SNS中心に「短歌」ブームが到来? 歌人でヒット小説家・錦見映理子さんに聞く、めくるめく短歌の魅力(2/2 ページ)

» 2022年05月05日 12時00分 公開
[Kikkaねとらぼ]
前のページへ 1|2       
※本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

錦見映理子はなぜ歌人の道を選んだのか

――錦見さんは昔から短歌に興味があったのですか。

錦見いえ、それが全くなんです(笑)。20代のころ脚本家を志してシナリオスクールに通っていたのですが、ある日特別なことがあったので日記にそれを残そうと思ったのですが、なんとなくストレートには書きたくなったので、詩のような表現で書いてみたんです。そしたら“短歌っぽい何か”ができて。家にたまたま与謝野晶子さんの歌集とか、俵万智さんの『サラダ記念日』があったので、見比べてみたら「これ短歌じゃん。私短歌書いてるじゃん」って気づいたんです。

――ナチュラルに短歌を詠んでしまったと。

錦見そうなんです。それで、びっくりして本屋さんにいってみたら『角川短歌』という短歌の専門誌があったので、それを買って帰ったんですが、「あなたの自作の短歌を送ってください」というコーナーを見つけて、なんとなく応募はがきを送ってみました。そうしたらそれが2カ月後の「角川短歌」で大きく取り扱われて。なんだか楽しくなってきてしまったので、そこから毎月応募はがきを送っていたら、毎号取り扱われるようになったので、「これはもしかして」と新人賞に応募してみることにしました。

――もともと文学の世界には興味があったんですか。

錦見小さいころから本が好きだったので興味はあったのですが、歌人が現代にいるということをまず知りませんでした。短歌も教科書に載っているような偉人や、すでに亡くなっている人が作ったものなんだろうと思っていたんです。それに10歳くらいのときから母が「文学には不幸が必要だ」と言われていて、漠然と文学に対する恐怖もあったんですよね(笑)。でも短歌を実際にやるようになってからは、文学的な価値と現世利益的な幸不幸は全く関係がないんだと気づきました。

小説家の道に足を踏み入れた理由

――歌人として活躍の場を広げながら書きあげた処女作『リトルガールズ』が第34回太宰治賞を受賞し、作家デビューも果たした錦見さん。小説を書くことになったきっかけは何だったのでしょうか。

錦見短歌は基本的には主人公が“私”で、一首の中の登場人物は最大でも2人ぐらいなんです。30代までは自分のことを一生懸命に書かなくてはと思っていたのですが、次第に「もう自分のことは飽き飽きだ、第三者のことが書きたい」と思うようになっていって、小説だとどうなるんだろうと試してみました。

――最初からうまく書けましたか。

錦見全然うまくいきませんでしたね。「私は何々しました」という作文のような文体に違和感があって、5年くらいは試行錯誤を繰り返していました。

 ただ何かの賞を受賞しないと小説家デビューできないだろうと思っていたので、とにかく「最後まで読み続けてもらうこと」を心掛けて『リトルガールズ』を書きあげました。

――これがあったから受賞できた、というポイントがあれば教えてください。

錦見賞レースはとにかく審査する人に読み続けてもらわなくてはいけません。いうなれば自分が運転する文章という名の車に読み手を乗せて、一緒に自分の描く世界へと連れていくことができれば途中で読み捨てられないだろうと考えました。だからこそ、読み手には“ずっと乗っていたい車”だとと感じてもらわなくてはなりませんし、「この先どうなるのか」「この登場人物は一体何なんだろう」と思ってもらえるようなアプローチ作りを工夫しました。

――錦見さんの作品は魅力あふれる登場人物が登場しますよね。

錦見私はセリフが書きたいというよりは、登場人物をリアルに描きたいと思っているんです。

短歌 歌人 錦見映理子 『恋愛の発酵と腐敗について』

 新作の『恋愛の発酵と腐敗について』は、パン屋さんを舞台にした作品なのですが、まず作品を書く前にパン職人の方が書いた教科書を読みこみました。もともとパンは焼いたことがあったのですが、「弱い菌と強い菌があったら、弱い菌は強い菌に淘汰されるけれど2時間以内なら共存できる」ということが書いてあって、「人間関係のことみたい」だと思いました。初期の段階から『恋愛の発酵と腐敗について』というテーマで書くことを決めました。

――『恋愛の発酵と腐敗について』は不思議な三角関係をつづった小説と見せかけて……という斬新さにぐいぐい引き込まれました。テーマを決めてからどのように書き進めたのでしょうか。

錦見もともとプロットを作るのが得意ではないので、まず相関図を作りました。舞台を商店街という小さなコミュニティーに決めて、キーマンとなるパン職人の虎之介、暴走する女・早苗、そして主人公の万里絵を描いていくうちに、新たな時代の女性の生き方に関わる作品になったように思います。


 歌人ならではの着眼点で、紙一重な「発酵」と「腐敗」というテーマを描いた『恋愛の発酵と腐敗について』は小学館より好評発売中。単純な恋愛ものという感じではないので、連休のお供にもおすすめな一冊です。公式サイトには、試し読みページも用意されているので、気になる人はチェックしてみると良さそうです。

(Kikka)

前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2504/16/news035.jpg 「ウソだ…」「言葉が出ない」 幼少期から絵を描き続けた少年→15年後…… 大人になって描いた絵が100万再生【海外】
  2. /nl/articles/2504/16/news023.jpg 「成長したらそのうち襲ってくる」と言われたワニ、16年後……→ 280万回再生を突破した驚きの姿に「初めて見た」の声
  3. /nl/articles/2504/18/news025.jpg 2日かけて組み立てたのに動かない!? 自作PC初心者あるあるの再現が1460万再生「いまいましい」「同じミスしたよ」【海外】
  4. /nl/articles/2504/19/news044.jpg 「これは名品」「大当たり」 ユニクロの新作春夏コレクション、“売り切れ続出”だったアウター3商品とは
  5. /nl/articles/2504/18/news140.jpg 親が「絶対たぬき」「賭けてもいい」と言い張る動物を、保護して育ててみた結果…… 驚愕の正体が230万表示「こんなん噴くわ!」話題になった飼い主に聞いた
  6. /nl/articles/2504/19/news063.jpg 皇后さま、「ロイヤルブルー」で華やかさ演出 天皇陛下は黒の蝶ネクタイ【10万いいね】
  7. /nl/articles/2504/19/news036.jpg 折り紙を三角に折り続けていくだけで……「天才だ!」 驚きの作品に「すげーーーーー!!」「折ってみます!」
  8. /nl/articles/2504/18/news018.jpg 磯で見つけた“謎の穴”に釣り糸を垂らすと…… 「デカい!」牙をむいた“海のギャング”に「こんなことあるんですね」
  9. /nl/articles/2504/19/news051.jpg 湘南の砂浜に打ちあがった“超危険生物”を飼育したら…… 貴重な姿に「初めて見ました」「かっこいい」と大反響→2年後の現在について話を聞いた
  10. /nl/articles/2504/18/news172.jpg 「1回もエンジン掛けてない」 寺門ジモン、“希少な高級外車”を7年放置で廃車寸前に……ボロボロで激ヤバな相棒へ「ごめんな〜!」
先週の総合アクセスTOP10
  1. 小学生時代「こんなプラモ誰が買うんだよw」→40年後…… “大人になった”を実感するエピソードに「分かる」「特大ブーメランw」
  2. パパに、保育園へ行く娘のヘアアレンジを任せたら…… ママがひっくり返った“仕上がり”が400万表示「重力どこ?」「頑張った感がいい!」
  3. 「神パンツきた」 ユニクロ新作“3990円パンツ”が品切れラッシュの大人気 「過去イチかも」「本当にこれは買い」
  4. なんとなく捨てにくい紙袋→2カ所切り込みを入れるだけで…… 目からウロコの“活用術”に「これすごくいい!」【海外】
  5. 「見習うことばかり」 80代おばあちゃんの春服&収納術がステキ! 上品かつオシャレで「憧れです」「尊敬します」
  6. ファスナーに直接毛糸を編み付けていくと…… 完成した“便利でかわいいアイテム”が100万再生「天才だ」「これ大好き」【海外】
  7. 「尊厳を踏みにじる行為」 八代亜紀さんの“物議のCD”は「流通会社がすでに流通を中止」 タワレコが回答
  8. 古くなったジーンズは捨てないで! 目からウロコの“アイデア”に大反響「なにこれかわいい!」「こんなの作れるんだ」【海外】
  9. 指先サイズの小さな器に木を植えて、育てたら…… 「芸術だ」「半端ない」鳥肌モノの“神盆栽”に反響
  10. 義母「ランドセル代を振り込みました」→銀行口座を見ると…… 2児ママ絶叫の“神対応”が1520万表示「凄すぎる!」
先月の総合アクセスTOP10
  1. 【べらぼう】“問題のシーン”、「子供に見せられない」 身体張った27歳俳優へ「演技やばくない?」
  2. 「恩師ビックリするやろなぁ」 中学3年で付き合い始めた“同級生カップル”が10年後…… まさかの現在に反響
  3. 「本当に迷惑」 宅急便の「不在連絡票」と酷似のチラシが物議…… ヤマト運輸「配布中止申し入れ」
  4. 「うそでしょ!?」 東京ディズニーランド、“老舗”レストランの閉店を発表 「とうとう来てしまったか」「いやだああああ」と悲しみの声
  5. 雑草ボーボーの運動場に“180羽のニワトリ”を放ったら…… 次の日、まさかの光景に「感動しました」「すごい食欲」
  6. 40歳・女性YouTuber「18年間、脇毛を処理していない」→“処理しない理由”語る 「脇のみならず……」
  7. コメダ珈琲店で朝、ミックスサンドとコーヒーを頼んだら…… “とんでもない事態”に爆笑「恐るべし」「コントみたい」
  8. 息子の小学校卒業で腕を組んだ34歳母→中学校で反抗期を迎えて…… 6年後の姿に反響 「本当に素敵!」「お母さん、変わってない!?」
  9. Koki,、豪邸すぎる“木村家の一室”がウソみたいな広さ! 共演者も間違えてしまうほどの空間にスタジオビックリ「コレ自宅!?」「ちょっと見せて」
  10. 使わない靴下をザクザク切って組み合わせると…… 目からウロコの再利用法が2500万再生「とてもクリエイティブ」【海外】