「エターナルズ」レビュー 賛否両論も納得、「ノマドランド」の監督だからこそのスーパーヒーロー映画(2/3 ページ)

» 2021年11月06日 18時30分 公開
[ヒナタカねとらぼ]
※本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

 「ノマドランド」は車上暮らしをしているノマドワーカーの姿を描いた作品であり、劇中に登場する彼らは客観的には経済的に貧しく、低賃金でこき使われている存在ではあるが、それを社会的な問題として糾弾する意図では作られてはいなかった。

 単純な「善悪」では推し量れない、ノマド暮らしそのものを慈しむような姿勢は、「エターナルズ」においてもさまざまな土地や文化で暮らす人間たちと、彼らを見守るエターナルズの姿に重なる。

「ノマドランド」予告編

 本作を語る上でもう1つ重要なクロエ・ジャオ作品が「ザ・ライダー」(2017)だ。落馬事故のせいでロデオライダーとしての未来を事実上絶たれてしまったカウボーイの物語で、「思いもしなかった現実を目の当たりにするが、それでも残る生きがいやアイデンティティーを模索する様」が、今回の「エターナルズ」に通じているのだ。

「ザ・ライダー」予告編

 また、「ノマドランド」はプロの俳優が2人のみで後は現地の生活者を登場させており、「ザ・ライダー」も実際に起きた出来事を本人が実名のまま演じる作品だった。もちろん「エターナルズ」はアクションヒーロー映画でありプロの俳優が演じているので、それらの「半分ドキュメンタリー的」な特徴はないのだが、それでもこうした「クロエ・ジャオ監督らしい実在感」が宿るのは脅威的だ。

まさかの「幽☆遊☆白書」オマージュも

 前述したクロエ・ジャオの作家性は、どちらかといえば文芸的な作品に似合うもので、派手な見せ場のあるアクションヒーロー映画にはそぐわないのでは? と懸念していた人も多いのではないだろうか。

 ところがクロエ・ジャオは「監督として映画を作っているわけではない。ファンとして作っている」とメッセージを寄せていることから分かる通り、もともとMCUの大ファンでもあった。しかもクロエ・ジャオ監督は幼少期から日本のマンガも大好きで、メインキャラクターのキンゴ(クメイル・ナンジアニ)のスーパーパワーは「幽☆遊☆白書」の「霊丸」(指からエネルギー弾を放つ能力)が元ネタなのだという。

「エターナルズ」レビュー 賛否両論だが「ノマドランド」の監督だからこそ納得できる 霊丸オマージュあふれる必殺技(画像は予告編より)

 特に勇敢な女性戦士のセナ(アンジェリーナ・ジョリー)のアクロバティックな動きは洗練されていて美しく、素早いカメラワークで追いかける空中戦も展開するので、目が釘付けになるような面白さがあった。

長い上映時間による中だるみや、カタルシス不足という難点も

 ここまで「エターナルズ」を称賛したが、正直に言えば大満足!……というわけでもない。上映時間が156分と長いこともあって、冗長さや息苦しさも覚えてしまったのだ。クロエ・ジャオ監督らしい1カットを長く撮るシーンはほぼなく、全体的にはカット割りが多めで多くテンポも良いはずなのだが、それでも設定の説明や会話シーンの多さを退屈に感じてしまう方もいるだろう。

 物語そのものが「そうなっている」ので仕方がないともいえるのだが、「悪をくじく」分かりやすい勧善懲悪的なカタルシスも得にくい。前述した通りエターナルズのメンバーはそれぞれ魅力的に描かれているのだが、10人もいるだけにそれぞれのヒーローたちの活躍のバランスは良いとは言えず、特にクライマックスはチームを組み戦う面白さも十分に構築できていないように感じてしまった。随所に「物足りなさ」を覚えるところはある。

 そうした不満もありつつも、これからのMCUが楽しみにはなった。同じく上映中の「DUNE/デューン 砂の惑星」もそうだったように、じっくりと時間をかけたからこその作品の「厚み」があり、キャラクターそれぞれの紹介が終わったからこそ、これからの彼らの活躍も追い続けたくなったのだ。直近では11月24日よりドラマ「ホークアイ」がディズニープラス独占配信開始されるので、こちらもチェックしつつ、次のMCU映画に備えたい。

ヒナタカ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

先週の総合アクセスTOP10
  1. 小1娘、ペンギンの卵を楽しみに育ててみたら…… 期待を裏切る生き物の爆誕に「声出して笑ってしまったw」「反応がめちゃくちゃ可愛い」
  2. 富山県警のX投稿に登場の女性白バイ隊員に過去一注目集まる「可愛い過ぎて、取締り情報が入ってこない」
  3. 2カ月赤ちゃん、おばあちゃんに少々強引な寝かしつけをされると…… コントのようなオチに「爆笑!」「可愛すぎて無事昇天」
  4. 異世界転生したローソン出現 ラスボスに挑む前のショップみたいで「合成かと思った」「日本にあるんだ」
  5. 【今日の計算】「8+9÷3−5」を計算せよ
  6. 21歳の無名アイドル、ビジュアル拡散で「あの頃の橋本環奈すぎる」とSNS騒然 「実物の方が可愛い」「見つかっちゃったなー」の声も
  7. 1歳赤ちゃん、寝る時間に現れないと思ったら…… 思わぬお仲間連れとご紹介が「めっちゃくちゃ可愛い」と220万再生
  8. 業務スーパーで買ったアサリに豆乳を与えて育てたら…… 数日後の摩訶不思議な変化に「面白い」「ちゃんと豆乳を食べてた?」
  9. 祖母から継いだ築80年の古家で「謎の箱」を発見→開けてみると…… 驚きの中身に「うわー!スゴッ」「かなり高価だと思いますよ!」
  10. 「妹が入学式に着るワンピース作ってみた!」 こだわり満載のクラシカルな一着に「すごすぎて意味わからない」「涙が出ました」
先月の総合アクセスTOP10
  1. フワちゃん、弟の結婚式で卑劣な行為に「席次見て名前覚えたからな」 めでたい場でのひんしゅく行為に「プライベート守ろうよ!」の声
  2. 親が「絶対たぬき」「賭けてもいい」と言い張る動物を、保護して育ててみた結果…… 驚愕の正体が230万表示「こんなん噴くわ!」
  3. 水道検針員から直筆の手紙、驚き確認すると…… メーターボックスで起きた珍事が300万再生「これはびっくり」「生命の逞しさ」
  4. フワちゃん、収録中に見えてはいけない“部位”が映る まさかの露出に「拡大しちゃったじゃん」「またか」の声
  5. スーパーで売れ残っていた半額のカニを水槽に入れてみたら…… 220万再生された涙の結末に「切なくなった」「凄く感動」
  6. 桐朋高等学校、78期卒業生の答辞に賛辞やまず 「只者ではない」「感動のあまり泣いて10回読み直した」
  7. 「これは悲劇」 ヤマザキ“春のパンまつり”シールを集めていたはずなのに…… 途中で気づいたまさかの現実
  8. 「ふざけんな」 宿泊施設に「キャンセル料金を払わなくする方法」が物議 宿泊施設「大目に見てきたが厳格化する」
  9. がん闘病中の見栄晴、20回以上の放射線治療を受け変化が…… 「痛がゆくなって来ました」
  10. 食べ終わったパイナップルの葉を土に植えたら…… 3年半後、目を疑う結果に「もう、ただただ感動です」「ちょっと泣きそう」