“総集編"映画は誰のためのもの? 映画「オッドタクシー イン・ザ・ウッズ」レビュー(1/2 ページ)
2021年最大のダークホース・アニメがスクリーンに。
2021年春クール。「東京卍リベンジャーズ」が大ブームを巻き起こし、「ゾンビランド サガ」「SSSS.DYNAZENON」といったファン期待の続編や新作が続々と登場した群雄割拠の中、ひときわ異彩を放ったアニメが「オッドタクシー」だった。
アニメ視聴者にとってはなじみのない制作会社、監督をはじめとするスタッフ陣、王道を外れた動物を主軸としたキャラクターたち……。ティーザーPVですら物語を明かそうという意志を感じさせない、何やら不気味ささえ漂わせた同作は、ご存知の通り完全なダークホースとして口コミによる人気を爆発させた。
まるで何かのマスコットかのようなキャラクターデザインに対し、ヤクザと暴力、インターネットの闇が絡み合う此元和津也による巧みなシナリオ。多彩な登場人物たちのさまざまな視点によって描かれる「事件」の真相。PUNPEEによる音楽、吉本芸人たちによるCV等、本作はとにかく座組みの目新しさが光った作品だ。
謎が謎を呼ぶ展開はアニメの放送だけでなく、同時に配信されたYouTubeオーディオドラマによってさらにその謎が補強される……など、非常に手の込んだ、完成された13話+αのミステリー作品として強い評価を得ている。
※以下、具体的な展開のネタバレはないものの、映画版での新規パートの配分などについて触れています
公開中の映画「オッドタクシー イン・ザ・ウッズ」は、その劇場版である。「イン・ザ・ウッズ」、すなわち“藪の中”として、作中13話に実行される現金強奪作戦:“ODD TAXI”前日、それぞれのキャラクターに対して行われたインタビューの模様を挟みつつ、これまでの物語を振り返りながら最終話のカタルシスを再放映。加えて数分の新作パートとして、その後のキャラクターたちの姿を描くというものだ。
このような手法が「よくある総集編」といわれてしまうのは否めない。近年のアニメの総集編といえば「複雑化した物語の本筋をピックアップし次作に向け復習するもの」「最高の作画を大きなスクリーンで見せるもの」「既存映像を利用しつつ新規カットを提供する完全な既存ファン向け作品」などがあげられるが、本作はどの層に向けられたものか少々首を捻るところがある。
まず本作にみられたプロモーションとして「初乗り歓迎」(テレビ版未視聴者)と掲げられてはいるものの、これはかなり厳しい。大枠としておのおのの思惑が複雑に絡み合い、かつインタビュー中に真実を述べていないキャラクター、シーンがほぼカットされてしまったキャラクターもいる以上、完全初見で実際のところ「この街で何が起きているのか」を整理するのはおそらく困難だ。
また先述のWebラジオを聞いていなければ理解できないであろう描写も複数あり(例を挙げれば、なぜタエさんは病院のベッドにいるのか? 等)、あまり親切な運転とはいえない。
ではファン向けかというと、今度は新規カットについての話になる。新規カットは主要キャラクターの喫茶店でのインタビューシーンが中心となり、実際のところ量としては想定以上に多い。キャラクターが何を思い、テレビ版で姿を見せていない時期に何があったのか、といった謎が一部明かされるなど、この街の全てを知りたいファンにとっては非常にうれしいものが多い。だがそれは本当に熱を持っているファンの視点であり、大半の視聴者にとっての希望は本編ラストの“その後”を描くことだろう。
そして実際、そこは描かれていた。独特の緊張感が支配し、本作で唯一最も映画的であった場面だろう。テレビ版のオープン・エンディングに対し、映画でも「直接的には何が起きたのかを描かない」(※しかし、その後のスタッフロールにて類推することは可能)としたのはあまり意図が取れなかったが、既にカタルシスを迎えている作品について再度の盛り上がりは不要と判断されたのかもしれない。あまりにも短すぎることを除けば、素晴らしいシーンだった。
さて、本作はテレビアニメ版の高評価に対して、映画版の評価は「Yahoo!映画」評価2.4点と低いものになっている。これは総じて、事前プロモーションと公開された作品とのギャップによって生まれているものだろう。確かに原作に対して「新たな視点」を加えたものではあるが、流用カットが主な以上、そこに新しい作品を見た、という意識は生まれ難い。
「オッドタクシー」は言うまでもなく完成度の高い作品であるが、13話でほぼ完璧に完結しており、そのトリックから「続編」が非常に難しい以上、劇場公開するのであれば総集編にならざるを得ない。
しかしその「総集編」という形態についても、全話見放題配信というシステムがここまで主流になった時代では、どのようなタイプの作品であれそれなりの付加価値が求められてしまう。そしてこのような群像劇的ミステリー作品は、物語の端々を削除してしまう総集編と、致命的に相性が悪い。このような点から、本作は“全般的に良い出来ながらも評価を得られない”という、どうにも座りの悪い結果となってしまっている。
そのような中、短い制作期間で役者及びスタッフ陣は最大限の仕事をしたと感じる。なかなかに掲げられた無茶のなか、“ファンムービー”と“初見視聴者歓迎”の合間を縫うように蛇行する作品体験は新鮮で刺激的なものだった。テレビシリーズの座組みは真に完璧で、バチッと決まっていただけに今回の逆風は残念に思う。これがきっと準備されているであろう、関係者の新作に影響しないことを願っている。
(将来の終わり)
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