殺し屋女子2人vsヤクザ 日常系アサシン映画「ベイビーわるきゅーれ」レビュー(2/3 ページ)
ちさとは自分を社会不適合者だと信じきっていて、まひろも他人とコミュニケーションを取れているようで肝心な時に怒りを抑えられずに暴力を振るってしまう。もちろん、こうした描写は極端ではあるが、「社会になじめない」人たちをデフォルメしただけで、実は普遍的なことであり、そんな人たちへのエールにもなっていると思うのだ。
そんな彼女たちの天職……いや「これしかできなかった」のが、殺し屋だった。これも実はありがちなことで、どんな職業であれ「自分の適性に合うのがたまたまこの仕事だった」という人は少なくはないだろう。
もちろん人殺しはダメ絶対だが、それを除けば「自分の居場所と生き方を見つけて成長していく(もしくはあまり成長しない)」青春物語としても見られるのが、「ベイビーわるきゅーれ」のすてきなところだ。
監督の過去作に見る前衛的な作家性
本作でさらに名前を覚えて帰ってね! と訴えたいのは、阪元裕吾監督である。1996年生まれで現在25歳と若く、インディーズ映画界ではかなりの注目株だ。氏のこれまでの作品を簡単に振り返るだけでも、個性の強さは分かるだろう。
商業デビュー作となる「ファミリー☆ウォーズ」は実際に起こった事件からインスパイアされた作品であり、不謹慎だとSNSで論争を巻き起き起こした。内容はおおむね、狂った一家全員でバトルロイヤルするという、エログロ全部乗っけな内容である。Amazonのレビューでは「星1じゃないほうが失礼」「こんなに酷い映画は初めてでした。見る価値はあると思います」などと、名誉ある(?)最低評価が書き込まれていたりする。
続く「ハングマンズ・ノット」は、サイコパス殺人鬼と凶暴兄弟の対決を描いたR15+指定作品。オープニングから最高に神経を逆撫でするウェーイ系の男たちを映す「長回し」シーンがあり、その後もクレーマーの不快さを筆頭に露悪的なシーンが続き、ラストには爆発的な見せ場も待っている攻めた内容だった。同作でカナザワ映画祭2017で期待の新人監督賞と出演俳優賞をダブル受賞している。
2021年に公開されたばかりの「ある用務員」(U-NEXTで独占配信中)は、学校内で癖の強い殺し屋たちが命の削り合いをするという内容でPG12指定。主演の福士誠治が素晴らしいのはもちろん、声優としてもおなじみの山路和弘が貫禄たっぷりに悪役を演じているのもたまらない作品だった。
その「ある用務員」では、高石あかりと伊澤彩織が「ベイビーわるきゅーれ」とほぼ同じ役柄の女子高生の殺し屋コンビとして登場する。当初はスピンオフにするという案もあったそうだが、話がどうしてもつながらなくなることもあって、実質的には関連のない作品になったそうだ。「ある用務員」におけるこの2人と福士誠治のバトルは、「図書館ってこんなに銃撃戦と相性が良い場所なんだ…!」と驚きをもって楽しめた。
そんなわけで、阪元裕吾監督の持ち味はおおむねでバイオレンス、だいたいで「クセの強いキャラ同士が殺し合う」ことにある。
そんな阪元監督が大きく影響を受けたのが、映画「バトル・ロワイアル」だという。阪元監督は「シネマディスカバリーズ」のインタビューで、同作に登場する桐山和雄というキャラクターについて「ああいう良い意味でのマンガ的というか、リアルからの飛躍が作家としていちばん大切だと思っているんです」と語っている。なるほど、彼の作家性の源流がよくわかる。
最新作「黄龍の村」も9月公開
こうした作風はもちろん好き嫌いが分かれるのだが、ハマればずっと追いかけたくなる魅力に満ちている。それでいて、阪元監督は作品を撮るごとに露悪的な要素がマイルドになってきた印象もあり、今回の「ベイビーわるきゅーれ」はPG12指定止まりで残酷描写も控えめ。殺し屋の女の子2人もいくぶん親しみやすいキャラなので、阪元作品初心者にもおすすめだ。
そして、さらなる阪元裕吾監督の新作「黄龍の村」(PG12指定)が、9月24日より池袋シネマ・ロサ、10月2日より大阪第七芸術劇場ほか全国順次公開となる。
若者たちがキャンプ場へ向かっていたものの、山の中で車がパンクしてしまい、歩いた先で奇妙な村にたどり着く。そこに現れた老人は気前良く自宅へと招いてくれたのだが、翌日に異様な光景を目の当たりにする……というのがあらすじだ。
何となく「悪魔のいけにえ」のような典型的なスラッシャーホラーを思わせるが、予告編の「ネタバレ厳禁!」「体感不可能!」「予測不能!」の文字を見るに、きっと一筋縄では行かない内容になっていることだろう。こちらも楽しみにしたい。
(ヒナタカ)
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