「人を信じることが怖い」――萩原みのり、“人間関係”への恐怖との向き合い方 “考察型”恐怖体験ホラー映画「N号棟」インタビュー(2/2 ページ)
恐怖を伝える演技とは
――監督も最後の萩原さんの演技は忘れられないとコメントされていましたね。
ドキュメンタリーでしたとおっしゃってましたね。特にクライマックスのシーンは、それまで大好きだった監督のことも、「敵だ」「怖い」と思っていましたし、すごく優しいスタッフさんたちのことも怖い人たちに見えていたんです。
一番大事なシーンだったので、結構な時間をかけて撮影していたのですが、オフになる瞬間がどこにもないからずっと体がこわばっている状態、息が上がっている状態を続けていたからか、何も考えていないのに涙がずっと出ていたり、お芝居で蹴られているのに、「この人たちは私のことを蹴りたくて蹴っているだ」と本気で蹴られているようにしか思えなかったり、私自身もだんだんとおかしくなっていました。
――そういった経験は過去にもあったのでしょうか?
なかったです。役が抜けないという感覚をあまり経験したことがなかったのですが、この作品で「こういうことなの?」と近い感覚に陥りました。
――映像に映っている萩原さんは、本当に怯えているんですね……。この作品ではナチュラルだったかもしれませんが、恐怖を表現する上で重要なポイントはどこだと思いますか?
完成した作品を見て、思ったのはホラーの目ってすごいということ。特に、真帆役の山谷花純ちゃんが途中、真っ黒にしか見えない目をしていたんです。目だけで異様さが伝わるのかというのは、映像を見て思いました。
そういうときに私は、“見る”ことに対していつも以上に意識しています。人がいるときはすごく相手を見ますし、何もない1人の状態だったらすごく周りを見るとか、いつもより神経を使っています。
――この映画を通して、生と死についてどんな考えを持ちましたか?
小学生くらいのころから「死んだらどうなるのか?」「このまま起きなかったら?」とか、死について頻繁に考えていたんです。ときどき、「死んだひいじいちゃんがいた気がする」という話を家族から聞くと、「ひいじいちゃんまだこの世にいるの? 天国で遊んでてよ」と思っていましたし、テレビで誰かが亡くなったニュースを聞くと、「この人は今どうなっているんだろう?」とかを考えていて、死んだ後の事は未知で、想像することしか出来ないからずっと不思議だったんです。
でも、この作品で死恐怖症を患う史織の役作りの段階で死について考えすぎてしまったのか、生きることにベクトルが向いて、死んだらどうなるのかをあまり考えなくなりました。“今をどう生きるか”を考えるようになったので、この作品をきっかけに卒業できた感じがします。
友達の作り方が分からなかった “人間関係”への恐怖
――萩原さんは、何に対して“怖い”と感じますか?
人が怖いです。自分以外の人が何を考えているかなんて、一生分からないじゃないですか。すごく仲が良くて、その人のことを分かった気になっていても分からない、なんなら家族ですら分からない。だから、「結局分かり合えない」とか、もし裏切られたり、傷つくことがあったりしたらと考えすぎてしまって、人を信じることが怖くなりました。傷つかないために自分を守りすぎた結果、友達の作り方が分からなくなりました(苦笑)。ほっとする関係性を人と築くのが下手なんです。
――この作品と絡めると、対人恐怖症などに該当しそうですね。結構気にしすぎてしまう性格なんでしょうか?
ずっと人の目が怖くて、10代のころは眼鏡をしていないとダメだったんです。眼鏡ってちょっと視界が遮られるじゃないですか。あと、眼鏡を通していることで直接で見られていない感覚があって、人の目があまり気にならなくなる。ずっと眼鏡がお守りでした。最近はマシになりましたけど、友達と休みの日に遊ぶことがあまりなくて、休みの日に友達に連絡するとかも、ほとんどしたことがないです。
――逆にお休みの日は何をして過ごしていますか?
家にいます(笑)。ゲームをしたり、ずっとお風呂に入っていたりして過ごしていることが多いです。大人になると、「友達になろう」とかないじゃないですか。だから、なんとなくLINE交換したけど、これは友達ってことなのかな? もしかしたらそんなに私のこと好きじゃないかもとか思ってしまって、連絡できなくなることがめちゃくちゃあります。
子どものころから友達と遊ぶより、放課後は母と買い物に行くことが多かったですね。学生時代から母が親友のような感じで、今でもほぼ毎日LINEするほど仲良しです。
――作中で史織が自身の恐怖と向き合うシーンがありますが、萩原さんはそうした“人間関係への恐れ”とどう向き合ってきたのでしょうか?
10代のころは、友達がたくさんいることがすごいことだと思っていました。史織もそうですが、グループの中心にいる人気者であること、誰かに興味を抱かれていることがいいことだと。でも、大人になるにつれて、そこまで重要視しなくなったというか、別に友達いる人でも1人で過ごす時間ぐらいあるだろう、という考えになったからですかね。
――確かに学生時代はあの小さいコミュニティーの中で、どれだけ人気者であるかが重要のように思えますよね。
友達を作らなくちゃ、ということにずっと縛られていたんだと思います。小学校のころ、「一番の仲良しを書いてください」というアンケート用紙が配られたんです。今思えば、生徒の誰と誰が仲いいのかを把握するためのアンケートなんでしょうけど、そのときに「誰も私の名前を書かなかったらどうしよう」「私は一番だと思っているけど、相手にとって私は一番じゃなかったら……」と考えすぎていたこともありました。
当時は、そこが世界の全てだと思っていましたが、今はさすがに大人になってきたので、1人でいることの楽しさが分かるようになってきて、少しマシになりました。芸人さんの本を読むと、私と同じように生きづらさを抱えている人はたくさんいるんだ、とホッとできて、これでもいいんだ、と肯定してもらえた気持ちになります。
――ありがとうございます。最後に気になっていたことなのですが……萩原さんの作品を見ると、ロングヘアのときとショートヘアのときの差が大きかったりスパンが短かったりしますよね。ウィッグなのでしょうか?
すごく髪の毛が長いときはエクステを付けている作品もあります。髪形ってメイクと同じで印象がすごく変わるので、役作りのときには意識して、主演をさせていただくようなときなどは相談することもあります。
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N号棟
ストーリー
とある地方都市に、かつて例が出るといううわさで有名な団地があった……。女子大生の史織(萩原みのり)は、元カレの啓太(倉悠貴)が卒業制作に撮影するホラー映画のロケハンに興味本位で同行する。啓太の現在の恋人・真帆(山谷花純)と3人で向かう先は廃団地。廃墟同然の建物を進む一行だったが、そこには今も住人たちがいた。不思議に思いながらもロケハンを進めようとすると、突如激しいラップ現象に襲われる。騒ぎが落ち着いたかに見えたその瞬間、優しい声をかけてくれていた住人の1人が、目の前でおもむろに階下へ飛び降り自殺を図る……。状況を飲み込めずに驚く史織たちをよそに、住人たちは顔色1つ変えない。超常現象、臨死浮遊、霊の出現……徐々に「神秘的体験」に魅せられた啓太や真帆は次第に洗脳されてしまう。仲間を失い、追い詰められた史織は、自殺者が運び込まれた建物内へ侵入するが、そこで彼女が見たものは思いもよらぬものだった。
監督
後藤庸介
キャスト
萩原みのり
山谷花純
倉悠貴
岡部たかし
諏訪太朗
赤間麻里子
筒井真理子
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