SNS中心に「短歌」ブームが到来? 歌人でヒット小説家・錦見映理子さんに聞く、めくるめく短歌の魅力(2/2 ページ)
錦見映理子はなぜ歌人の道を選んだのか
――錦見さんは昔から短歌に興味があったのですか。
錦見:いえ、それが全くなんです(笑)。20代のころ脚本家を志してシナリオスクールに通っていたのですが、ある日特別なことがあったので日記にそれを残そうと思ったのですが、なんとなくストレートには書きたくなったので、詩のような表現で書いてみたんです。そしたら“短歌っぽい何か”ができて。家にたまたま与謝野晶子さんの歌集とか、俵万智さんの『サラダ記念日』があったので、見比べてみたら「これ短歌じゃん。私短歌書いてるじゃん」って気づいたんです。
――ナチュラルに短歌を詠んでしまったと。
錦見:そうなんです。それで、びっくりして本屋さんにいってみたら『角川短歌』という短歌の専門誌があったので、それを買って帰ったんですが、「あなたの自作の短歌を送ってください」というコーナーを見つけて、なんとなく応募はがきを送ってみました。そうしたらそれが2カ月後の「角川短歌」で大きく取り扱われて。なんだか楽しくなってきてしまったので、そこから毎月応募はがきを送っていたら、毎号取り扱われるようになったので、「これはもしかして」と新人賞に応募してみることにしました。
――もともと文学の世界には興味があったんですか。
錦見:小さいころから本が好きだったので興味はあったのですが、歌人が現代にいるということをまず知りませんでした。短歌も教科書に載っているような偉人や、すでに亡くなっている人が作ったものなんだろうと思っていたんです。それに10歳くらいのときから母が「文学には不幸が必要だ」と言われていて、漠然と文学に対する恐怖もあったんですよね(笑)。でも短歌を実際にやるようになってからは、文学的な価値と現世利益的な幸不幸は全く関係がないんだと気づきました。
小説家の道に足を踏み入れた理由
――歌人として活躍の場を広げながら書きあげた処女作『リトルガールズ』が第34回太宰治賞を受賞し、作家デビューも果たした錦見さん。小説を書くことになったきっかけは何だったのでしょうか。
錦見:短歌は基本的には主人公が“私”で、一首の中の登場人物は最大でも2人ぐらいなんです。30代までは自分のことを一生懸命に書かなくてはと思っていたのですが、次第に「もう自分のことは飽き飽きだ、第三者のことが書きたい」と思うようになっていって、小説だとどうなるんだろうと試してみました。
――最初からうまく書けましたか。
錦見:全然うまくいきませんでしたね。「私は何々しました」という作文のような文体に違和感があって、5年くらいは試行錯誤を繰り返していました。
ただ何かの賞を受賞しないと小説家デビューできないだろうと思っていたので、とにかく「最後まで読み続けてもらうこと」を心掛けて『リトルガールズ』を書きあげました。
――これがあったから受賞できた、というポイントがあれば教えてください。
錦見:賞レースはとにかく審査する人に読み続けてもらわなくてはいけません。いうなれば自分が運転する文章という名の車に読み手を乗せて、一緒に自分の描く世界へと連れていくことができれば途中で読み捨てられないだろうと考えました。だからこそ、読み手には“ずっと乗っていたい車”だとと感じてもらわなくてはなりませんし、「この先どうなるのか」「この登場人物は一体何なんだろう」と思ってもらえるようなアプローチ作りを工夫しました。
――錦見さんの作品は魅力あふれる登場人物が登場しますよね。
錦見:私はセリフが書きたいというよりは、登場人物をリアルに描きたいと思っているんです。
新作の『恋愛の発酵と腐敗について』は、パン屋さんを舞台にした作品なのですが、まず作品を書く前にパン職人の方が書いた教科書を読みこみました。もともとパンは焼いたことがあったのですが、「弱い菌と強い菌があったら、弱い菌は強い菌に淘汰されるけれど2時間以内なら共存できる」ということが書いてあって、「人間関係のことみたい」だと思いました。初期の段階から『恋愛の発酵と腐敗について』というテーマで書くことを決めました。
――『恋愛の発酵と腐敗について』は不思議な三角関係をつづった小説と見せかけて……という斬新さにぐいぐい引き込まれました。テーマを決めてからどのように書き進めたのでしょうか。
錦見:もともとプロットを作るのが得意ではないので、まず相関図を作りました。舞台を商店街という小さなコミュニティーに決めて、キーマンとなるパン職人の虎之介、暴走する女・早苗、そして主人公の万里絵を描いていくうちに、新たな時代の女性の生き方に関わる作品になったように思います。
歌人ならではの着眼点で、紙一重な「発酵」と「腐敗」というテーマを描いた『恋愛の発酵と腐敗について』は小学館より好評発売中。単純な恋愛ものという感じではないので、連休のお供にもおすすめな一冊です。公式サイトには、試し読みページも用意されているので、気になる人はチェックしてみると良さそうです。
(Kikka)
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