古い価値観は「めちゃくちゃスベらせる」しかない セクハラ被害とジェンダーを描く漫画『女の体をゆるすまで』作者×「ゴッドタン」佐久間宣行P対談(2/3 ページ)
原体験は小学生時代にもらった手紙
金城:1983年生まれの私が社会人になったころを振り返ると、男性の先輩でセクハラをめっちゃ気をつけてる人って思い当たらないんですけど、佐久間さんはなぜそう思えたんですか?
佐久間:それは僕じゃなくて一緒にいた後輩に聞かないと分からないけど、この前、祖父江(テレビ東京プロデューサー・祖父江里奈さん)と対談したときに「入社以来一度も容姿をいじってこなかったのは佐久間さんだけだ」って言ってたから、気をつけてたんじゃない? 20年。
ペス山:社会に出てからずっとそのスタンスだということは、思春期にすでに、容姿いじりはダサいっていう感覚があったんですか? そういう感覚が生まれたのはいつなんでしょう。
佐久間:いつなんだろう。人を芸事以外で傷つけて笑いを取るのがダサいなと思ったのは、小4か小5のころ。僕はいじめたつもりはなかったんだけど、僕が言ったことで傷ついて学校来なくなっちゃた子がいたんです。その子は、同じクラスですごく面白い女の子だったんですけど、その子がクラスの男の子を結構傷つけること言っちゃって。その夜、謝るために彼の家に電話をかけたらしいんです。それ自体はいい話だと思うんだけど、小学生にとって、夜女の子が男の子に電話をかけるって結構な出来事じゃないですか。それを僕がめちゃくちゃ冷やかしたんだよな。その時、NTTの「トークの日」いう好きな人に電話をかけるCMがあって。全く傷つける意図もなく、それをネタにして「トークの日みたいじゃん!」とかってクラスでめちゃくちゃ笑いをとったんです。そしたら、女の子が学校休んじゃって。
でも、その女の子はめちゃくちゃ聡明で、僕に手紙をくれて「傷つきました」というのを伝えてくれた。なんの気なしに笑いのつもりでやった行動のせいで友達が学校に来なくなって訳わかんなくなってたのを、手紙で「これで傷ついたんですよ、のぶちゃん」ってちゃんと伝えてくれたんです。それで謝ってまた仲良くなれました。
今のスタンスがあるのは、明確にそのときの出来事とその子のおかげです。その後もいろいろあったけど、原体験はこれ。このことで、人を傷つけない表現や笑いってほぼ無いんだなと思った。じゃあ、覚悟した上で、どのくらいのバランスでやっていくかをそのときどきで考えなきゃいけないんだなと。早い段階で自覚的だったと思うんです。
ペス山:テレビってパッとつければすぐやってるから、影響力が半端ないじゃないですか。そういう影響力があるメディアで発信する責任感を考えて、ずっと悩みながら番組を作り続けるって、大変だろうからこそ「そんな人いるんだ」って驚いてしまいます。
佐久間:(笑)。でも、あちこちオードリーの編集とかも、毎回、スタッフとのグループLINEで「この部分のやり取りは誤解されるか」とか、「ここは外すか?」というのをディレクター全員で話し合っていますよ。
ペス山:それが当たり前になってほしいなと思っちゃう。
佐久間:今は、比較的みんなそうなってきていると思います。
古い価値観は「めちゃくちゃスベらせる」しかない
金城:佐久間さんが「この人アップデートできていなくてやばい」と思ったときはどうしていますか? 組織の人だけじゃなくて、同い年くらいの友達でも「え? そんなふうに言う?」みたいなことってありますよね。そういうときに、どう声かけしたらいいかわからなくて。
佐久間:難しいけど、それはめちゃくちゃスベらせるしかない。単純に、まず絶対に笑わない。
ペス山:セクハラに対しての対応にもなってますよね、「スベらせる」って。
佐久間:そうですね。でも、セクハラはまた別かな。セクハラは被害者がいるから、「バランス」ではなくて僕の中に「線引き」があって。自分の番組ではセクハラは20代から撲滅してきたから。
ペス山:その「線引き」がある人って珍しいと思います。
佐久間:そうかもしれない。20代のころは会社の中にほとんど居なかった気がする。だから「これがセクハラだ」って言っても、「でもお前の番組でもエロいことやってるじゃないか」と分かってもらえない。
昔は、身体的な特徴を本人がネタにしていたら立ち入らなかったけど、今は本人が笑いにしていても「本当に?」というのは聞きます。本人が嫌がってたら「それめちゃめちゃ滑ってますよ」というのを空気を壊しても言う、というタイプの人間なので。でも、なんだかんだ僕は183センチある男だから言えるってことも現実問題としてあると思う。言えない人も多いと思います。
ペス山:言えないことが悪いわけではないですよね。……なんか泣けてきちゃった。どれだけその場にいた人が助かっただろうと思うと、その人に気持ちが入って泣けてきちゃいました。それをもし自分がしてもらったら、と思うと……。
佐久間:全部の番組でできていたかはわかりませんよ。いちディレクターとして入ったものとか、権限がないものもたくさんあったし。でもどの現場でも、僕は全然そういうネタを笑わない、面白いと思わないから。先日、YouTubeの動画で松丸友紀アナウンサーとして話してたときに、僕のことを若い段階で信用したきっかけはそこだったって言ってた。飲み会で松丸アナがおじさんにルックスいじりとかされているところに、ベロベロの僕が「つまんない、つまんない」って言って入ってきたらしくて(笑)。僕は覚えてないんだけど。
金城:何年か前から、そういうセクハラをしてくるような人に対して、「ダサいですよ」っていうようになったんですよ。セクハラをする人って、「それってありえないですよ」とか「女性として嫌です」と言っても全然通じないから。でも、「ダサい」と言ったらやめてくれるようになって。「面白くないですよ」とか「つまらないですよ」とか、正義感と関係ない言い方ってめっちゃ効きそう。
佐久間:まずセクハラやパワハラをするおじさんは「面子」の生き物だから、面子をつぶす、というのが一番効く。面子をつぶすと恨まれるんだけど(笑)。
メディアとマイノリティ、そしてテレビのこれから
ペス山:LGBTQのテレビでの扱い方って、まだまだゲイタレントとかオネエタレントが「使いやすい」って思われているのかなと感じていて。トランス男性がテレビに出演する機会ってなかなかないなと思うんですけど、そのあたりはどうですか?
佐久間:テレビバラエティって「誰が何を言うか」のキャラの大喜利だから、みんながそうではないと思うけど、オネエタレントの人たちもその中でキャラ付けをされていった人が多い。観覧に行くとわかると思うけど、テレビバラエティって本当にプロレスなんですよね。キャラクターを背負って、その人が何をいったから面白い、というバトルだから。
ペス山:私が漫画の番外編で描いた、千原ジュニアさんがMCをしている「ダラケ!」という番組のトランス男性回って、私個人としては見て傷ついたけど、テレビ的には面白かったと思うんですよ。今思うと、あれってキャラ付けに一生懸命だったんだと思うんですよね。
佐久間:そうだと思います。ジュニアさんは、人に興味がすごくあって、知らないことは知りたいと思う人だと思う。だから、お金にならなくてもそういう仕事をたくさんやっている。だけど、ショーとして成立しないとどうしようもないから、そこのバランスが難しいんだよね。
テレビバラエティに出て行くってことは、ある意味「誤解される」ということ。テレビだけじゃなくて、ある程度メジャーなメディアに出て行くことは、「誤解される」ことなんですよ。今メディアに出ている人は、ある程度誤解はされるもんだと思ってやってるという人が多いと思う。マイノリティで、それくらいまで腹をくくってる人が出てくると、社会のリテラシーが一気に進んだりする。でもそれって傷つくのと紙一重じゃないですか。そういう意味でいうと、作る側が背負わせ過ぎちゃいけないし、そこまでして出てこなきゃいけないメディアは変わらなければいけない。
ペス山:そうですね。「ダラケ!」でも、すごくウケていたトランス男性の方が一人いらっしゃいました。でも、その方もそのあとテレビに出て活躍しよう! という感じではなかった。セクシャリティって自分の根幹に関わることもあるし、実際に差別されたりとか、問題もまだまだ議論されてない段階で。切実すぎる問題を抱えている中で、それを笑いにもっていくのは時期尚早な気もします。
佐久間:僕は、知らないことは笑いにしたくない。でも、ペス山さんの漫画もひっくめて、いろんなエンターテイメントに教えてもらっているって感じです。自分が気付いてないことってたくさんあるから。
ただ、トランス男性だけじゃなくて、それぞれのマイノリティの中にも、「どうせならこう生まれたんだからこれを生かしてお金を稼いだ方が人生のためだ」と思う人もいる。だけど、その人が誤解されることによって傷つく人もたくさんいると思う。一番は、「マイノリティだから」ではなくて、「面白い」から世に出てきた人の面白い理由の中に、こうしたバックグラウンドがあるんだよ、っていうことが徐々に広まることなんですけど。
金城:そういう人が出てきたら、またテレビが一段階いきなり進むかもしれない。そうしたらペス山さんも、またテレビを見られるようになるんじゃないかな。
ペス山:見たいんですよ、好きだから(笑)。今日、佐久間さんとお話しして、これからきっと変わっていくんじゃないか、と思えました。
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