隠れた傑作を探せ! Amazonプライムビデオに眠る「謎の映画」をたくさん見てみる(2/2 ページ)

» 2021年05月07日 20時30分 公開
[城戸ねとらぼ]
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「ウィリー 移動アイスクリーム屋の男」



 なんて語呂の悪い邦題でしょうか。アメリカ製の、こちらもサイコスリラーです。なんでかプライムビデオにはサイコスリラーが多いんですよね。まあ映画のサイコパスなんてほとんどキャラ芸みたいなもんですから、低予算映画は手が出しやすいのかもしれません。

あらすじ

 恋人のベンの浮気が発覚し、立ち直れないでいる主人公・ジョー。ベビーシッターのバイトをしている彼女は、妙な移動アイスクリーム屋の男に出会うが……。


 いやーこれ死ぬほどつまんなかったですよ。ちゃんと文章にする気も失せます。なんか、先ほどの「ブラック・スマイル」と同様に、演出はほとんど教科書通りというか、全然変なことをしないんですよ。ダサい演出は山ほどあるけど、別に間違ってはいないという。それなのにどうしてこんなにもつまらなくなるのか……たぶん脚本が壊滅的なんだと思うんだけど……いや脚本が悪いとかいう問題なのかなあ……?

 間違いなく言えるのは無駄なシーンがあまりに多すぎる事。おかげでこんな内容で100分オーバーですからね。いや、でも“無駄なシーン”って表現は適切じゃないかも。時間の進みが変というか、なんか人間が行動している感じがしないんですよ。

 主人公がまず意味わかんなくて、命を狙われる危険に遭った直後に友達とブランコで恋バナしてるんですよね。「誰かに見られてる……! 逃げなきゃ!」と友達を連れて逃げ出したかと思ったら、次のシーンではシャワーを浴びながら鼻唄を歌っていたりして、まあ凡百のB級ホラーならそれくらい笑って流せるんですけど、なんか演出だけはやたらに手慣れてるからすごく居心地が悪いんですよ……。一本一本に大して力を入れてない職人監督なのかなって思ったんだけど、これ初監督作らしいし。じゃあ演出が手慣れてるってのも気のせいなの? 俺の鑑賞能力が低いの? 何なの?

 低予算映画ならこんな感じでいろいろ破綻してしまうのも無理はないと思うんですが、でもヘリが出てくるんですよね……。マジのヘリコプターが出てくるんですよ……。しかも1.5秒間くらいのカットで。ふつう低予算映画にヘリコプターなんて登場しませんからね。低予算映画が1.5秒のためにヘリコプターを登場させるの意味わかんないですよ。本当に何なんでしょうねこの映画は……。



「ビューティフル・プリズン」



 アメリカ・メキシコ製のサスペンスドラマです。いかにもなタイトルと「未来をつかみ取れ!」というコピー。脱獄モノか何かでしょうか?

あらすじ

 幼い頃に虐待を受け、脳に障害を負っているベン。ある日、不慮の事故に遭ってしまうが、目覚めると超自然的な能力が備わっており……。


 ぜんぜん脱獄ではありませんでした。基本はサスペンスドラマですが、ミステリー、ホラー、ロマンスの要素もあり、いまいちジャンル分けの難しい作品。その多様さもあって見どころは多く、特筆すべきは映像表現でしょう。アマプラ謎映画にはやたら映像がキレイなものが多いんですが、中でも本作はトップクラス。1場面だけ切り取ってみれば、ハリウッドのメジャー映画だと言われてもおかしくないくらい画作りがうまいんですね。特に序盤のメキシコの工場のシーンはよく撮れていて、内容にも期待してしまいました。

 ですが作品全体としては「やりたいことはわかるんだけど」というのが率直な感想。ぶっちゃけミステリーとしては本当にありきたりで早々に察しがついてしまう。監督もそれは分かっていたようで、どんでん返し後にさらにもうひと展開つけることで、作品にしっかり個性を持たせてはいます。十分傑作になりえる土台だっただけに、もうちょっと脚本がしっかりしていれば……と非常にもったいない気持ちになりました。

 ネタバレ厳禁なお話なので多くは語れませんが、70分程度の尺でさくっと楽しめる映画なのは間違いないでしょう。これまで紹介してきた映画の中では別格レベルです。この監督、今後もしかしたら、もしかするかもしれません。

「ヘリテージ」



 アメリカはテキサス製の犯罪スリラーです。現代西部劇っぽいサムネイルにテンションが上がりますが、果たして内容は……?

あらすじ

 米・テキサス。借金の返済に追われるカウボーイ、ジェサップとミッチェルは、伝説のカウボーイマフィアが遺した8000万ドルの財産を手に入れるべく、隠し場所を聞き出そうと孫娘の住む屋敷に向かう。しかしその孫娘は声が出せず……。


 主人公たちは孫娘を尋問して筆談でコミュニケーションを図ろうとするのですが、彼女はひたすらに「そんな金は知らない」と突っぱね続けるという、まあ低予算犯罪映画にはよくある内容です。

 で、まあ毎回言ってますが、こちらも映像がかなり良い。明らかに低予算なのは見て分かるんですが、構図やカット割りなんかはもはや職人のそれ。いかにもテキサスな荒れ地の舞台はそれだけで映画を見ている気分になれるし、カウボーイを引退して背広で現代社会を生きると決めた男なんかも登場して、現代西部劇としてのお約束はきっちり守られている感じ。

 屋外でのシーンが多い前半部分はどうしても稚拙さを感じるんですが、強盗と被害者による心理戦に突入してからは(まあ心理戦というほど立派なもんでもないんですけど)、なかなか見応えのある感じ。「もしかしてアタリか!?」とさえ思ったんですが……。

 いや、まあ、悪い作品ではないんですよ。ただ、このジャンルは過去に死ぬほど作られてきて、何本か見たことがあればすぐに分かっちゃうようなオチだったなあ。だってヒロインの「喋れない」という設定が話を面白くするわけでもなく、明らかに浮いてるんで……。

 「似たような映画はたくさんある」なんてイチャモンをつけたくはありませんが、2020年制作の作品ですからねえ。もうちょっと捻りがあれば良作になりえる土台だっただけに、こちらも非常に惜しく感じてしまいました。

 でも本当に悪い映画じゃないし、83分と短いので暇つぶしに見るなら全然アリだと思います。少なくともストレスの溜まるような作品でないことは確かです。



「ブラッドパンチ タイムループの呪い」



 アメリカ製のホラーコメディで、またしてもループものですが、前述の「ハッピー・デス・デイ」よりは現在上映中の「パーム・スプリングス」風味を感じられる作品。

あらすじ

 薬物中毒のリハビリ施設で出会ったスカイラーという女性にそそのかされ、ドラッグの精製に手を染めることとなった主人公・ミルトン。スカイラーの彼氏であるラッセルの力を借りて施設を脱出する一行だったが、このラッセルという男はイカれた危険人物で……。


 序盤はテンポの良い犯罪コメディ風味なんですが、中盤から話がガラっとスイッチ。タイムループの渦に巻き込まれた3人の運命を、山小屋を舞台にユーモアを交えながらホラーチックに描いていく、いかにもインディーズっぽいB級映画です。

 で、これはもう「今までのやつ何だったんだよ」と思ってしまうほど別格の作品でした。いやーこれ面白かったなあ。

 極力ネタバレを避けたいので「彼らがタイムループに巻き込まれる」こと以外はバラさずにレビューをすると、とにかく全編センスが良いんですね。ユーモアひとつ取ってもそうだし、構図の取り方、伏線とその回収もスパっと手際が良く、それでいてポップ。エログロは抑えめなので、ホラーとしての盛り上がりに欠けるのは否めませんが、これは素直に脚本の面白さを楽しむだけで十分な作品でしょう。

 ただ、“面白い脚本”ではあるものの“上手な脚本”ではないことも言っておきたいところ。特にタイムループの謎については「何だそれ」と言ってしまうレベル。ただ、その「何だそれ」な設定が作品全体の雰囲気とマッチしていてまったく気にならない。稚拙さに作風で説得力を与えることができるってやっぱり才能、センスですよ。

 実はこの作品、数年前にホラーファンの間でちょっと話題になっていた「Bloodpunch」なんですね。まさかアマプラの謎映画として日本に上陸するとは思っていませんでしたが、とにかくサブスクの海に埋もれさせておくには惜しすぎる作品。「ハッピー・デス・デイ」の3年も前にこんな映画がつくられていた、ということだけでも、ぜひ知っておいてほしい作品です。オススメ!!!






 どこにも出掛けられず退屈なとき、思い出してください。「プライムビデオには訳のわからない映画がたくさんあるんだよなあ」と。だからといってどうにもなりませんが、外出自粛のお供にまだ見ぬB級映画の旅に出るのも悪くありません。

城戸

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