“総集編"映画は誰のためのもの? 映画「オッドタクシー イン・ザ・ウッズ」レビュー(1/2 ページ)

2021年最大のダークホース・アニメがスクリーンに。

» 2022年04月09日 19時30分 公開
[将来の終わりねとらぼ]

 2021年春クール。「東京卍リベンジャーズ」が大ブームを巻き起こし、「ゾンビランド サガ」「SSSS.DYNAZENON」といったファン期待の続編や新作が続々と登場した群雄割拠の中、ひときわ異彩を放ったアニメが「オッドタクシー」だった。

 アニメ視聴者にとってはなじみのない制作会社、監督をはじめとするスタッフ陣、王道を外れた動物を主軸としたキャラクターたち……。ティーザーPVですら物語を明かそうという意志を感じさせない、何やら不気味ささえ漂わせた同作は、ご存知の通り完全なダークホースとして口コミによる人気を爆発させた。

意味深なティーザーPV

 まるで何かのマスコットかのようなキャラクターデザインに対し、ヤクザと暴力、インターネットの闇が絡み合う此元和津也による巧みなシナリオ。多彩な登場人物たちのさまざまな視点によって描かれる「事件」の真相。PUNPEEによる音楽、吉本芸人たちによるCV等、本作はとにかく座組みの目新しさが光った作品だ。

 謎が謎を呼ぶ展開はアニメの放送だけでなく、同時に配信されたYouTubeオーディオドラマによってさらにその謎が補強される……など、非常に手の込んだ、完成された13話+αのミステリー作品として強い評価を得ている。

※以下、具体的な展開のネタバレはないものの、映画版での新規パートの配分などについて触れています

放送中は毎週オーディオドラマが公開された

 公開中の映画「オッドタクシー イン・ザ・ウッズ」は、その劇場版である。「イン・ザ・ウッズ」、すなわち“藪の中”として、作中13話に実行される現金強奪作戦:“ODD TAXI”前日、それぞれのキャラクターに対して行われたインタビューの模様を挟みつつ、これまでの物語を振り返りながら最終話のカタルシスを再放映。加えて数分の新作パートとして、その後のキャラクターたちの姿を描くというものだ。

 このような手法が「よくある総集編」といわれてしまうのは否めない。近年のアニメの総集編といえば「複雑化した物語の本筋をピックアップし次作に向け復習するもの」「最高の作画を大きなスクリーンで見せるもの」「既存映像を利用しつつ新規カットを提供する完全な既存ファン向け作品」などがあげられるが、本作はどの層に向けられたものか少々首を捻るところがある。

 まず本作にみられたプロモーションとして「初乗り歓迎」(テレビ版未視聴者)と掲げられてはいるものの、これはかなり厳しい。大枠としておのおのの思惑が複雑に絡み合い、かつインタビュー中に真実を述べていないキャラクター、シーンがほぼカットされてしまったキャラクターもいる以上、完全初見で実際のところ「この街で何が起きているのか」を整理するのはおそらく困難だ。

「初乗り歓迎」

 また先述のWebラジオを聞いていなければ理解できないであろう描写も複数あり(例を挙げれば、なぜタエさんは病院のベッドにいるのか? 等)、あまり親切な運転とはいえない。

 ではファン向けかというと、今度は新規カットについての話になる。新規カットは主要キャラクターの喫茶店でのインタビューシーンが中心となり、実際のところ量としては想定以上に多い。キャラクターが何を思い、テレビ版で姿を見せていない時期に何があったのか、といった謎が一部明かされるなど、この街の全てを知りたいファンにとっては非常にうれしいものが多い。だがそれは本当に熱を持っているファンの視点であり、大半の視聴者にとっての希望は本編ラストの“その後”を描くことだろう。

 そして実際、そこは描かれていた。独特の緊張感が支配し、本作で唯一最も映画的であった場面だろう。テレビ版のオープン・エンディングに対し、映画でも「直接的には何が起きたのかを描かない」(※しかし、その後のスタッフロールにて類推することは可能)としたのはあまり意図が取れなかったが、既にカタルシスを迎えている作品について再度の盛り上がりは不要と判断されたのかもしれない。あまりにも短すぎることを除けば、素晴らしいシーンだった。

 さて、本作はテレビアニメ版の高評価に対して、映画版の評価は「Yahoo!映画」評価2.4点と低いものになっている。これは総じて、事前プロモーションと公開された作品とのギャップによって生まれているものだろう。確かに原作に対して「新たな視点」を加えたものではあるが、流用カットが主な以上、そこに新しい作品を見た、という意識は生まれ難い。

 「オッドタクシー」は言うまでもなく完成度の高い作品であるが、13話でほぼ完璧に完結しており、そのトリックから「続編」が非常に難しい以上、劇場公開するのであれば総集編にならざるを得ない。

 しかしその「総集編」という形態についても、全話見放題配信というシステムがここまで主流になった時代では、どのようなタイプの作品であれそれなりの付加価値が求められてしまう。そしてこのような群像劇的ミステリー作品は、物語の端々を削除してしまう総集編と、致命的に相性が悪い。このような点から、本作は“全般的に良い出来ながらも評価を得られない”という、どうにも座りの悪い結果となってしまっている。

 そのような中、短い制作期間で役者及びスタッフ陣は最大限の仕事をしたと感じる。なかなかに掲げられた無茶のなか、“ファンムービー”と“初見視聴者歓迎”の合間を縫うように蛇行する作品体験は新鮮で刺激的なものだった。テレビシリーズの座組みは真に完璧で、バチッと決まっていただけに今回の逆風は残念に思う。これがきっと準備されているであろう、関係者の新作に影響しないことを願っている。

将来の終わり

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2411/21/news189.jpg 「大物すぎ」「うそだろ」 活動中だった“美少女新人VTuber”の「衝撃的な正体」が判明 「想像の斜め上を行く正体」
  2. /nl/articles/2411/22/news014.jpg 川で拾った普通の石ころ→磨いたら……? まさかの“正体”にびっくり「間違いなく価値がある」「別の惑星を見ているよう」【米】
  3. /nl/articles/2411/22/news114.jpg 中村雅俊と五十嵐淳子の三女・里砂、2年間乗る“ピッカピカな愛車”との2ショを初公開 2023年には小型船舶免許1級を取得
  4. /nl/articles/2411/21/news027.jpg 大きくなったらかっこいいシェパードになると思っていたら…… 予想を上回るビフォーアフターに大反響!→さらに1年半後の今は? 飼い主に聞いた
  5. /nl/articles/2411/22/news032.jpg 「壊れてんじゃね?」 ハードオフで買った110円のジャンク品→家で試したら…… “まさかの結果”に思わず仰天
  6. /nl/articles/2411/22/news018.jpg 猫だと思って保護→2年後…… すっかり“別の生き物”に成長した元ボス猫に「フォルムが本当に可愛い」「抱きしめたい」
  7. /nl/articles/2411/22/news171.jpg なんと「身長差152センチ」 “世界一背が低い”30歳俳優&“世界一背が高い”27歳女性が奇跡の初対面<海外>
  8. /nl/articles/2411/22/news145.jpg 大谷翔平と真美子さん、「まさかの服装」に注目 愛犬デコピンも大谷家全員で“歩く広告塔”ぶり発揮か
  9. /nl/articles/2411/20/news027.jpg 「こんなことが出来るのか」ハードオフの中古電子辞書Linux化 → “阿部寛のホームページ”にアクセス その表示速度は……「電子辞書にLinuxはロマンある」
  10. /nl/articles/2411/22/news184.jpg 「やはり……」 MVP受賞の大谷翔平、会見中の“仕草”に心配の声も 「真美子さんの視線」「動かしてない」
先週の総合アクセスTOP10
  1. 「飼いきれなくなったからタダで持ってきなよ」と言われ飼育放棄された超大型犬を保護→ 1年後の今は…… 飼い主に聞いた
  2. ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
  3. 「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
  4. まるで星空……!! ダイソーの糸を組み合わせ、ひたすら編む→完成したウットリするほど美しい模様に「キュンキュンきます」「夜雪にも見える」
  5. 妻が“13歳下&身長137センチ”で「警察から職質」 年齢差&身長差がすごい夫婦、苦悩を明かす
  6. 人生初の彼女は58歳で「両親より年上」 “33歳差カップル”が強烈なインパクトで話題 “古風を極めた”新居も公開
  7. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  8. 互いの「素顔を知ったのは交際1ケ月後」 “聖飢魔IIの熱狂的ファン夫婦”の妻の悩み→「総額396万円分の……」
  9. ユニクロが教える“これからの季節に持っておきたい”1枚に「これ、3枚色違いで買いました!」「今年も色違い買い足します!」と反響
  10. 中央道から「宇宙戦艦ヤマト」が見える! 驚きの写真がSNSで注目集める 「結構でかい」「どう見てもヤマト」 撮影者の心境を聞いた
先月の総合アクセスTOP10
  1. 50年前に撮った祖母の写真を、孫の写真と並べてみたら…… 面影が重なる美ぼうが「やばい」と640万再生 大バズリした投稿者に話を聞いた
  2. 「食中毒出すつもりか」 人気ラーメン店の代表が“スシローコラボ”に激怒 “チャーシュー生焼け疑惑”で苦言 運営元に話を聞いた
  3. フォロワー20万人超の32歳インフルエンサー、逝去数日前に配信番組“急きょ終了” 共演者は「今何も話せないという状態」「苦しい」
  4. 「顔が違う??」 伊藤英明、見た目が激変した近影に「どうした眉毛」「誰かとおもた…眉毛って大事」とネット仰天
  5. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  6. 星型に切った冷えピタを水に漬けたら…… 思ったのと違う“なにこれな物体”に「最初っから最後まで思い通りにならない満足感」「全部グダグダ」
  7. 「泣いても泣いても涙が」 北斗晶、“家族の死”を報告 「別れの日がこんなに急に来るなんて」
  8. ジャングルと化した廃墟を、14日間ひたすら草刈りした結果…… 現した“本当の姿”に「すごすぎてビックリ」「素晴らしい」
  9. 母親は俳優で「朝ドラのヒロイン」 “24歳の息子”がアイドルとして活躍中 「強い遺伝子を受け継いだ……」と注目集める
  10. 「幻の個体」と言われ、1匹1万円で購入した観賞魚が半年後…… 笑っちゃうほどの変化に反響→現在どうなったか飼い主に聞いた