ソーシャルディスタンスの大切さが分かる「嫌になるほど密な閉鎖空間映画」6選 デスゲーム、刑務所、エレベーター、頼むから離れてくれ!
緊急事態宣言は終わったけれど「密が嫌になる映画」で気を引き締めましょう。
もう1年以上「3密」を守っているのかと思うと、我ながらよく我慢しているなと感心します。それまでの僕は“密閉・密集・密接”な週末を過ごすために生きていたと言っても過言ではありませんから、極力人との接触を避けなければならないこの状況がとにかくキツイ。
しかし耐えるしかないわけで、だったら家で映画を観ましょう。以前「家から出られなくてツラいなら、家に帰れなくてツラい人の映画を観よう」という企画もやりましたが、今回はその別パターン。「嫌になるほど密度の高い閉鎖空間映画」を紹介したいと思います。ソーシャルディスタンスって大事!
「12人の怒れる男」
いきなり超有名作ですが紹介しないわけにはいかないので……。映画史に輝くシチュエーションサスペンス。同作が制作された1957年以降、映画の撮影技術はめまぐるしい進化を続けていますが、一方で“脚本の面白さ”は何年たっても色あせないのだと分かります。会話劇の金字塔として幾多のリメイクやパロディが制作され、後世の映画監督たちに多大な影響を与えた偉大な一作。
父親殺しの罪で起訴された少年の裁判にて、彼が本当に有罪なのか12人の陪審員が話し合うシンプルなストーリー。にもかかわらず重厚なドラマが詰まった傑作ですが、ひとつ忘れてはならない重要な要素があります。本作、とにかく密です。
狭く蒸し暑い部屋の中に12人の男が集まり、だらだら汗をかきながらしゃべり倒しているのです。画面の向こうから眺めるぶんには大変面白いのですが、決して同席したくはありません。狭い部屋の中、体温の高い男が12人ひしめき合い、つばを飛ばして議論する様子は、「大丈夫か……?」と心配になること請け合いです。いや、当時は大丈夫だったんですけど。
気持ちのいい論破が見られますから、鬱屈としたストレスをスカッと解消したい方にもおすすめです。
「クライマックス」
ラース・フォン・トリアーと並び、おそらく世界で最も賛否両論を呼んだ鬼才ギャスパー・ノエの監督作。本作も相変わらず賛否両論ではありますが、しかし賛のほうが圧倒的に多かった印象の2018年制作のホラードラマです。
ある公演の稽古のため廃墟に集まった一流ダンサーたち。最後のリハーサルを終え打ち上げが始まると、ふるまわれたサングリアにLSDが混入していた……というお話。すばらしい技術を持ったダンサーたちが、心身ともに制御を失っていき、ついには壊れたダンスロボットのように空間をこねくり回し倫理を失っていく様が強烈で、R-18指定もなされた地獄映画です。
もともと映像派として知られるノエ監督だけに、極限までシンプルに抑えられたプロットを映像で魅せる手腕、というよりは作家性でしょうか、いったい人間のどこからこんなビジュアルイメージが生まれるのかと椅子にもたれてしまう感覚はまさに芸術作品でのそれ。ダンサーたちが踊り狂う姿を、同じく縦横無尽に踊りながら捉え続けるカメラ――肉体的な美しさと映画的な美しさが同居したかつてない躍動なのですよ。
とはいえ、人間がラリった様をただ楽しもうという映画でもなくて、作品自体のテーマはむしろ「アンチドラッグ」。一本筋が通っているので映画としての関節が外れることはありません(両肩の間接が外れるダンサーは登場しますが)。
役者は主演のソフィア・ブテラを除き全員が演技未経験のダンサーたちで、だからこそ説得力が生まれている。この映画に打ちのめされて立てなくなる人はもちろん、逆に強烈なエネルギーをもらう人もいるはずで、生命全体に共通するあらゆる形の空虚さが赤色に光っているような。めちゃくちゃオススメですよ。
次第に理性を失っていき、密接どころか結合を始めてしまう彼ら。3密がどうこうではなく、「LSDってヤバいな」と別方向の教訓を得られるすばらしい作品です。それにしても、音楽と本能に身を任せて踊り狂う尊さといったら。気兼ねせずみんなで踊れる日が早く来てほしいものですね。
「パーフェクト・トラップ」
特に理由なく人殺しの罠(わな)を仕掛けまくるサイコキラーの意味わからなさと優れた残酷描写、そして邦題のダサさでホラー映画ファンの熱い支持を得た2009年制作「ワナオトコ」。その続編として制作され同じく絶賛を集めたものの、日本では「ワナオトコ2」ではなく単独作であるかのようなタイトルで配給されてしまったのがこの「パーフェクト・トラップ」です。
で、本作も前作同様に訳の分からない覆面男がとにかく罠をしかけまくるお話です。そいつにさらわれた女性の父親が、傭兵を雇って突撃させるという内容なんですが、スプラッターホラーとして非常にスリリングで面白い。デストラップにおびえながらそろりそろりと進んでいく、お化け屋敷ホラーの亜種ともいえるアプローチはオリジナリティーあふれていて、ホラー映画ファンも満足いく出来栄えでしょう。前作を観ていなくても問題ないので、けっこう万人にオススメできる作品です。普通に面白い。
じゃあ何が3密なのかというと、本作のハイライト、ナイトクラブのシーンです。実際に観てほしいので何が起こるかは伏せますが、先ほどの「クライマックス」とは違い楽しく踊っているだけの善良な若者たちがマジで悲惨な目に遭います。ホラー映画史に残るシーンだと思っているので、企画にかこつけて紹介いたしました。大勢の人間が狭い空間でめちゃくちゃ死ぬ映画って何だろう、と考えたとき、真っ先に本作が思い浮かんだわけです。
「9INE ナイン」
「SAW」の大ヒットを目の当たりにした世界中のボンクラ監督が「なんだ、これでいいんじゃん」と勘違いし大量の低予算デスゲームモノを量産した2000年代。そのほとんどが駄作でありながら、ごく数本「まあ100円でレンタルする分には……」というアタリが混じっていました。その1つが本作、「9INE」です。「SAW」便乗映画の中ではソコソコ有名な作品なのではないでしょうか。
謎の人物によって狭い密室に集められた9人の男女が、「10分ごとに1人殺される」ルールの中で自分たちが集められた理由を探っていく、典型的な低予算デスゲーム。脚本次第でいくらでも面白くなるプロットではありますが、その性質上どうしても発生する単調さを打ち消すことができていない印象。決して良作とは言えない出来です。
しかし、この規模の低予算映画にしてはお話自体は結構考えられてて、あふれ出るB級風味に耐えられるのであれば案外楽しめる作品ではないかと思います。便乗映画もなかなか捨てたもんじゃないんだよ、とぜひ知っていただきたく、ラインアップに入れました。
狭い空間で向かい合ってペチャクチャと話しまくる9人。まったく飛沫を飛ばしまくりで大変けしからんですが、さらには頭を銃で撃たれ血まで飛び散らせる始末。このご時世、いつ監禁されても飛沫を飛ばさないよう、そしていつ頭を撃たれても血を飛ばさないよう常に心掛けている必要があります。備えあれば憂いなしです。
「エレベーター」
「9INE」と同じくシチュエーションスリラーをもう1本紹介。タイトルやジャケットからすぐに分かる通り「エレベーターに閉じ込められた登場人物たちがどうやって脱出するか!?」といったサスペンス劇となっています。
ウォール街にそびえ立つ超有名投資会社のパーティに参加するため、ビルのエレベーターに乗った9人がひょんなことでエレベーターに閉じ込められてしまうお話。先ほどの「9INE」と比較にならないくらい映像がパキっとしてて、安っぽさを感じさせない出来となっています。
よく名前を見る人たちが作っているので見栄えは悪くないんですが、まあエレベーターの中だけにお話を限定するにしては脚本が弱い、というよりヒドいです。普通であれば、わざわざ本作を選んで観る必要もないです。つまらなくはないですけどね。
しかし、そんな本作も「3密が嫌になる映画」だと思えばこれ以上ないくらいの傑作です。狭いエレベーターに9人で長時間閉じ込められ、見ず知らずの人たちとしゃべるくらいしかできることがありません。この時点で相当嫌ですが、とにかく本作は人災に人災が重なる、観ていて非常にイライラさせられるアルティメットストレスフルムービーなのです。
本作を観れば、エレベーターで他人と相乗りする気がめっきり失せ、可能であれば階段を選ぶようになるでしょう。運動不足も解消できて一石二鳥ですね。
「暁に祈れ」
実在したボクサー、ビリー・ムーア氏の自伝『A Player Of Dawn : My nightmare in Thailand’s prisons』を映画化した「暁に祈れ」。数多くの傑作が存在する“刑務所モノ”であり、そのあまりのリアルさに多くの人が顔をしかめながらも、大絶賛とともに迎え入れた2017年の話題作です。
ボクサーとしての再起を賭けタイに飛ぶものの、ドラッグに溺れ強盗で逮捕されたイギリス人ボクサー・ビリーの視点を通し、刑務所での壮絶な体験を描く本作。囚人役の俳優たちはほとんどが元囚人で、ロケ地もマジの刑務所。さらには3000人もの囚人をエキストラとして動員した圧倒的なリアル志向で“悪夢のタイ刑務所”が再現されているわけです。
刑務所内は腐りきっており、ワイロや薬物使用は当たり前。看守は何も言わないどころか囚人に薬物を販売するありさま。囚人同士の殺害事件だって日常茶飯事で、環境に耐え切れず自殺してしまう囚人も。不衛生という言葉では足りない劣悪な環境も相まって、とにかく地獄……。プリズンブレイクのフォックスリバー刑務所が三つ星ホテルのように思えてきますよ。
そんな悪夢を必死に生き抜く主人公ビリーが刑務所内でムエタイと出会い、徐々に闘志を取り戻していく物語で、あくまで本質はスポ根に近いわけですが、主人公を取り巻く極悪の囚人たち、なおも命を諦めない主人公の強さを観ていると、ただただ圧巻させられるばかり。本作を“刑務所モノ”とくくってしまうのは失礼なくらいに、リアルな熱気にあふれた映画です。
そしてめちゃくちゃ3密です。狭くて超不衛生な監房に全身刺青の裸の男たちがひしめきあっているのです。最初に紹介した怒れる男たちは話し合いで解決していましたが、彼らは雄たけびを上げて問答無用で殴るのです。これを鑑賞した夜はきっと、3密したい気持ちなど忘れ清潔なシーツに感謝して眠るでしょう。
以上、嫌な密を過剰摂取した結果、ひとまず欲求は抑えられました。
映画好きとして悲しいのは、大人数が密集しているシーンがあるとまず「密だ」と感じてしまうようになったこと。コロナ禍がいつか終わっても、この感覚だけは抜けそうになくて本当に嫌ですね。コロナの収束はもちろん、コロナによって変えられてしまった価値観もいつか取り戻せるようにと、暁に祈るばかりです。
<城戸>
※画像はAmazon.jpより
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