「大怪獣のあとしまつ」レビュー 見た後に怒りの後始末が必要な全方位にスベり散らす怪作ギャグ映画(2/3 ページ)
ラストは予想外の結末に「どう? びっくりしたでしょ?」と言いたげだったが、個人的には「でしょうね!」と完全に予想通り。その絵面がせめて度を越してバカバカしかったらまだ良かったのだが、結局は突き抜け具合が中途半端なのもガッカリだ。
脚本家の小林靖子が公式に寄せたコメント「大災害に立ち向かう素晴らしい人間の叡智に往復ビンタを食らわせる映画である」も言い得て妙。劇中では新型コロナウイルスや原子力発電所事故をほうふつとさせる事態も描かれているのだが、結局は小学生レベルの下ネタを言いまくるような展開で横槍を入れられるのでとってもストレスフルだった。
総じて「なんでこんな内容に?」と思うばかりだが、間違いなく元凶は監督・脚本を務めた三木聡である。三木監督はドラマ「時効警察」シリーズが特に有名で、「三木聡ワールド」とも呼ばれる「不条理劇」が持ち味。手っ取り早くその作家性を知りたいのであれば、Amazonプライムビデオのオムニバス映画「緊急事態宣言」の一編「ボトルメール」が分かりやすいだろう。
端的に言えば「え?なにこの状況?」「笑っていいのかどうかも分からない」というシュールな雰囲気やギャグが、これまでの作品群では前面に打ち出されていた……のだが、この「大怪獣のあとしまつ」では前述したような短絡的なギャグが、メインであるはずの怪獣の死体処理というシチュエーションとかみ合っておらず、ただただ面白くなくなってしまっている。これまで小規模な作品で発揮されていた作家性が暴走し、悪い方向に限界突破してしまったと言い換えてもいいだろう。
見事な特撮や山田涼介の好演などの見どころも
この「大怪獣のあとしまつ」には、もちろん良いところもある。怪獣造形の若狭新一、美術の磯見俊裕、VFXスーパーバイザーの野口光一など、一流のスタッフがそろっており、巨大な怪獣の死体には迫力とリアリティーがある。
主演の山田涼介が一切ギャグを言わない、マジメな特殊隊員の青年・帯刀アラタを好演していることも美点だ。彼は「周りの大人たちはふざけているけど、自分は主人公としてブレてはいけない」という理由から、芯の硬さや硬質なイメージのある髪形も自ら提案したという。「善意っていいですよね、悪意の方がよっぽどタチがいい」と言ったシニカルなセリフもハマっていたし、彼のファンであればその活躍に十分満足ができるのではないだろうか。
土屋太鳳が演じる帯刀の元カノ・雨音ユキノとのロマンスは、はっきり言って「不倫」的で、怪獣映画には不要だという意見もありそうだが、個人的には嫌いではない。土屋太鳳の度を越したような生真面目さもまたハマっていたし、2人の間に謎の空白期間があることも興味を呼ぶようになっていたのだから。
濱田岳やオダギリジョーなど、見た目からしてクセの強いキャラクターとの関係性も見所になっていた。ただ、土屋太鳳が急に「フェッフェッフェ」と笑うという、ギャグなのかどうか分からないシーンでは、やはりいろいろと台無しになっていた。
そんなわけで「大怪獣のあとしまつ」にはまっとうな要素もそろっているはずなのだが、実際の本編は「大事故」を起こしているとしか思えない、とんでもない内容になっていた。劇中の作戦とシンクロするように、映画の出来が失敗したプロジェクトそのものになっているという、ある種のメタフィクション的な構造も見て取れるかもしれない。ぜひ、みなさんも仲の良い友達などと一緒に見てみて、その後に怒りをぶつけ合ったり、「自分は好きだよ!」と擁護するなど、後始末をしていただきたい。
(ヒナタカ)
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