アニメ「犬王」は“怪物”と“音楽”を映画にした 湯浅政明×古川日出男 対談ロングインタビュー(1/4 ページ)
「どろろ」のようなバディものになった理由がある
アニメ映画「犬王」が5月28日より公開される。筆者が本作を見た第一印象は、とてつもなく「ブッ飛んでいる」というものだった。何しろ、劇中では実在の能楽師である犬王をポップスターとして描いており、耳に残る強烈な楽曲を前面に押し出した“ロック・オペラ”が展開していくのだから。
原作は小説『ベルカ、吠えないのか?』や『平家物語』の現代語訳で知られる作家の古川日出男、監督を務めたのは「マインド・ゲーム」や「四畳半神話大系」などでアニメファンから絶大な支持を得る湯浅政明だ。
さらに脚本をドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」や「アンナチュラル」の野木亜紀子、キャラクター原案を松本大洋、音楽を大友良英が手掛けるなど豪華な布陣になっている。ボイスキャストももれなくハマっていて、特に主役の2人、アヴちゃんと森山未來それぞれの歌唱力と演技力にも感嘆しきりだった。
湯浅政明監督の良い意味で“ドラッギー”とも評される躍動感のあるアニメ表現もフルスロットルであり、超前衛的なミュージシャンのライブを見届けたような感動があるため、とにかく音響の優れた映画館で見届けてほしいと願うばかりだ。さらに、手塚治虫のマンガ『どろろ』にも似た要素、“バディもの”の魅力、ミュージシャンとして成り上がっていくサクセスストーリー(とは言い切れない要素もあるが)の面もありエンターテインメント性が高いため、予備知識なく見ても問題なく楽しめるだろう。
ここでは、原作者である古川日出男先生と、監督である湯浅政明へのロングインタビューをお届けしよう。なぜこれほどブッ飛んだ作品になったのか? はたまたバディものになった必然性とは? ぜひ知っていただければ幸いである。
犬王の生涯が「未知のもの」に戻った
――まずはお二人に、出来上がった映画、そして原作の率直な感想を、それぞれお聞かせ願いたいです。
湯浅政明(以下、湯浅) 原作『平家物語 犬王の巻』は犬王という、名前だけが残っていた存在に光を当てています。「平家物語」を現代語訳で語りなおした古川さんが、今度は「平家物語」を語り伝えた琵琶法師や犬王の話を物語にし、それをまたぼくらがアニメで語るというところに、アニメを作る意義があると思いました。
最初に読んだときは「オカルティックな時代劇もので面白い」といった程度だったのですが、読み込むとどんどん、失礼な言い方ですが「本当によく考えていらっしゃる」と思いましたね。なぜ室町時代なのか、なぜ“琵琶”なのか、なぜ“能”なのか、初めはなんとなくにしか思っていなかった要素それぞれが「なるほど」と腑に落ちていく。軽快な語り口なので、スッと飛ばしてしまいそうなところでも、読み込むと奥深さがありました。
古川日出男(以下、古川) 犬王は実在した天才パフォーマーですが、どう生まれたのか、何をやったのか、はっきりしない人物なんです。芸風は有名で、それを表現する“幽玄”という言葉も残っているけど、具体的なことは分からない、その未知の部分を自分の言葉で埋めていって作ったのが、『平家物語 犬王の巻』という小説です。
湯浅さんはそれを全てアニメで描き切っているわけですが、原作者なのに見ていて「いったいどうなるんだ」「今何が起きているんだろう」などと、僕も知らないものがどんどん生まれてきて、もう1回犬王の生涯を「未知のもの」に戻してもらったことに感動しました。
――原作にはないロック・オペラ部分が特に大きいですよね。公式のコメントで古川さんは「映画のモンスターである」とおっしゃっていましたが、まさにその通りの躍動感や迫力を感じる作品でした。
古川 モンスターとしか形容できないですよね。小説の映画化とかアニメ化にはいろいろな方法があるとは思うのですが、「映画は普通こういう形でやるだろう」とか「限界をあらかじめ決めたアニメの方法論」でやるのかなと思っていたら、全く違うものができていて。それを形容する言葉は、もう怪物だなと。もちろん、最大の褒め言葉であり、衝撃です。僕が原作で書いた体が変化する前の犬王は、まさに怪物のような存在で、湯浅さんは映画そのものを犬王にしたんだ、と思いました。
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