負けヒロイン側のアラサーを描くと聞いたときは死ぬかと思った 『ハイスコアガールDASH』28歳教師・日高小春の輝き:あのキャラに花束を(1/2 ページ)
格ゲーがめっちゃ強い28歳の女の先生なんて、好きになっちゃうじゃん?
何度でも言う。人類はかつてから「女の子の二択」で苦しむ性質がある。ティファとエアリスとか。ビアンカとフローラとか。
マンガ『ハイスコアガール』本編は、ゲームセンターを中心に大野晶と日高小春への恋愛で悩む少年・矢口春雄(ハルオ)を描いた作品だった。当時のファンは大野派と小春派に分かれ、連載が進むたびにもん絶していたものだ。
ハルオは大野を選んだ。小春は壮絶な失恋をした。本編ではハルオへの恋心にさよならを言うかのような爽やかなシーンで幕を閉じた。ぼくは圧倒的小春派だったので、そりゃ大野さんにいくだろうよとうすうす分かりながらも応援していたが、諦めた小春のすがすがしい顔で涙して、全てを受け入れようとしたものだ。
ところが続編のマンガ『ハイスコアガール DASH』の連載開始告知が出たとき、よもや小春が28歳になって誰とも付き合わないまま教師になるという内容だと明かされ、傷口に唐辛子を練り込むような新展開に驚き。負けヒロインをつるし上げる悪魔の所業! 押切蓮介は修羅か羅刹か! そういうの好き。
ライター:たまごまご
道民ライター。マンガ・アニメ・VTuber・サブカルチャー中心に活動中。「MoguraVR」「クイックジャパンウェブ」「コミスペ!」「PASH!」「コンプティーク」などで執筆中。萌え系学習書を数冊出してます。好きなマンガは女の子が殴り合うやつ。
Twitter:https://twitter.com/tamagomago
ブログ:https://makaronisan.hatenablog.com/
スタート時しばらくは大人には世知辛すぎる、教師の泣くに泣けない厳しい仕事の日々が続く。ムードがリアルでどんより暗い。大人社会は理不尽だ。
しかし1巻後半くらいになると、小春の力強さと迫力が一気に溢れ出す。かなり読み応えと心地よさあふれる「ゲーム」と「教育」と「魅力あふれる大人の女性」の物語に大化けする。実際にあるゲームと彼女の教員生活を、鬱屈を溜めに溜めて爆発させて一気にシンクロさせるんだから、本当に感服するしかない。今回は「アラサー女教師の魅力」と「内なるガーディアン・フォボス」の2つの見どころポイントについて書いていきたい。
ちなみに『ハイスコアガール』本編を見ておくのは前提となっている作品ではあるが、読んでいなくても「日高小春は高校時代に振られたことがある」とだけ知っていればちゃんと楽しめる作品になっている。
アラサー女教師属性
現在は結構多くのマンガ作品に「20代後半で独身の女性教師キャラクター」がサブヒロイン的に存在する。年上お姉さんキャラとしてのビジュアルもいいし、人間味あふれる素の一面を見せてくれたら大人のかわいさが引き立つ。大人社会の苦くやりきれない話も見せてくれるし、時々頼れる存在としてのかっこよさに振り切ることもできる。20代後半独身というオプションがつくことで、ちょい苦な現実味と安定しきっていない迷いがより強く表現できる上に、学生にとって少し年齢の近い友人的存在にもなりうる。魅力が凝縮されている、大事なポジションだ。ただなかなかメインキャラにはなりづらい。
今作の日高小春はそのような枠の、おいしい要素かつ苦い要素を、うまく包含しているキャラクターになっている。しかもメインキャラだ。
日高小春が高校生のときに大失恋をしてから、10年近くたった28歳の春。彼女は自身に対してあまりにも無関心。仕事もマニュアル的、恋愛に興味ゼロ、家に帰ってもすることなしの無気力人間になっている。好きだったゲームもやっていない。
もともと、中学生時代の彼女はこういう夢中になれない性格だったのを思い出す。中高生の恋愛中に燃え上がり、片思い相手の好きなゲームで勝てるようにと自分を鍛え、そこで格ゲーにハマっていたわけで、振られてからきっぱりやめてしまうのも無理はない(ここは間になにかあるっぽいですね)。また無趣味に戻って、淡々とこなす人間になっただけ。ただ大人になってからの無趣味は結構厳しい。
「ただ卒なく…課題をこなして… ……そんな普通でいいのかな…私みたいな人間が…生徒を引っ張っていくことなんて可能なのかしら…」特に教育に情熱があったわけでもない彼女が教員をやるのは意外すぎて、かつてのクラスメイトですらも「想像できないな…」と語るほど。
アンニュイな小春を通じて見える現実の理不尽な光景は、切なさ増幅でとてもヘビー。厄介なセクハラに苦しめられ、生徒に舐められ、校長にいびられ、それを黙々と卒なくこなそうとしてストレスがたまる一方。辛い。だからこそ読者視点だと、迷走する彼女がいとしく見え応援したくなる。だからこそだからこそ、心のわだかまりが後述する格闘ゲームで一気に弾けるシーンでは、まぶしい大人ならではの成長が見える。もう誰かの助けを必要とするまでもない圧倒感。このアップダウンがアラサー女教師である小春の最大の魅力かもしれない。
(C)Rensuke Oshikiri/SQUARE ENIX
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