開き直ったカップルが見せる“ループもの”の新たな地平 映画「パーム・スプリングス」レビュー(1/3 ページ)
コロナ禍の今だから余計に響くループもの。
4月9日より映画「パーム・スプリングス」が公開されている。公式サイトなどのビジュアルから「おしゃれでかわいい映画なんだろうな」と思っている方がいるかもしれないが、実際は「簡単には良い話にはしないぞ!」な皮肉と毒っ気あふれる、風変わりなループものだ。
ループものでは、主人公が同じ日(時間)を幾度となく繰り返しつつも、なんとかして解決策を探り、ループからの脱出と共に人生における学びを得るのがお決まりだ。この「パーム・スプリングス」でもそのツボを押さえているが、「ループに巻き込まれるのがカップル」であり、「めちゃくちゃな行動を繰り返しつつも最後はハートウォーミング」という風変わりな展開が魅力となっている。
米Rotten Tomatoesで95%の支持率を得ている本作には、コロナ禍で閉塞感を覚える今だからこそ、ループもので得られる学びと感動がつまっていた。ネタバレにならない範囲で、さらなる魅力を記していこう。
1:ループに巻き込まれるのがカップル
あらためて、あらすじを紹介しておこう。実在する砂漠の保養地パーム・スプリングスで、サラは妹の結婚式のスピーチに指名されてしまう。尻込みしているサラに代わってマイクを握ったのは、アロハシャツで短パン姿という浮いた格好をした男性のナイルズだった。サラはピンチを救ってくれたナイルズに興味を抱き、この場限りの関係を持とうとするが、そこで予期せぬ事態が訪れる……。
実は、このピンチを救ってくれたチャラい男性は、すでにループの中にとらわれており、数えきれないほど同じ日を繰り返している(だから良さげなスピーチができた)。そして、主人公の女性もまた「道連れ」のような形で、突如としてループに巻き込まれてしまうのである。
ループものでは「主人公ただ1人だけ」がループしていることに気付く、はたまたループを繰り返すうちに仲間を作るというパターンが多い。だが、この「パーム・スプリングス」では「1組のカップル」がループに巻き込まれてしまい、ほぼ2人だけが全編で七点八倒するのがユニークだ。その彼らのやりとりを見ているだけでも大いに楽しめるだろう。
2:「セッション」の鬼教師の衝撃
もちろん、同じ日を繰り返すという異常な状況で、2人がすんなりラブラブになるわけがない。サラは半ばヤケクソになり、運転する車を対向のトラックに突っ込ませるし(もちろんすぐにまた同じ日が始まる)、男性はこの状況を楽しむしかないという理由でヘラヘラするばかりでちっとも問題を深刻に考えない。
しかも、性の話題にもけっこうあけすけであり、PG12指定相当の下ネタもそれなりに出てきたりする。そもそも「よく分からないチャラ男といきなりタイムループに巻き込まれる」という出だしから意地が悪い(褒めてる)し、爽やかなイメージとは裏腹のブラックコメディーという対比も強烈だ。
そして、ループに閉じ込められたのが実はこの2人だけでなく、「もう1人いる」というのも混沌めいた展開へとつながっていく。しかも、そのもう1人を演じているのは、あの「セッション」の鬼教師役でアカデミー賞助演男優賞を受賞した名優J・K・シモンズなのだ。彼は「セッション」に続いてトラウマ級のキレ演技を披露しており、その瞬間最大風速な笑いを目当てに鑑賞するのもいいだろう。
3:まっとうなラブストーリー、そして人生賛歌へ
とはいえ、本作は悪意のあるギャグばかりというわけでもない。抱腹絶倒のブラックコメディーが、いつしかまっとうなラブストーリーへと転換していき、さらには人生賛歌へとつながっていくことには、大きな感動もある。
あけすけだった性の話題も後に伏線として回収されていくし、チャラく見えていたナイルズの「本質」を知っていくまでの過程はドラマとしても面白く、画的な意味でも「こんなの見たことない!」なロマンチックなシーンがある。果ては「人は何のために生きるのか?」という哲学も提示されるのだ。
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