『三体』三部作が完結したのでマシーナリーとも子と「三体面白かったよね会」をやりました:マシーナリーともコラムSPECIAL(2/2 ページ)
【※ここからネタバレあり!】
宇宙の規模からすれば、われわれはエビの背わたを取ることしかできない
しげる:ということで、もうこっから先はネタバレ気にせずに喋ろうと思うんですが。まあなんでとも子を呼んだのかっていうと、出てくるじゃないですか、智子が(※)。しかも今まではなんか陽子サイズだったのが、とうとう人間の格好になって。最初の登場人物紹介にも「ともこ」って読み方がそのまんま出てくるし。
※編注:三体文明が地球に送り込んだ陽子コンピューター。智子と書いて「ソフォン」と読む。が、『三体III』では姿を変えて「ともこ」としても登場する
とも子:まあね。三体の方の智子は殺人サイボーグじゃなくて陽子コンピュータだけど、迷彩服着て日本刀を振り回して人間を殺し始めたからうれしくなっちゃったよ。「私と同じだ〜!」と思って。
しげる:じゃあまあ、似たようなことをやってるサイボーグに、「『三体』どうだった?」って聞いてみよっかなって思っただけなんだけども。しかしまあ、終わったね、とんでもないことになったけど……。
とも子:いや、非常に満足感が高かったよ。読み終わった後、3時間くらい身動き取れなかったもん。もう全部がどうでもよくなっちゃって。私って2045年から来たんだけど、もうそのくらいだとクソザコすぎてどうでもいいやってなっちゃった。落ち込んだとかというより、あまりに大きなものを見せられてボーッとしちゃった。
しげる:分かるなあ。『死神永生』読むと税金のこととかどうでもよくなるよね。おれが税金を納めようが納めなかろうが、宇宙は死ぬので……。
とも子:もうボーッとしすぎたおかげで逆に黙々とした作業ができるようになってさ。読み終わった後で最初にやった意味のある作業がエビの背わた取りだったんだけど、黙々と背わたを取ってたらだんだん気分が持ち直してきて、「人生とはエビの背わたを取るような、コツコツとしたことを積み上げていくしかないんだな……」って思ったね。われわれのちっぽけな人生ではエビの背わたを取るくらいしかできない。取っていきましょうよ、背わたを。
しげる:それくらいしかできないね、人類には。まあ、お前はサイボーグだけど……。
とも子:そう。背わたを取るように基礎研究を積み上げていくしかない。死だけが永遠なんだから、それまで楽しく生きながら背わたをとって、その結果を最後に岩に刻めばいいんだよ。「私はエビの背わたを取りました」って……。
しげる:めちゃくちゃ達観してんな。
とも子:まあでも、これは読み終わった直後の感想だからね。全体的な感想としては気持ちのいい小説だったなと思ったわ。「ここで終わり!?」と「キレイに終わったな!」ってのが両方来た。大体あの先を書かれても面白くないでしょ。
しげる:最終的に宇宙が終わるのは見えてるしね。もう次の宇宙では人類関係ないし。終わった直後でいうと、おれTM NETWORKの「BEYOND THE TIME」を聞いちゃってさ。「もうこれは『三体』のテーマ曲だ……!」と思って。
とも子:うわ、テーマ曲考えるオタクじゃん……。
しげる:いやでもさ、歌詞がよ。『死神永生』じゃないですかコレ。もう一度君に巡り会えるならさ、メビウスの宇宙も時間も超えるわけよ……。
とも子:まあ、言わんとすることは分かるるけどさあ……。しかしさあ、最初の『三体』が発表されたのって2006年なんだよな。
しげる:そうなんだよ。とも子より智子のほうが先輩なんだよな。パクリなんじゃないのお前。
とも子:人聞きの悪い……。モチーフが被っただけでしょうよ。いや、そんでさ、2006年ってアレよ、『コードギアス』とか『ゼーガペイン』とか放送してた時期だぜ。15年前の小説読んで「すんげ〜」とか言ってんのよわれわれ。
しげる:中国人からしたら今「『ゼーガペイン』ってめちゃくちゃ面白いな〜」って言ってるように見えてんのか……。
とも子:もうさ、そんなのほほえましいじゃん。「あ〜、日本の人も読んでるんだ〜」みたいな、ほのぼのニュースだよ。「今『三体』読んでんだ〜かわいいな〜」って思われてるよ、多分。
池谷:2006年っぽさでいうと、1冊目に出てくるVR三体ゲームの描写がちょっと古いんだよね。
とも子:あ〜、でも確かにあれを2006年に書いてると思うとすごいな。読んでる時は「マジつまんなそうなゲームだな」って思って読んでたけど、書かれた年代からするとあれってVRChatとかのイメージじゃなくて多分セカンドライフというかMMOの感じだもんね。
しげる:そう思うと2006年、本当に昔だ……。
煮こごりのような艾AA、そして『死神永生』の百合要素
しげる:そういえばさっき百合がどうのって言ってたけどさ、あれ具体的にどういうことなの。
とも子:その話しちゃいます? いやマジでね、艾AA(あいえいえい)という重すぎる女がな……。なんだあの女。ヤバすぎるだろあいつ。核弾頭みたいなキャラをシレッと出しやがって……。
しげる:艾AAってそんなにすごかったっけ……?
とも子:あれはもうね、百合でできた女だよ。塊だよ。百合をコトコト煮込んでその煮汁を冷蔵庫で一晩寝かせてできた、煮こごりみたいな奴だよ、艾AAは。マジでヤバいからね。だって程心(ていしん)とヒョイっと会っただけじゃん。それなのに程心と一生添い遂げるどころか、冷凍睡眠と光速移動でとんでもないところまで付き合ってんだよアイツ! 頭おかしいだろ。
しげる:そういうところを見るのか〜。
とも子:さらにヤバいのはさ、程心と一緒の家に住んでるのにたくさん彼氏いるんだよアイツ。でもそれはただの男で、それはそれとして一緒にいる女として程心がいるわけ。そこに自分のリソースを全部つっこんで、程心のために会社もデカくするし、そこまでやっても最終的に程心とは1800万年分距離ができるし、ヤバすぎでしょ……! しまいには岩に文字刻んで死んでんだよ! そりゃねえ、勝手に後日談書かれるよ(※)。歴史だもん、もう。
※編注:『三体III』の出版後、熱狂的なファンが二次創作として後日談をネットで公開、後に作者の公認を得て『三体X』として正式に出版された。日本でも今後刊行予定
池谷:これはただの勘違いだったんだけど、「艾AAは実は男でした」ってパターンかと思ってたんだよね。「未来では男性の外見が女性っぽくなってる」って設定もあったし……。今とも子の話聞いてて、本当に(自分は)百合のリテラシーがないなと思ったわ。
しげる:でもさ、雲天明(うんてんめい)くんが程心に相当強烈な気持ちを寄せてるし、程心も雲くんに心を寄せてるわけだけど、それは別にいいわけ?
とも子:そこがいいんじゃないですか。矢印の方向が違うわけ。程心にとっては艾AAは尽くしてくれる超いい女友達ってだけなんだけど、重さが違うんだよ感情の! 極重なのよ艾AAの感情は。
池谷:それだと雲くんがかわいそうじゃない?
とも子:いやそこはいいんだよ! 両立してるんだよ。雲くんは2人の間に挟まってるわけじゃないから。挟まってると言えば、あの最後にひょっこり出てきた変な科学者の関一帆(グァン・イーファン)だよ。あいつはマジで百合に挟まる男の権化! あんな概念みたいな奴がいるんだとビックリしたね。あと百合で言えば、智子がけっこう細かく程心のことを気遣ってくれるのも百合です。
しげる:最後に別の宇宙で出てきた智子は別にいいの?
とも子:あんなんナビゲート用のシステムでしかないでしょ。オーストラリア編の最後に「言ってくれればよかったのに〜」って智子が出てきたときは、「ヒョエ〜! これこれこれ!」ってなっちゃった。あそこの「別に殺すんじゃなくて、呼べば来てくれるんだ」ってなったところが一番百合。
しげる:は〜。そうなんだ。全然分かんなかったな〜。
とも子:百合がわかんなかったなら、もう「『三体 死神永生』は百合」だと理解してくれ。あれが百合。艾AAという女が百合です。あいつはヤバいです。ヤバい。
『三体』は『ミスター味っ子』である
池谷:なんか思ってたのと違う話になってるんだけど、とも子がこんなにキャラの話をすると思ってなかった。もっとこう、物語の話が先にくるのかと。
とも子:物語全体で起こったことの話をすると、「どうせ宇宙は終わる」で終わっちゃうもんな。
しげる:う〜んでも、お話についてだと、おれは劉慈欣先生って「死ぬほど頭のいいボンクラ」みたいな感じがしてて。一部に1回はとんでもないカタストロフィがあるでしょ。すげえ細いワイヤで船を切り刻んだりとか、水滴攻撃とか。あれに入るまでのタメと、その絵面がかなりバカっぽいんだけど恐ろしいのが好きで。
池谷:特に水滴攻撃は「人類は余裕で勝てる」っていうのを盛り上げに盛り上げてから、あれをやってくるところが最高だったね。いや、でもほんと『黒暗深林』は面白かったよ。
しげる:面壁者が立てた計画も、いちいちめちゃくちゃで面白かったな〜。
とも子:そりゃ三体星人も全力で殺しに行くよな。破壁人もさあ、英語だと「ウォールブレイカー」なんだよね。執剣者が「ソードホルダー」なのとかさ、ちょっと単語の選び方がカッコよすぎるんだよな。ソードホルダー、なりたいもん私。
しげる:中二病っぽいセンスというかねえ。出てくる軍艦の名前とかも、一応英語のルビがふってあるんだよね。「万有引力」が「グラビティ」とか。劉慈欣先生にはそういうところがある気がする。
とも子:船の名前で言えば「自然選択」も良すぎるんだよな……。あとそれで言えば、問題解決の方法がトンチキというか、トンチキ作戦で理屈を破壊する小説なのは3作とも変わらなかったなと思ったよ。これはできないっていう理屈はちゃんとしてるんだけど、それを解決するための方法は全部死ぬほど頭のいいバカというか、荒唐無稽な作戦で無理を通すよな。
しげる:そこのアイデアで読者をビビらせようという意欲を感じるよね。
とも子:だから極端なことを言うと、『三体』って『ミスター味っ子』みたいな小説なんだよ。
池谷:極端すぎんか?
とも子:肉汁が足りないならベーコンで包んだらいい、みたいな話だよ『三体』シリーズは。「その手があったか〜!」と思うんだけど、「その手」のレベルが相当上の方にあるから、読者としてはオワッとなるんだよね。でも一応理屈は通ってるから構造としてはスッと入ってくるという。まあそのノリで劉慈欣先生が真摯にやったら、『死神永生』では宇宙が終わっちゃったけど。
しげる:そりゃまあ、あらゆる物語のアフターストーリーって『死神永生』のラストよな。
とも子:ガンダムがいくら物語を続けたところで、最終的には宇宙が熱的に死ぬ……。「そんなこと言われなくても知ってるよ! 誰がそこまでやれって言ったんだよ!」っていうね。
しげる:そこが劉慈欣先生の真面目さと過剰さの極地だよな〜。
続く『三体』シリーズ刊行、果たしてとも子の仕事はあるのか
しげる:まあでも喋っててさ、やっぱこの『死神永生』の内容と智子の描写があるのにとも子に仕事がないのは、ちょっとかわいそうな気がしてきたわ。殺人サイボーグとはいえ。
とも子:そうなんだよ。大体なんで私が『三体』を読んだかって、どうやら「ともこ」というキャラが出てくるらしいっていうのを知ったからなんだよな。早川も絶対私のことは認知してると思うんだけど。
しげる:あ〜……それはまあ、確かにそうね……。しかしさあ、今度公式二次創作の『三体X』も早川から出るみたいだしさ、劉慈欣先生の短編集とかまだいろいろ弾があるっぽいじゃないですか。それならまだ早川の仕事をゲットできる可能性もあんじゃないの。
とも子:いや〜、智子あんまり出てこないんじゃないの、時系列的に。あと直接売り込むのはあれだから、今回の記事とかで遠隔攻撃を仕掛けてる。SFマガジンにすら呼んでくれないんだよ。仕事ほしいのに。
池谷:やることが智子じみてきたな……。
しげる:しかしプロモーションつったって、何をやるのさ。
とも子:迷彩服着て日本刀背負うくらいしかないのか……? 何すればいいんだろう、この作品のプロモーションって……。早川がやったのもトークショーとかだもんな。全然分からん……。
池谷:でもちゃんと売れてるもんね。
しげる:あれ? ひょっとしてもう売れてるから、とも子のやることってあんまりないのか……?
とも子:実際もうプロモーションするにしても「売れてます!」「オバマもザッカーバーグも読んでます!」って帯に書いたり事あるごとに言ったりするとかしかないよな。さっきから言ってるけど内容には触れづらいし。そうなると私のやるプロモーションも「私が出てきますよ」しか言うことないな、もう。
しげる:小説に出てきたのはお前じゃないだろ! あ〜でも、なんせ中国ではずっと前に完結してる作品だからファンアートもたくさんあるし、今そのへんをあさりながら読むのもオススメしたい読み方だな。
とも子:とにかく「1〜2部はBL、3部は百合で、すごいキャラがたくさん出てくる!」というところだけでも覚えて帰ってほしい! あと早川、仕事くれ!
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