「DUNE/デューン 砂の惑星」レビュー 60年前の作品を、なぜ「今」映画化するのか(1/3 ページ)
原作小説の成り立ちから解説。
『デューン』、それすなわち「映像化不可能」との神話がある。それは近代において、作品の知名度に貢献したのが「ホドロフスキーのDUNE」――アレハンドロ・ホドロフスキーによる一世一代の大企画が頓挫した経過を描いたドキュメンタリー作品――の発表が大きいだろう。
加えて新人監督時代のデヴィッド・リンチ(「ツイン・ピークス」を手掛けるよりもさらに前)が監督したバージョンが批評家・原作ファンともどもから散々な評価であった、ということの影響も大きい。実際のところは2000年、ミニシリーズとして原作にある程度忠実な映像化がなされているものの、半ば伝説的な作品であるという評価をもって語られることが多くなってしまっている。
『デューン』の舞台ははるか未来。銀河を広く支配下においた帝国は、星々を各公家に管理させ栄華を極めていた。帝国の命令により、父レト・アトレイデス公爵と砂に覆われた惑星アラキスの統治を任されることになったポール。本作は彼に降りかかる悲劇と生まれついでの宿命をたどる大河長編であり、オリジナル版作者(フランク・ハーバート)の手によるものだけでも6作、その息子が後を継いだ続編がそれに加え10作以上存在する。
60年前に書かれた原作小説
映画本編に入る前に、この小説版について少し触れておきたい。
本作の原作が書かれた1960年代中頃は、英米のSF小説界にとって大きな変革を迎える直前といえる時期だった。E・E・スミス、A・E・ヴァンヴォークトらに始まる宇宙を舞台とした冒険譚が、ベスターやハインラインらにより着実な進化を遂げ、壮絶な復讐や政治的思惑など重厚なストーリーをもつに至ったのが1950年代のこと。
そして1960年代後半からはP・K・ディックやカート・ヴォネガットなど新時代の作家たちが頭角を現し、長大な叙事詩よりも幻視的な作風や独自の死生観をもつ哲学的な作品に注目が集まる。時を同じくしてJ ・G・バラード、ハーラン・エリスン、ディレイニーらによる、人間の内宇宙に着目した作品の台頭、いわゆる「ニューウェーブ」の時代が始まり、やがてティプトリーやジョン・ヴァーリイの諸作品を経て、1980年代に『ニューロマンサー』から「サイバーパンク」ブームが巻き起こる。
その時代の狭間にあらわれた『デューン』は、非常にオーソドックスな貴種流離譚だ。話の筋に限ってはっきりと言ってしまえば「スター・ウォーズ」、もっと言えば「バーフバリ」や「ライオンキング」に近いかもしれない。
この点について、本作は『指輪物語』と比較されることが多い。さまざまな種族とその生活様式、世界構成、人工言語をファンタジーとして作り上げたのがトールキンであるならば、科学的見知をもって架空の惑星とその歴史・文化・生態系を徹底的に構築したのが本作の原作者フランク・ハーバートであり、それをこれまでで最高の映像として実現したのが本作の監督、ドゥニ・ヴィルヌーヴだ。
現代によみがえった『デューン』
まずヴィルヌーヴは本作において、文庫版4冊(旧版)にも及ぶ原作一作目のストーリーラインをシンプルに整理・脚色し、その前半を約2時間半という劇場作品として現実的な時間におさめた。
無論その役割を大胆に削られてしまったキャラクターもいるものの、本筋はやはりポールの物語である。大掛かりなアクションやカタストロフの控えめな物語の導入を美術と役者の力で飽きさせずに見せる、というのは単純に見えて非常に難しい。その技量は素直に称賛したい。
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監督に語っていただきました。
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