「殺処分を依頼して、笑顔で帰る飼い主がいる――」 高齢・病気の犬猫保護団体「フィリックス・アニマ」が支える命の現場(2/3 ページ)
「白血病の子も、マヒがある子も、みんな生きる権利がある」
――なぜ、高齢や病気・ハンディキャップを持つ犬猫を中心に保護しようと?
藤森さん:そういった子たちは行き場がないんです。譲渡しようと一生懸命動いても里親は見つかりません。保健所では、病気やマヒがあることが分かったらすぐに殺処分が決まってしまいます。でも私は高齢や病気の子も、ハンディキャップがある子も、当然生きる権利があると思っています。そんな子たちが安心して暮らせるようなシェルターにしたいと思ったんです。
――どんな場所からどんな犬・猫を保護していますか?
藤森さん:一番数が多いのが年に1〜2ケースある、多頭飼育崩壊現場からの保護です。ここで一度に20〜30匹ほど保護しています。多頭飼育崩壊は、高齢者が「寂しいから」と複数の猫を飼い、不妊手術への意識が低いので増えてしまい、飼育崩壊するケースが非常に多いですね。
それ以外は野良猫や、病気やマヒのため殺処分予定になった子を保健所から、ブリーダーが「もう使えない」と放棄した繁殖用の犬猫を保護することもあります。
現在うちでは犬と猫合計で204匹を飼養していて、その内約200匹が猫ちゃんです。ほとんどが高齢か、白血病やエイズなどの病気、体にマヒがある猫たちですね。
――204匹! 毎日のお世話は大変ではないでしょうか?
藤森さん:本当に大変です。高齢で、病気やハンディキャップを抱える子たちが多いので、そのへんにおもらししてしまうことも。病気や体調を崩した子たちは片道車で1時間ほどかけて動物病院に連れて行かなければならないので、1日中お世話に追われています。
白血病の猫ちゃんが多く、そういう子は大体4年生きるかどうかなんですよね。またその他の病気や高齢の猫ちゃんもあわせると、年間50匹程みとっています。でもとっても長生きしてくれる猫ちゃんもいるんですよ。うちの最高齢は28歳です。最初の飼い主さんが亡くなって、ボランティアさんが引き取って、その後私が引き取って。私が3代目の飼い主なんです(笑)。
(※取材後の3月15日、「ムック」さんは28歳で天国へと旅立ちました)
――28歳、すごいですね! フィリックス・アニマでは譲渡はほとんど行っていない、と聞きました。その方針はどこから?
藤森さん:保健所時代に身勝手な飼い主さんをたくさん見てきて、人間不信になってしまって……。私が直接知っていて本当に信頼できる人や、お世話になっている獣医師さんづてで信頼できる人にのみ、譲渡することもありますが非常にレアケースで、外部の人には一切譲渡していません。ほとんど全ての犬猫を、最後のときまでみとれるようお世話しています。
2021年の支出は約820万円。赤字の110万円は自腹で補填
――多くの保護団体は、健康な犬猫を譲渡した際に得られる譲渡金を運営費の一部に充てています。譲渡を一切行わないのでは、年間の費用負担も大きくなるのでは……。
藤森さん:2021年の医療費は約490万円、消耗品、光熱費など経費をあわせると合計で約820万円かかりました。ありがたいことに全国の方から支援金約350万円を振り込んでいただき、クラウドファンディングやその他寄付金、助成金も充てましたが、約110万円の赤字になりました。赤字は自腹をきって補填しています。借金ですね(笑)。高額な医療費がかかるFIP(猫伝染性腹膜炎)の子もいるので、医療費が追い付かない状況です。
――110万円を自腹で……。医療費だけでなく食費もかかりそうですね。
藤森さん:一番大きいのは医療費ですが、毎日のことなのでフードもかかりますね。うちは元野良猫や、多頭飼育崩壊から保護した猫たちが多いので……。そういう子たちっておなか一杯食べられてこなかったから、食に執着があるんです。食べ物で苦労してきた子たちなので、「ひもじい思いをさせたくない」というのがあり……。
1カ月に2.7キロのフードを約100袋消費します。Amazonほしい物リストで多くの方にフードを支援していただけるのが本当にありがたいです。
――大変な運営のなか、どんなところにやりがいを感じますか。
藤森さん:なんだろう……。心を閉ざしていた子たちが心を開いてくれて、笑顔ですり寄ってきてくれるときですかね。その子たちに癒やされているときに「ああよかったな」「自分は間違ってなかったな」と感じます。あとは、病気だった子が寛解して獣医師さんに「奇跡だね」「よかったね」といわれると「頑張ってよかった」と思いますね。
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