「マトリックス レザレクションズ」レビュー 居心地の悪い中学の同窓会だったが行く意義はあった(2/3 ページ)
確かに、バレットタイムはその後に多数のパロディーが作られた結果、「今ではギャグとして扱われかねない」ものだろう。このセリフは悪役またはモブキャラが言うものなで、やはり作り手の自己批判ではあるとは思う。
だが、肝心の本編が「やっぱりバレットタイムってすごいじゃん!」「それを上回る素晴らしいものがあった!」と心から思えるアクションを見せてくれないまま終わるのだ。しかも1作目を踏襲したはずの柔術の訓練シーンもものすごくガッカリする終わりを迎えたりする。もはや自己批判ですらない、「1作目の素晴らしかったところをくさすだけ」である。
さらに憤慨したのはエンドロール後のおまけである。もはや乾いた笑いを浮かべるしかなかった。筆者は初めこそメタフィクション的な言及はむしろ面白いものとして見ていたのだが、最終的には作り手の不真面目さばかりを感じてしまった。
妹が監督から離れた理由
総じて「なんでこんな内容に……」と思うばかりだが、「おそらくはこれだろう」と思える要因がある。それは、「マトリックス」3部作ではウォシャウスキー姉妹(2人は性転換により兄弟から名義が変わっている)がコンビで監督を務めていたのだが、この「マトリックス レザレクションズ」では姉のラナだけがメガホンを取っていることだ。
実はラナにとって、本作の製作のきっかけは両親と友人の死を経験したことであり、だからこそ「レボリューションズ」で死んだはずのネオとトリニティを、自らへの慰めとしてよみがえらせようとしたのだ。
一方で妹のリリーは降板理由について、喪失感から過去の作品に戻ることは、自分が歩いたことのある古い道を再び歩くようで乗り気でなかったためだと答えている(加えてジェンダー移行明けかつプロジェクトが重なって疲れていたことも要因に挙げている)。
2人のクリエイターの創作観の違いは、どちらが良くてどちらが悪いというものではないだろう。だが、実際に姉のラナだけが監督した本編の創作物への向き合い方、つまりはメタフィクション的な言及に、自己批判に満たない不真面目さを感じてしまったのは残念だ。もちろん、共同脚本を務めたデイヴィッド・ミッチェルとアレクサンダー・ヘモンの責任も大きいとは思う。
1作目の思い出が走馬灯のように……
居心地の悪い中学の同窓会「マトリックス レザレクションズ」に参加した最大の意義……それは身も蓋もないが「1作目『マトリックス』は本当に偉大だった」と改めて思えたことだった。
同作はアクションや視覚効果が称賛されやすいが、物語も革新的だった。「違う世界に連れて行かれ、救世主だと指名されたので戦う」というあらすじだけだと、多くのファンタジー物語で使い古された都合の良いものだが、「マトリックス」ではただ現実逃避をするだけでない。仮想世界にいた主人公は、抑圧されてきた現実を知り、むしろ現実を人間らしく生きるために戦う物語へと展開していくのだから。
それはトランスジェンダーであり、社会からの阻害や抑圧、そして怒りを感じていたウォシャウスキー姉妹監督の人生とも重なる。全ての現実で生きる人たちにとっての希望の物語にもなっている。3部作で提示された「選択」「目的」「信じること」という哲学的テーマもまた深く、示唆に富むものになっていた。
そして、「マトリックス レザレクションズ」では……その3部作のテーマは受け継がれてはいるものの、主に感じたのは幹事の自己満足で、「1作目って○○だよな!」「バレットタイムって○○だよな!」という、いくら酒の席だとしても無神経な会話ばかりだったし、全然興味がない話題もあってへきえきしていたが、むしろそれらを聞いたおかげで「自分はやっぱり『マトリックス』のここが好きなんだ!」という気持ちを新たにできたのだ。そこには本当に感謝している。
余談だが、せっかくの同窓会で「誰だお前は」と思ったことに、エージェント・スミスの存在がある。3部作でスミスを演じていたヒューゴ・ウィーヴィングは、本作ではスケジュールの都合で降板している。これは仕方がないことであるし、代役のジョナサン・グロフは好演していたのだが、やはり劇中で同一人物と扱われるのは無理がある。せめてもっとサングラスをかけてごまかそうとしてくれ。
もっともシリーズではオラクル(預言者)で役者変更の前例はあったし、過去の映像を重ねることでプログラムの容姿が変わったことに説得力を持たせようとする工夫も見られたのだが……。なおモーフィアス役もローレンス・フィッシュバーンからヤーヤ・アブドゥル=マティーン2世に代わっているが、これは劇中で見た目が異なる理由付けが一応はあったので良かった。
結論。1作目「マトリックス」は現実逃避から物語が始まるようでいて、実は現実で戦う選択の意志を讃えた本当に素晴らしい作品だった。今はただ、中学生の頃にとても仲が良かった、最高にカッコいいあいつとの楽しかった思い出に浸ろう(現実逃避)。
(ヒナタカ)
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