィック・リム」のギレルモ・デル・トロ監督から「素晴らしい!狂った輝きを放ち、不滅の遺志と想像力が宿っている!」と賛辞を送られるなど、熱狂をもって迎えられている。さらなる魅力と、そのヤバさを以下にお伝えしよう。
「モルカー」と同様の超労作ストップモーションアニメ
この「JUNK HEAD」の最大の特徴は「ストップモーションアニメ」であることだ。それは、人形や小物を撮影して少し動かしてまた撮影し、また少し動かして撮影し……という工程がひたすらに必要な、とんでもなく手間がかかる手法。本作ではその広いディストピアな世界観の構築のため、独特の精巧なセットも製作されている。
ご存じ、日本中で大ブームとなり、先日最終回に迎えた見里朝希監督の「PUI PUI モルカー」もストップモーションアニメだ。「モルカー」は1話につき3分に満たない短編ながら、それぞれかかった製作期間はおよそ1カ月、12話の合計で1年半を費やしていた。(余談ながら見里監督最新作の短編「Candy Caries」が最高なので全人類見てください)
そして、この「JUNK HEAD」の製作期間は、合計でなんと7年にも及ぶ。本職が内装業の堀貴秀監督は映像制作の経験がなかったのだが、独学で、しかもたった1人で制作を開始し、その結果、原案、絵コンテ、脚本、編集、撮影、演出、照明、アニメーター、デザイン、人形、セット、衣装、さらには映像効果や音楽までをも担当することになった(作曲家の近藤芳樹氏も劇伴音楽を担当している)。
しかも、1人で4年かけてやっと完成したのは30分ほどの短編であり、その続きのための製作費をクラウドファンディングで募集したものの、思うように集まらず失敗。その後、国内企業からの出資により数人のスタッフを雇えたものの、朝7時から夜11時まで2年間ほぼ休み無しという状態が続いたという。
結果として、長編の「JUNK HEAD」はシナリオ制作から3年後にやっと完成し、元の短編と合わせた総コマ数は約14万コマにまでのぼったという。
実際の本編を見れば、そのクリエイターの執念、血のにじむような努力は、きっと伝わる。個性豊かなキャラクターが滑らかに動き、あっと驚く迫力のカメラワークのアクションも繰り出され、時には今までに見たことのない光景も広がるのだから。
実際に「もの」として存在している人形やセットの「質感」や「実在感」は、絵として描かれた通常のアニメや、3DCGでは絶対に表現し得ないものでもある。なんとなく見ているだけではもったいない、「この一瞬一瞬にどれだけの膨大な作業があったのだろう」という想像も膨らむ、ぜいたくな映画体験が、そこにはある。
面白くて、グロい。そして、かわいい。
この「JUNK HEAD」をおすすめしたい理由は、単純明快なエンターテインメントとしての面白さにもある。「新種のウイルスのまん延のため絶滅の危機にある人類の1人が、人工生命体が住む広大な地下世界に潜入し、人類の再生の道を探る」というあらすじなのだが、かいつまんで言えば「主人公が一歩間違えば死ぬ場所でひたすらにひどい目に遭う」という内容でもある。ハラハラドキドキのアクションアドベンチャー、というよりも殺るか殺られるのか残酷サバイバル絵巻だったのだ。
グロテスクな化け物に襲われるのは序の口。流血沙汰や肉体損壊も「これがこの世界の日常茶飯事ですが何か?」という感じで起こりまくる。主人公は「ええっ!? そこまでイッちゃうの?」な状況に追い込まれ、ガチで希望が打ち砕かれたりもするので心から同情してしまう。
同じくストップモーションアニメの「PUI PUI モルカー」よりも、印象としては同監督の「マイリトルゴート」にも近いだろう。ギレルモ・デル・トロ監督が絶賛するのも納得で、主人公が孤独のままに美しくもグロテスクな世界を探検する様、また怪物の造形は「パンズ・ラビリンス」をほうふつともさせた。
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