劇場版「名探偵コナン」が25作目でたどり着いた新境地! コナンファンが語り倒す「ハロウィンの花嫁」:赤いシャムネコ・将来の終わりが語る(1/3 ページ)
今年のコナンもすごかった!
劇場版「名探偵コナン ハロウィンの花嫁」公開から早2週間。シリーズ25作目となる本作は、口コミでの好評も手伝って過去最高水準のオープニング成績を記録しています。
前作「緋色の弾丸」はコロナ禍の影響により、公開年が2020年から2021年にスライド。それを受け「ハロウィンの花嫁」の製作スケジュールは例年よりも恵まれたものになり、2年以上かけて作られたことが分かっています。それもあってか、本編では開始早々に過去作では見られなかった仕掛けも。
見どころ満載の最新作をシリーズファンはどう見たのか? 毎年劇場版「名探偵コナン」を心待ちにしている、将来の終わりさんと赤いシャムネコさんに思う存分語ってもらいました。前半はネタバレなし。後半は犯人やトリックに関する直接的なネタバレは避けつつも、より踏み込んだ内容となっているため、これから見る人はご注意を。
コナンファンが語る「ハロウィンの花嫁」
――「ハロウィンの花嫁」が、公開10日で興行収入36億円を突破する好調な滑り出しです。コナンファンのおふたりから見て、本作が好スタートを切ったワケはなんだと思いますか?
将来の終わり(以下、終わり):近年の劇場版コナンは、レギュラーキャラクターに持ち回りでスポットを当てていくような作りをしています。本作のメインは、高木と佐藤、警察学校組、そして安室透こと降谷零です。
赤いシャムネコ(以下、シャム):安室のここ数年の人気はとにかくすごい。先日行われた原作の人気エピソード投票でも、安室絡みのエピソードがのきなみ上位にランクインしていました。「純黒の悪夢」(2016年)や「ゼロの執行人」(2018年)のヒットのおかげで、劇場版だけでしかコナンを追っていない人にとっても知名度があります。
終わり:そんな安室を予告でガン推ししていて、しかも使われているカットの顔がことごとくいいので、安室ファンはまず見に行きますよね。また高木と佐藤は原作の序盤からずっと出ているキャラクターなので、10年以上離れていたファンでも知っていて「今年は見にいってみるか」となりそう。さらに毎年劇場版を見に行っている層は、「異次元の狙撃手」(2014年)以降原作と劇場版の相乗効果が見過ごせないレベルになっている。……というところが重なってのことだと思います。
シャム:「緋色の弾丸」(2021年)は、1年延期しての公開で期待も寄せられていましたが、公開直後に映画館がコロナ対策で閉まるという不運があった。今年は今のところ、そのような制約がないのも後押しではありそうですね。
――本作はやはり、警察学校組(降谷の警察学校の同期、松田・萩原・伊達・諸伏)にスポットが当たっているところが欠かせないのでは。5人の描写はどうでしたか?
シャム:松田と萩原は爆弾解体中に殉職、諸伏はスコッチとして黒の組織への潜入中に自殺、伊達は交通事故死……と、4人とも既に亡くなっているから、活躍シーンをどうやって描くんだろうと思っていましたが。
原作で振り返る、あの5人の軌跡…! 日本の安全を日夜守る、公安警察の男・降谷零。彼の強い意志を支える、警察学校時代の同期達を、今あらためてエピソードを通じ振り返る…! 正義のために戦った、松田・伊達・諸伏・萩原の生き様を見逃すな!
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終わり:コナンの時間軸で7年前に亡くなっている萩原はともかく、3年前に松田が殉職する直前に焦点を当て、「4人が集合した最後の日」として描いてましたね。
シャム:4人が邂逅した「ある事件」を描くことで、全員にきちんと見せ場を作っています。期待以上に警察学校のメンバーにちゃんと触れていました。
終わり:劇場版の楽しみのひとつ、原作者・青山剛昌先生の原画(ファンの間では「青山原画」と呼ばれる)もたくさんあってよかったです。4人にそれぞれ青山先生が原画を描いているシーンがあるよね? そうやって回想として描きつつも、過去の彼らの行動が、現在進行中の事件の解決にしっかり生かされる。「過去を断ち切らない、忘れないことの強さ」というテーマの一本線を感じました。
シャム:僕は爆発物処理班の松田と萩原推しなんです。萩原は原作ではセリフがなく、アニメ版の「揺れる警視庁 1200万人の人質」のタイミングでデザインやキャラクターが定まったという経緯がある。とはいえ彼が爆死したのは7年前で、3年前の回想の時点ですら既にいないキャラだから、予告編でも「墓」しか出ていなくて。今回の出番はそこまで期待せずにいたけど……詳しくは言えませんが非常にうれしかった……!
終わり:萩原は最近、原作に姉も登場しましたね。
シャム:萩原千速。4月に発売された原作『名探偵コナン』101巻は、萩原の姉・萩原千速、安室の活躍、伊達にも触れられていて、あわせて読みたくなるエピソード満載です。今回、警察学校組と安室さんの関係の描き方はすごくよかった。警察学校組でもったいなかったのは、今回は高木が主役でもあるのに、伊達と高木の関係が深堀りされなかったことですかね。彼らは警視庁内で「ワタル・ブラザーズ」と呼ばれていて、伊達の死の現場に立ち会ったのも高木なんですよね。今回は安室との関係に割り切ったというのは分かっているのですが……。
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終わり:松田・萩原・諸伏の死の背景には連続爆破事件や黒の組織の存在があるけど、伊達は今のところただの不運な交通事故死。掘れば掘るほどかわいそうだと感じる……。ただ、諸伏と降谷の「ゼロ!」「ヒロ!」の呼びあいはいちゃいちゃしててよかったですね。俺は何を見ているんだ……? という気持ちもしたけど。
シャム:呼び名で言えば、萩原が松田を呼ぶ「陣平ちゃん」もうれしいポイントでした。
2022年の「新しいコナン」
――脚本への印象はいかがでしょうか。
終わり:ここ数年のコナンは、2人の脚本家が持ち回り式で劇場版を担当しています。去年の「緋色の弾丸」などを担当しているのは櫻井武晴さん。他の作品だと「相棒」などを長年担当していて、ざっくり言えば「少年漫画ギリギリの社会派サスペンス」。重厚なテーマを扱い、特に公安警察を主軸に置いた「ゼロの執行人」では安室が映えてました。
シャム:「ハロウィンの花嫁」を担当した大倉崇裕さんは現役のミステリ作家でもあるので、ミステリ的に毎回面白いことをやってくれる脚本家という印象ですね。「から紅の恋歌」(2017年)では、爆弾があるコナンの世界で連城三紀彦のようなホワイダニットをやるという異様なマリアージュを見せてくれました。「紺青の拳」(2019年)は、同じく爆弾をフルに駆使しつつ、古典的なアリバイトリックを新鮮にアレンジしています。
終わり:テレビシリーズでも仕掛けの多い脚本を書く人ですよね。アニメオリジナルの「不思議な少年」(2016年)は「刑事コロンボ」式に犯人をコナンが追い詰めていく氏お得意の倒叙ものですが、それだけでは終わらない「コナン」でしか書けないラスト。長編の「大怪獣ゴメラVS仮面ヤイバー」(2020年)も、“意外な犯人”を魅せるためのトリックがさく裂しています。
シャム:「ハロウィンの花嫁」に合わせたテレビアニメのオリジナルエピソード「空飛ぶハロウィンかぼちゃ」も、異様にミステリとして出来がいいな……もしかしたら劇場版よりもミステリ面では手の込んだことをやってるぞ……とクレジットを見たら大倉さんでした。
終わり:「ハロウィンかぼちゃ」は鎌仲史陽さんのコンテもキレキレでした。ポアロの中で話しているだけなのに画面から目が離せない。
シャム:でも何より大倉さん脚本の一番好きなところは、爆破にコミットしてくれるところです! 「紺青の拳」では、マリーナ・ベイサンズがすごいことになりましたから。
終わり:爆破でいえば「から紅の恋歌」の爆破も印象的でした。「紺青の拳」は……インフレがすごくなかった!?
シャム:過去一の爆破スケールで本当に素晴らしくて………。「ハロウィンの花嫁」では渋谷の実在の建物が多数出ていたので、さすがに爆破できないだろうとは覚悟していましたが、「いや、でも大倉さんだったら……!?」と期待してしまいましたね。
終わり:コナンに出るなら爆破くらい受け入れてほしい。
シャム:マリーナベイサンズは快く受け入れてくれたのに……。でも、クライマックスに仕掛けられた爆弾のアイデアは天才でしたよ。コナンならではの大きい嘘をつきつつ、舞台の渋谷をフルに活用している。あそこは青山先生のアイデアとのことですが、文句なしに素晴らしかった。
終わり:渋谷といえば、今回はCGの使い方がよかったです。街をCGでまとめて作り、オープニングやコナンくんの推理シーンで活用していた。本作の監督は劇場版コナン初参加になる満仲勧さん。「ハイキュー!」などが代表作ですが、直近で印象に残っているのは「魔法陣グルグル」(2017年版)23話。原作・旧アニメへのオマージュを入れながら、キタキタ親父のシーンでは「CG、こんな使い方するのか?」と驚かせてもらいました。満仲さんの参加によって、新しいことがいろいろやられているなと。
シャム:全体的に新しいコナンだったよね。オープニング1つとっても、これまではメインテーマのアレンジイントロが流れて、そのあとすぐにタイトルロゴが出て「俺の名前は工藤新一」……と続くのが“定石”でした。でも今回は、タイトルロゴがオープニングの最後に出る! 映画館で「えっ、ここで出ないの!?」と叫びそうになりました。
終わり:演出と作画面の話をすると、絵コンテと原画では劇場版コナン大ベテランの寺岡巌さん、金井次朗さんが参加しています。それぞれテレビシリーズで傑作オープニング「世界はあなたの色になる」、佐藤・高木に警察学校メンバーが総登場するエンディング「さだめ」などを担当した2人です。音楽では、アニメコナン立ち上げからずっと関わっていた大野克夫さんから菅野祐悟さんに交代してますね。過去のいいところはそのままに、積極的に変化していこうという意志を感じました。
シリーズへのリスペクトとオマージュ
――本作のメインキャラクターである安室ですが、今回は序盤に首輪爆弾をとりつけられました。
終わり:予告でやや明かされているところまでで言うと、序盤は「いかに機動力を削ぐか」でしたね。まず小五郎が灰原を助けての事故で倒れる。そうすると最強キャラ・蘭姉ちゃんが動きにくくなる。そして万能キャラである安室には首輪爆弾をつけて、地下の小部屋に閉じ込めておく……。
シャム:あのツッコミ待ち地下シェルター最高でしたね。水差し何?
終わり:イメージボードを担当したloundrawさんの仕事ですね。ツッコミどころはあるけど、あのカッコよさを使わないのは無理でしょう。
シャム:「紺青の拳」でも似たような組み立てをしていますよね。京極真に制約をつけるためのミサンガ、安室を封じ込めるための首輪爆弾。その制約が外れたときに彼らの「本気」が見られるという熱い展開。
終わり:シリーズのファンとして注目したいのは「安室透=降谷零」と「江戸川コナン」との関係が、「ゼロの執行人」のさらに先、ギリギリのところに着地しているところですかね。エンドクレジット直前のシーンは、本当に限界の表現だと思います。
「コナン」をずっと追いかけている身からすると、どうしたってこだま兼嗣監督・古内一成脚本のタッグによる初期作の印象が強いんですが、今回はそこからのオマージュも強く感じました。絵でいえばクライマックスのヘリポートのカメラ使いには、「14番目の標的」(1998年)。脚本では後半、とある人物に対してコナンがある種とっぴともいえる行動をするシーンがありますが、その背景に思い起こしたのは「ピアノソナタ『月光』殺人事件」(原作第7巻)。“コナンがコナンだから助けられなかった”事件の存在を前提におくと、感慨深いものがあります。
シャム:“あの曲”の歌詞ありバージョンを採用してくれたのも興奮だった。
終わり:あれはよかったよね。久しぶりじゃない?
シャム:「探偵たちの鎮魂歌」(2006年)ぶり。次は「ぼくがいる」を使ってほしい。「銀翼の奇術師」(2004年)以外で一度も使われてない……。
終わり:同じくメインテーマのアレンジですが、歌詞もメロディもかなり異色な曲ですね。いつの日か劇場でまた聴きたい。
シャム:2019年からスピンオフ的に「警察学校編」が連載、劇場版のタイミングに向けてテレビアニメ化もしましたが、そこへのオマージュも随所にあって、原作を読み込んで作っているなと感じました。警察学校組の回想シーンはもちろんのこと、現代パートでもたくさんありましたね。分かりやすいところだと、中盤でコナンくんが巻き込まれる爆発の「意外とまともな脱出方法」は、警察学校編のとあるエピソードと重ねてのものだったり。
終わり:「いつももっとすごいところからなんとかしてるでしょ!」という。
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シャム:警察学校編を知らないで、いつもの劇場版のコナンくんの身体能力だと思って見たら、ちょっと奇妙に思えるかもですね(笑)。あそこだけ人間ぽい!
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