【知ってる?】初代ロマンスカーに「展望席」はなかった:月刊乗り鉄話題(2021年5月版) 「小田急ロマンスカー」まめ知識(1)(4/4 ページ)
【ロマンスカークイズ 3】小田急3000形の偉業とは?
- (A) スピードで世界最高記録を作った
- (B) 日本で最初に連接台車の実用化に成功した
- (C) 日本で初めて冷房装置を搭載した
【解答】スピードで「世界最高記録」を作った
正解は(A)「スピードで世界最高記録を作った」です。
小田急3000形は狭軌(国鉄の在来線規格)において、当時世界最高速度の時速145キロを達成しました。
世界の標準軌間は1435ミリで、これより狭い軌間を狭軌と言います。標準軌では既に時速300キロを超える記録が出ていました。狭軌は簡易な規格という考え方もあり、速度を求めていなかったのかもしれません。しかし日本では狭軌こそが標準幅でした。
この3000形が世界速度記録を作った場所、実は小田急線内ではありません。国鉄の東海道本線、函南〜沼津間でした。
このころは小田急も国鉄も高速列車の実現に向けて研究していました。東京(新宿)〜小田原間ではライバルの両社です。しかし、小田急取締役(当時、以下同)の山本利三郎氏と、国鉄の技師長で後に“東海道新幹線生みの親"となる島秀雄氏は友人でした。新幹線計画を進めていた島氏は、3000形の試験が新幹線車両開発に役立つと考えていました。
前代未聞の国鉄私鉄の共同実験が行われました。3000形の最高速度達成によって、国鉄が机上で組み上げた理論を実証しました。
これが従来の「特急は機関車と客車」という常識を覆します。「新幹線電車0系」の開発のきっかけとなるだけではなく、国鉄は151系「こだま」も誕生させました。3000形は「電車特急時代の幕」を開けた偉大な車両なのです。
(B)の連接台車とは、車両の連結部分に設置する台車のことです。
連接台車は1911年に英国の列車で採用、日本では1934年に京阪電鉄で採用されました。前述した小田急の山本利三郎氏はスペインの連接式客車特急「タルゴ」のような列車を電車で実現させたいと考えていました。山本氏は部下の生方氏を伴って、西日本鉄道の連接電車を視察したそうです。
連接台車方式にはメリットがたくさんあります。
- 連結器でつないだ車両より高速走行や曲線区間で安定する
- 連結部分に台車を置くことで客車の床を低くできる
- 車両全体の重心が下がる
- 客車と騒音源の台車を遠ざけて車内を静粛にできる
- 台車数が減るので列車全体の軽量化に貢献する
などです。これらの利点を重視して、ロマンスカーのほとんどは連接車体が採用されました。
(C)の冷房装置、実は登場時の3000形には冷房装置を搭載していませんでした。
それは、車体を航空機に由来するモノコック構造として軽量化したため「重い冷房装置を乗せられなかった」からです。そこで3000形の窓は少し開けられるようになっていました。後に、座席を撤去して床に装置を置くことで冷房を実現しました。
ロマンスカーまめ知識、まだまだありますよ! 次回は3100形から7000形時代のまめ知識をお届けします。お楽しみに。
杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてPC雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。鉄旅オブザイヤー選考委員。ITmedia ビジネスオンラインで「週刊鉄道経済」連載。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。日本鉄道全路線の完乗率は100%(2021年4月時点)
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