家主の死、飼い主の入院、金銭問題――猫65匹の「多頭飼育崩壊」はなぜ起きたのか レスキューに立ち会ったボランティア団体が明かす“凄惨な現場”(1/3 ページ)
最後の1匹の“ずっとのおうち”が決まるまで。
2020年9月末、埼玉県狭山市内で大規模な猫の「多頭飼育崩壊」が発生。“ふん尿の山になっていた”という劣悪な環境の現場は、飼い主不在のまま約50匹もの猫が取り残されていました。
人間の身勝手で生み出されてしまった不幸な猫たちを、行政と保護団体の連携により約7カ月の期間をかけて救出。最終的にレスキュー・保護した猫の数は65匹にのぼりました。
多頭飼育崩壊とは、たくさんの動物を不妊手術を行わないまま飼育したり、家の中と外を自由に行き来させたりすることで動物の妊娠と出産を助長し、いたずらに個体数を増加させてしまった結果、飼育者が動物を管理しきれなくなる状態のこと。
環境省が発表した平成30年度の資料では125自治体(都道府県、政令市、中核市)への多頭飼育に関する苦情が2064件寄せられています。
ねとらぼでは、行政からの相談でレスキューに参加した「さやま猫の会」を取材。今回の事件の経緯や「生き延びる力がない子猫はおそらく捕食されてしまった」という凄惨な現場の様子、多頭飼育崩壊への思いなどを伺いました。
さやま猫の会
埼玉県狭山市を中心に、猫の不妊化活動と見守りを行っている猫の福祉団体。増えすぎてしまった猫による問題を解決できるよう、狭山市と協同で提案、助言、TNR(※)などの支援を行ったり、定期的に里親会を開催し、保護された猫たちと新しい飼い主をむすびつけるための活動も行ったりしています。
(※)TNR…Trap(捕獲)、Neuter(不妊手術)、Return / Release(元の場所に戻す)の略。飼い主のいない猫を捕獲し、避妊去勢手術を施す活動のこと。処置時には猫の耳先にV字の切れ込みを入れて、手術済みであることの目印にします。
飼い主の入院でたくさんの猫が置き去りに
――今回の現場で猫が増えてしまったきっかけは
2013年ころに現場である家の家主が亡くなられ、その方の家族が近隣に住む男性(=今回の飼い主さん)にお世話を頼んだことがきっかけです。当初、男性は3匹の猫を飼育していましたが、拾ってきた猫を不妊をせずに家に入れてしまったことで、徐々に増えてしまいました。
――レスキューに入るまでの経緯を教えてください
2016年ころ、猫のふん尿に関する苦情が近隣住民から自治会、市役所、動物指導センターに入りました。当時、猫の会で男性に猫の不妊を進めることで合意を得ましたが、金銭的余裕がないことから計画は途中から頓挫します。それでも現場周辺の外に出てしまった猫は猫の会にて不妊し、保護できる猫は保護と譲渡を行い、可能な限り周辺環境を悪化させないように活動を行いました。
しかし2020年9月、社会福祉協議会から猫の会に「飼い主さんが救急搬送されて退院の見込みが無く、猫が置き去りになっている」との相談が寄せられました。このままでは猫たちの命が危険にさらされるため、急きょ命をつなぐ措置をすることに。
10月から関係各所と調整を行い、家の持ち主との連絡などを済ませ、11月の下旬になってようやく猫の保護を開始できる状態になりました。そこから少しずつレスキューを進め、2021年6月末に最終レスキューを終えて結果的に65匹の猫を保護しました。
「現場はふん尿の山」「子猫は1匹もいなかった」
――レスキュー現場は目を覆うような状況だったとか
レスキューに入ったところ、屋内には約50匹の猫が放置されていました。そして屋内はふん尿の山になっていて、子猫は1匹もいない状況でした。おそらくですが、生き延びる力がなかったか、捕食されてしまったかと思われます。
猫たちは屋内にいたとはいえ、長い間生活音や人の会話などが聞こえない生活感のない環境で暮らしていました。そのためか保護されたケージの内では、緊張した様子を見せている猫が多いように感じました。また中には皮膚がただれてしまっている猫や、肺炎の猫、舌に腫瘍ができている猫もいました。
保護した猫たちは里親を待ちつつ、様子はさまざま
――保護された猫たちの居場所は? また元気に過ごしていますか
保護した猫は現在、県会議員事務所、動物病院、個人預かりなどで分散して管理しています。猫たちの様子はさまざまで、落ち着いていたり、怖がっていたり、はたまた遊びに応じたりとそれぞれに過ごしています。
個人預かりは既存のサポーターには預けず、新規にお申し出があった方のところにいます。 既存サポーターを空けているのはもしものことがあった場合に身動きが取れなくなると困るからです。猫たちを預かってくれている皆さまには、感謝の気持ちしかありません。
不妊化・ウイルス検査・ワクチン接種・内部外部寄生虫駆除などを済ませた猫、医療行為が必要で完治した猫は里親を探しています。
――そうなのですね、里親探しは順調に進んでいますか?
里親探しは譲渡会をメインに、自治会報、市役所広報に情報を掲載する形で行っています。レスキューした65匹中41匹は譲渡先が決まっています(7月31日時点)が、メディアに取り上げられた2020年12月〜2021年1月はお問合せが多かったものの、2月以降はお問合せが減っているのが現状です。
また市役所と動物指導センター、当会の三者連絡会を継続的に実施しています。市役所では広報と啓発、指導センターは活動団体を含めての指導と引き出し猫達の譲渡、当会は継続して各交渉・保護・管理(不妊等含む)・譲渡を行っています。
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