アニメ「犬王」は“怪物”と“音楽”を映画にした 湯浅政明×古川日出男 対談ロングインタビュー(1/4 ページ)

「どろろ」のようなバディものになった理由がある

» 2022年05月27日 19時00分 公開
[ヒナタカねとらぼ]

 アニメ映画「犬王」が5月28日より公開される。筆者が本作を見た第一印象は、とてつもなく「ブッ飛んでいる」というものだった。何しろ、劇中では実在の能楽師である犬王をポップスターとして描いており、耳に残る強烈な楽曲を前面に押し出した“ロック・オペラ”が展開していくのだから。

アニメ「犬王」は“怪物”と“音楽”を映画にした。湯浅政明監督&古川日出男先生の対談ロングインタビュー 『犬王』 5月28日(土) 全国ロードショー 配給:アニプレックス、アスミック・エース (C) 2021 “INU-OH” Film Partners

「犬王」本予告(60秒)[代表作入りver.]

 原作は小説『ベルカ、吠えないのか?』や『平家物語』の現代語訳で知られる作家の古川日出男、監督を務めたのは「マインド・ゲーム」や「四畳半神話大系」などでアニメファンから絶大な支持を得る湯浅政明だ。

 さらに脚本をドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」や「アンナチュラル」の野木亜紀子、キャラクター原案を松本大洋、音楽を大友良英が手掛けるなど豪華な布陣になっている。ボイスキャストももれなくハマっていて、特に主役の2人、アヴちゃんと森山未來それぞれの歌唱力と演技力にも感嘆しきりだった。

「犬王」アヴちゃん<犬王役> × 森山未來<友魚役>インタビュー

 湯浅政明監督の良い意味で“ドラッギー”とも評される躍動感のあるアニメ表現もフルスロットルであり、超前衛的なミュージシャンのライブを見届けたような感動があるため、とにかく音響の優れた映画館で見届けてほしいと願うばかりだ。さらに、手塚治虫のマンガ『どろろ』にも似た要素、“バディもの”の魅力、ミュージシャンとして成り上がっていくサクセスストーリー(とは言い切れない要素もあるが)の面もありエンターテインメント性が高いため、予備知識なく見ても問題なく楽しめるだろう。

 ここでは、原作者である古川日出男先生と、監督である湯浅政明へのロングインタビューをお届けしよう。なぜこれほどブッ飛んだ作品になったのか? はたまたバディものになった必然性とは? ぜひ知っていただければ幸いである。

アニメ「犬王」は“怪物”と“音楽”を映画にした。湯浅政明監督&古川日出男先生の対談ロングインタビュー (左)古川日出男先生(右)湯浅政明監督

犬王の生涯が「未知のもの」に戻った

――まずはお二人に、出来上がった映画、そして原作の率直な感想を、それぞれお聞かせ願いたいです。

湯浅政明(以下、湯浅) 原作『平家物語 犬王の巻』は犬王という、名前だけが残っていた存在に光を当てています。「平家物語」を現代語訳で語りなおした古川さんが、今度は「平家物語」を語り伝えた琵琶法師や犬王の話を物語にし、それをまたぼくらがアニメで語るというところに、アニメを作る意義があると思いました。

 最初に読んだときは「オカルティックな時代劇もので面白い」といった程度だったのですが、読み込むとどんどん、失礼な言い方ですが「本当によく考えていらっしゃる」と思いましたね。なぜ室町時代なのか、なぜ“琵琶”なのか、なぜ“能”なのか、初めはなんとなくにしか思っていなかった要素それぞれが「なるほど」と腑に落ちていく。軽快な語り口なので、スッと飛ばしてしまいそうなところでも、読み込むと奥深さがありました。

古川日出男(以下、古川) 犬王は実在した天才パフォーマーですが、どう生まれたのか、何をやったのか、はっきりしない人物なんです。芸風は有名で、それを表現する“幽玄”という言葉も残っているけど、具体的なことは分からない、その未知の部分を自分の言葉で埋めていって作ったのが、『平家物語 犬王の巻』という小説です。

 湯浅さんはそれを全てアニメで描き切っているわけですが、原作者なのに見ていて「いったいどうなるんだ」「今何が起きているんだろう」などと、僕も知らないものがどんどん生まれてきて、もう1回犬王の生涯を「未知のもの」に戻してもらったことに感動しました。

アニメ「犬王」は“怪物”と“音楽”を映画にした。湯浅政明監督&古川日出男先生の対談ロングインタビュー 主人公の犬王。奇怪な姿で生まれたため、大人たちはその全身を衣服で包み、顔に面を被せている。(C)2021 “INU-OH” Film Partners

――原作にはないロック・オペラ部分が特に大きいですよね。公式のコメントで古川さんは「映画のモンスターである」とおっしゃっていましたが、まさにその通りの躍動感や迫力を感じる作品でした。

古川 モンスターとしか形容できないですよね。小説の映画化とかアニメ化にはいろいろな方法があるとは思うのですが、「映画は普通こういう形でやるだろう」とか「限界をあらかじめ決めたアニメの方法論」でやるのかなと思っていたら、全く違うものができていて。それを形容する言葉は、もう怪物だなと。もちろん、最大の褒め言葉であり、衝撃です。僕が原作で書いた体が変化する前の犬王は、まさに怪物のような存在で、湯浅さんは映画そのものを犬王にしたんだ、と思いました。

アニメ「犬王」は“怪物”と“音楽”を映画にした。湯浅政明監督&古川日出男先生の対談ロングインタビュー (C)2021 “INU-OH” Film Partners
       1|2|3|4 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2411/19/news150.jpg 「情報を漏らされ振り回され……」とモデラー“限界声明” Vtuberのモデル使用権を剥奪 「もう支えられない」「全サポート終了」
  2. /nl/articles/2411/20/news028.jpg 「うどん屋としてあるまじきミス」→臨時休業 まさかの“残念すぎる理由”に19万いいね 「今日だけパン屋さんになりませんか」
  3. /nl/articles/2411/20/news224.jpg “ドームでライブ中”に「76万円の指輪紛失」→2日後まさかの展開に “持ち主”三代目JSBメンバー「誰なのか探しています」
  4. /nl/articles/2411/19/news169.jpg 高畑充希と結婚の岡田将生、インスタ投稿めぐり“思わぬ議論”に 「わたしも思ってた」「普通に考えて……」
  5. /nl/articles/2411/20/news031.jpg 「本当に同じ人!?」 幼少期からイボをいじられていた男性→美容師の“お任せカット”が衝撃 「めちゃくちゃ大変身」
  6. /nl/articles/2411/19/news022.jpg 「おててだったのかぁああああ」「同じ解釈の人いた笑笑」 ピカチュウの顔が“こう見えた”再現イラストに共感続々、464万表示
  7. /nl/articles/2411/20/news042.jpg 「腹筋崩壊」 ハスキーをシャンプー&パックしたら…… “予想外のハプニング”に「こ〜れは大変だわ」「沼にでも落ちたのかとwww」
  8. /nl/articles/2411/20/news216.jpg “歌姫”ののちゃん、6歳現在の姿に驚きの声「あれっ!?」「ビックリしてます!」 2歳で「童謡こどもの歌コンクール」銀賞受賞
  9. /nl/articles/2411/20/news041.jpg 黄ばみのある68年前のウエディングドレスを修復すると…… 生まれ変わった姿に「泣いた」「受け継ぐ価値のあるドレス」
  10. /nl/articles/2411/18/news107.jpg 走行中の車から同じ速さで後方へ飛び降りると? 体を張った実験に反響「問題文が現実世界で実行」【海外】
先週の総合アクセスTOP10
  1. 「飼いきれなくなったからタダで持ってきなよ」と言われ飼育放棄された超大型犬を保護→ 1年後の今は…… 飼い主に聞いた
  2. ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
  3. 「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
  4. まるで星空……!! ダイソーの糸を組み合わせ、ひたすら編む→完成したウットリするほど美しい模様に「キュンキュンきます」「夜雪にも見える」
  5. 妻が“13歳下&身長137センチ”で「警察から職質」 年齢差&身長差がすごい夫婦、苦悩を明かす
  6. 人生初の彼女は58歳で「両親より年上」 “33歳差カップル”が強烈なインパクトで話題 “古風を極めた”新居も公開
  7. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  8. 互いの「素顔を知ったのは交際1ケ月後」 “聖飢魔IIの熱狂的ファン夫婦”の妻の悩み→「総額396万円分の……」
  9. ユニクロが教える“これからの季節に持っておきたい”1枚に「これ、3枚色違いで買いました!」「今年も色違い買い足します!」と反響
  10. 中央道から「宇宙戦艦ヤマト」が見える! 驚きの写真がSNSで注目集める 「結構でかい」「どう見てもヤマト」 撮影者の心境を聞いた
先月の総合アクセスTOP10
  1. 50年前に撮った祖母の写真を、孫の写真と並べてみたら…… 面影が重なる美ぼうが「やばい」と640万再生 大バズリした投稿者に話を聞いた
  2. 「食中毒出すつもりか」 人気ラーメン店の代表が“スシローコラボ”に激怒 “チャーシュー生焼け疑惑”で苦言 運営元に話を聞いた
  3. フォロワー20万人超の32歳インフルエンサー、逝去数日前に配信番組“急きょ終了” 共演者は「今何も話せないという状態」「苦しい」
  4. 「顔が違う??」 伊藤英明、見た目が激変した近影に「どうした眉毛」「誰かとおもた…眉毛って大事」とネット仰天
  5. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  6. 星型に切った冷えピタを水に漬けたら…… 思ったのと違う“なにこれな物体”に「最初っから最後まで思い通りにならない満足感」「全部グダグダ」
  7. 「泣いても泣いても涙が」 北斗晶、“家族の死”を報告 「別れの日がこんなに急に来るなんて」
  8. ジャングルと化した廃墟を、14日間ひたすら草刈りした結果…… 現した“本当の姿”に「すごすぎてビックリ」「素晴らしい」
  9. 母親は俳優で「朝ドラのヒロイン」 “24歳の息子”がアイドルとして活躍中 「強い遺伝子を受け継いだ……」と注目集める
  10. 「幻の個体」と言われ、1匹1万円で購入した観賞魚が半年後…… 笑っちゃうほどの変化に反響→現在どうなったか飼い主に聞いた