間違っていたって構わない、だから言語解読アドベンチャー「7 Days to End with You」は今の時代に遊ばれるべき傑作ゲームなのだやや最果てエンタメ観測所(2/3 ページ)

» 2022年02月19日 21時00分 公開
[砂義出雲ねとらぼ]

考えれば考えるほどよくできているゲームコンセプト

 かくも新しいゲームではあるが、あえてプレイ感覚を他のゲームに例えるなら、「Return of the Obra Dinn」というゲームに比較的近いものがあると感じた。

7 Days to End with You 「Return of the Obra Dinn」もこれはこれで傑作ゲーム

 

 「Return of the Obra Dinn」は、時を巻き戻せる保険調査員となって、消えた船の乗組員の死因を推測するゲームだ。本作を進めていくうちに生まれたインプレッションは、「まるでこれ『オブラディン』のギャルゲー版みたいだな」だった。

 だが、そんなこのゲームのシステムとコンセプトが実に巧妙にできていることに気付いたのはそれからだ。

 語学学習においてよく言われることがある。それは、「言語習得への一番の近道は、外国人の恋人を作ることだ」、という言説だ。なぜなら、人は自分が耳を傾けたくなる相手の言葉であればこそ、その言葉の意味を読み解こうと必死になる。

 そういう意味では、明らかに自分に好意を持ってくれているらしい女性との日々の繰り返しは、「言語を読み解かせる」ゲームのアプローチとして舌を巻くほど完璧だったのだ。すごいぜ。

7 Days to End with You ときに頬を染めながら受け答えしてくれる様子がまたかわいい

 

 そして、このゲームにはもう一つの大きな特徴がある。主人公が絶対に7日間で死んでしまうことだ。そう、ゲームのタイトル「7 Days to End with You(君と終わる7日間)」はそういう意味だ。最短であれば、数分でこのゲームの一サイクルが終わってしまうこともあるだろう。

 それからまた物語を一から繰り返していく。その周回の中で、何度も自分の認識は覆され、単語の訳はより正解だと思われる言葉に書き換えられていく。この「認識がひっくり返される」体験も、パズルのピースがハマるのと同じぐらい気持ちいい。

 さらに、そんな自分の認識がひっくり返される「どんでん返し」体験は、単語レベルだけでなく、ゲームを貫く「物語」自体にもいくつか存在する。いや、正確に言えば、真実は最初から「そうだった」のに、それにプレイヤーが気付いた瞬間、世界の認識がひっくり返るのだ。その体験の前後で、目の前の彼女が話している言葉がまるで違った意味を持って聞こえてしまうこともあるだろう。その事実に、ゾッとしたり、グッときたり。そして、当然ながら「知ってしまった」真実を元に戻せない以上、人生で一度しか新鮮に楽しめないネタバレ厳禁のゲーム、ということにもなる。このあたりは、筆者が愛するゲーム「Outer Wilds」にも通ずる感覚がある。「Return of the Obra Dinn」や「Outer Wilds」が好きな人が好きかもしれないゲームって聞いただけでもう刺さる人には刺さるはずだ。

 

それでもある、いくつかの難点。暗号的解法の功罪

 とはいえ、まるっきり難点がないわけでもない。強いて言えば、ゲームがとても難しい。特に、「異なるエンディング」を見るための条件というものがかなり厳しいかなと思った。詳細は省くがこれ、言語の完全な理解がエンディングの分岐に直結するわけではないのだ。また、終盤の選択肢を試したいのに完全に7日間を終えるとセーブデータが初日に戻ってしまうのも、ささいではあるが絶妙に周回する気力を削いでいった。

 筆者はある程度納得のいくエンディングまで見て、大体もう単語が置き換えられることもないし自分なりの物語が組み立てられたかな、というところで心が折れて攻略ヒントを検索してしまったが、正直これノーヒントで全エンディングを見るのはかなりきついな……と思った。せめて、もう少し導線を作ってほしかった感じはある(一応、筆者がプレイしたVer1.1.03時点での意見です)。

 また、実はこのゲーム、単語の意味を「文脈」から推察する以外にも、「文字」の法則性に気付いてさえしまえば、いわゆる「暗号」を解く要領で完全に確定させることもできる。

 個人的に言えば、そのようにも解けてしまうことは少しだけ残念だと思ってしまった。いや、そうやって解けることが楽しいという人ももちろんいると思うのだが、それよりも憂いているのは、自力で頑張って解いた人がクリア後にそれらの「解答」を確認し、自分の作り上げた「物語」をより正しいと思われるものに「矯正」してしまうことだ。

 本来、このゲームは100人いれば100通りの物語ができるはずのゲームである。翻訳した単語の違いによって生まれるプレイインプレッションの差異は、プレイヤーごとに全く違う景色を見せるはずだ。目の前の人物が主人公とどういう関係性なのか。一体、何が起きてこの状況に至ったのか。その他、キャラクターの属性、性格、名前、果ては倫理観まで、これは真実よりもその「間違い方」にこそ価値があるゲームだ。

 というより、そうやってプレイした方がきっとプレイ後トークも楽しいと思う。プレイヤーが作り上げた唯一無二の「単語帳」を公開するのも楽しいだろうし、「あの単語何て訳した?」とか「『彼女の名前』何にした?」などという会話も盛り上がること受け合いだ。

7 Days to End with You 誰が何と言おうが筆者の中ではこのゲームは「あかげ」と「すなぎ」の物語だ

 

 そして、それを促すためか、このゲームは始まるときにこんなメッセージを伝えてくれる。「貴方が感じ、受け取った全ての物語は、全て正しいでしょう」。

7 Days to End with You ゲーム冒頭の一節

 

 この言葉が、全てだ。なんて優しい文言なんだろう。自分はこの言葉だけで、これは愛するに足るゲームだと思った。

 

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2411/14/news189.jpg 互いの「素顔を知ったのは交際1ケ月後」 “聖飢魔IIの熱狂的ファン夫婦”の妻の悩み→「総額396万円分の……」
  2. /nl/articles/2411/14/news014.jpg ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
  3. /nl/articles/2411/14/news187.jpg 人生初の彼女は58歳で「両親より年上」 “33歳差カップル”が強烈なインパクトで話題 “古風を極めた”新居も公開
  4. /nl/articles/2411/14/news167.jpg 妻が“13歳下&身長137センチ”で「警察から職質」 年齢差&身長差がすごい夫婦、苦悩を明かす
  5. /nl/articles/2411/15/news016.jpg 「飼いきれなくなったからタダで持ってきなよ」と言われ飼育放棄された超大型犬を保護→ 1年後の今は…… 飼い主に聞いた
  6. /nl/articles/2411/13/news176.jpg 「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
  7. /nl/articles/2411/15/news009.jpg 高2のとき、留学先のクラスで出会った2人が結婚し…… 米国人夫から日本人妻への「最高すぎる」サプライズが70万再生 「いいね100回くらい押したい」
  8. /nl/articles/2411/15/news058.jpg 「腹筋捩じ切れましたwww」 夫が塗った“ピカチュウの絵”が……? 大爆笑の違和感に「うちの子も同じ事してたw」
  9. /nl/articles/2411/14/news023.jpg “膝まで伸びた草ボーボーの庭”をプロが手入れしたら…… 現れた“まさかの光景”に「誰が想像しただろう」「草刈機の魔法使いだ」と称賛の声
  10. /nl/articles/2208/06/news075.jpg 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
先週の総合アクセスTOP10
  1. アレン様、バラエティー番組「相席食堂」制作サイドからのメールに苦言 「偉そうな口調で外して等と連絡してきて、」「二度とオファーしてこないで下さぃませ」
  2. 「母はパリコレモデルで妹は……」 “日本一のイケメン高校生”グランプリ獲得者の「家族がすごすぎる」と驚がくの声
  3. 「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの仕打ち”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」
  4. 「真美子さんさすが」 大谷翔平夫妻がバスケ挑戦→元選手妻の“華麗な腕前”が話題 「尊すぎて鼻血」
  5. イモト、突然「今日まさかの納車です」と“圧倒的人気車”を購入 こだわりのオプションも披露し光岡自動車からの乗り換えを明かす
  6. 「この動画お蔵かも」 親子デートの辻希美、“食事中のマナー”に集中砲火で猛省……16歳長女が説教「自分がやられたらどう思うか」
  7. 老けて見える25歳男性を評判の理容師がカットしたら…… 別人級の変身と若返りが3700万再生「ベストオブベストの変貌」「めちゃハンサム」【米】
  8. 「ガチでレア品」 祖父が所持するSuica、ペンギンの向きをよく見ると……? 懐かしくて貴重な1枚に「すげえええ」「鉄道好きなら超欲しい」と興奮の声
  9. 「デコピンの写真ください」→ドジャースが無言の“神対応” 「真美子さんに抱っこされてる」「かわいすぎ」
  10. 「天才」 グレーとホワイトの毛糸をひたすら編んでいくと…… でっかいあのキャラクター完成に「すごい」「編み図をシェアして」【海外】
先月の総合アクセスTOP10
  1. 50年前に撮った祖母の写真を、孫の写真と並べてみたら…… 面影が重なる美ぼうが「やばい」と640万再生 大バズリした投稿者に話を聞いた
  2. 「食中毒出すつもりか」 人気ラーメン店の代表が“スシローコラボ”に激怒 “チャーシュー生焼け疑惑”で苦言 運営元に話を聞いた
  3. フォロワー20万人超の32歳インフルエンサー、逝去数日前に配信番組“急きょ終了” 共演者は「今何も話せないという状態」「苦しい」
  4. 「顔が違う??」 伊藤英明、見た目が激変した近影に「どうした眉毛」「誰かとおもた…眉毛って大事」とネット仰天
  5. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  6. 星型に切った冷えピタを水に漬けたら…… 思ったのと違う“なにこれな物体”に「最初っから最後まで思い通りにならない満足感」「全部グダグダ」
  7. 「泣いても泣いても涙が」 北斗晶、“家族の死”を報告 「別れの日がこんなに急に来るなんて」
  8. ジャングルと化した廃墟を、14日間ひたすら草刈りした結果…… 現した“本当の姿”に「すごすぎてビックリ」「素晴らしい」
  9. 母親は俳優で「朝ドラのヒロイン」 “24歳の息子”がアイドルとして活躍中 「強い遺伝子を受け継いだ……」と注目集める
  10. 「幻の個体」と言われ、1匹1万円で購入した観賞魚が半年後…… 笑っちゃうほどの変化に反響→現在どうなったか飼い主に聞いた