映画「ゆるキャン△」レビュー 愛に満ちた「社会人物語」の大傑作(2/3 ページ)

» 2022年07月01日 18時30分 公開
[ヒナタカねとらぼ]

 とはいえ、ずっと順風満帆にキャンプ場作りができるわけでもない。そのようにいつもポジティブで明るく、どんな困難をも乗り越えてきたはずの野クルのメンバーは、やがて「どうしようもない」事態にもぶち当たってしまうのだから。それまで「社会人になっても変わらないみんな」を描いてきたからこそ、そのことにより強く胸を締め付けられるようにもなっているし、だからこそ「その先」の物語に感動が待ち受けていた。

社会人の当たり前のこと

 本作は「社会人の当たり前のこと」を描いているとも言える。それは例えば、「自分の仕事が、何かの良い影響を誰かに与えるかもしれない」ということだ。

 それは「お金」という行動原理をも超えたものでもある。例えば、アウトドア用品店に勤めるなでしこが、たき火台を探すお客さんにどのような勧めかたをしたか。名古屋の出版社で編集者として働くしまリンが、どのように企画を進めたか。山梨の小学校の先生として働くあおいに、どのような環境の変化が訪れるか。それぞれのエピソードが、社会人としての在り方、そして人と人をつなぐ「縁」を示しているようでもあるのだ。

映画「ゆるキャン△」レビュー 愛に満ちた「社会人物語」の大傑作 (C)あfろ・芳文社/野外活動委員会

 野クルのメンバーの本質は何も変わっていない。だけど、社会人としての責任が彼女たちには生じているし、取り巻く環境も大きく変化している。それを持って、この映画は「ゆるキャン△」という作品の素晴らしさの拡張にも成功している。

 なぜなら、これまではキャンプをただお客さんとして楽しむ側だった彼女たちが、キャンプ場作りを通し提供する側になって、新しく「今だからこそできたこと」、そして「得たもの」があるからだ。そこには、社会人になった誰もが少なからず到達する、普遍的な喜びもあった。

 そして、おいしいご飯を食べたり、きれいな風景を眺めたり、 温泉にゆっくり漬かったり……そんなキャンプや日常的な生活にまつわる幸せなひとときは、キャンプ場に携わる人だけでなく、たくさんの社会人の力があってこそ成り立つものだ。それもまた当たり前のことだが、その当たり前を尊く提示してくれることこそに、本作の優しさと、最大の感動がある。

映画「ゆるキャン△」レビュー 愛に満ちた「社会人物語」の大傑作 (C)あfろ・芳文社/野外活動委員会

共に時間を歩んできたからこその感動

 本作はアニメとしての演出も素晴らしい。例えばオープニングでは遠い場所に見えた、富士山と花火をみんなで見ているという光景があるのだが、終盤ではこれと「対」になるシーンがあり、その美しさにも涙した。背景美術もとても細やかで、大きなスクリーンで見届けて良かったと心から思えたのだ。

映画「ゆるキャン△」レビュー 愛に満ちた「社会人物語」の大傑作 (C)あfろ・芳文社/野外活動委員会

 いわゆる「飯テロ」具合も恐ろしいことになっている。出てくる料理がおいしそうすぎて、マジで劇場内でお腹が鳴ってしまうこともあり得るし、見た後は自分も同様のキャンプ飯を作りたくなるし、もはや良い意味で拷問級にしんどい。

 「社会人がキャンプ場を作る」という分かりやすいプロットであるため、「ゆるキャン△」を全く知らなくても楽しめるのだが、キャラクターを知っているとさらなる感動があるというバランスも見事。特に、あおいのイラッともしてしまうはずの「口癖」をもって涙腺を刺激してくるのがズルい。こんなの泣くに決まってんだろ!

 そして、「ゆるキャン△」の原作は2015年より連載開始、2018年にはテレビアニメ1期、 2020年にその2期の放送、そして今回の映画が2022年公開と、およそ7年がリアルタイムで経過したことになる。映画の劇中でどれだけの時間が経過したかは詳しく語られていないが、それは女子高生だった彼女たちが、社会人として働き始めるタイムスパンとほぼほぼ一致している。

映画「ゆるキャン△」レビュー 愛に満ちた「社会人物語」の大傑作 (C)あfろ・芳文社/野外活動委員会

 そのため、ファンはキャラクターたちと共に時間を歩んできたからこその思い入れも持てるという、まるで「トイ・ストーリー」シリーズのような感動までもが備わっているのだ。改めて、社会人になったみんなを描く映画オリジナルストーリーというアプローチそのものを称賛したいし、それを最高の形で提示したスタッフとキャストに、「本当にありがとうございます」とお礼を申し上げたい。

 この映画「ゆるキャン△」を見た後は、社会人の1人としてもう少し頑張れるような気もするし、身近なことにもっと幸せを感じられるかもしれない。そのように「世界がちょっと違って見える」のは、素晴らしい作品だという証拠だ。

 そして、これまで疲れた社会人を癒してきたであろう「ゆるキャン△」という作品が、今回は映画で社会人の心に沁みわたる物語を提示してくれたということも、うれしくて仕方ない。ぜひ、劇場でご覧になってほしい。

ヒナタカ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2411/21/news189.jpg 「大物すぎ」「うそだろ」 活動中だった“美少女新人VTuber”の「衝撃的な正体」が判明 「想像の斜め上を行く正体」
  2. /nl/articles/2411/22/news014.jpg 川で拾った普通の石ころ→磨いたら……? まさかの“正体”にびっくり「間違いなく価値がある」「別の惑星を見ているよう」【米】
  3. /nl/articles/2411/22/news114.jpg 中村雅俊と五十嵐淳子の三女・里砂、2年間乗る“ピッカピカな愛車”との2ショを初公開 2023年には小型船舶免許1級を取得
  4. /nl/articles/2411/21/news027.jpg 大きくなったらかっこいいシェパードになると思っていたら…… 予想を上回るビフォーアフターに大反響!→さらに1年半後の今は? 飼い主に聞いた
  5. /nl/articles/2411/22/news032.jpg 「壊れてんじゃね?」 ハードオフで買った110円のジャンク品→家で試したら…… “まさかの結果”に思わず仰天
  6. /nl/articles/2411/22/news018.jpg 猫だと思って保護→2年後…… すっかり“別の生き物”に成長した元ボス猫に「フォルムが本当に可愛い」「抱きしめたい」
  7. /nl/articles/2411/22/news171.jpg なんと「身長差152センチ」 “世界一背が低い”30歳俳優&“世界一背が高い”27歳女性が奇跡の初対面<海外>
  8. /nl/articles/2411/22/news145.jpg 大谷翔平と真美子さん、「まさかの服装」に注目 愛犬デコピンも大谷家全員で“歩く広告塔”ぶり発揮か
  9. /nl/articles/2411/20/news027.jpg 「こんなことが出来るのか」ハードオフの中古電子辞書Linux化 → “阿部寛のホームページ”にアクセス その表示速度は……「電子辞書にLinuxはロマンある」
  10. /nl/articles/2411/22/news184.jpg 「やはり……」 MVP受賞の大谷翔平、会見中の“仕草”に心配の声も 「真美子さんの視線」「動かしてない」
先週の総合アクセスTOP10
  1. 「飼いきれなくなったからタダで持ってきなよ」と言われ飼育放棄された超大型犬を保護→ 1年後の今は…… 飼い主に聞いた
  2. ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
  3. 「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
  4. まるで星空……!! ダイソーの糸を組み合わせ、ひたすら編む→完成したウットリするほど美しい模様に「キュンキュンきます」「夜雪にも見える」
  5. 妻が“13歳下&身長137センチ”で「警察から職質」 年齢差&身長差がすごい夫婦、苦悩を明かす
  6. 人生初の彼女は58歳で「両親より年上」 “33歳差カップル”が強烈なインパクトで話題 “古風を極めた”新居も公開
  7. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  8. 互いの「素顔を知ったのは交際1ケ月後」 “聖飢魔IIの熱狂的ファン夫婦”の妻の悩み→「総額396万円分の……」
  9. ユニクロが教える“これからの季節に持っておきたい”1枚に「これ、3枚色違いで買いました!」「今年も色違い買い足します!」と反響
  10. 中央道から「宇宙戦艦ヤマト」が見える! 驚きの写真がSNSで注目集める 「結構でかい」「どう見てもヤマト」 撮影者の心境を聞いた
先月の総合アクセスTOP10
  1. 50年前に撮った祖母の写真を、孫の写真と並べてみたら…… 面影が重なる美ぼうが「やばい」と640万再生 大バズリした投稿者に話を聞いた
  2. 「食中毒出すつもりか」 人気ラーメン店の代表が“スシローコラボ”に激怒 “チャーシュー生焼け疑惑”で苦言 運営元に話を聞いた
  3. フォロワー20万人超の32歳インフルエンサー、逝去数日前に配信番組“急きょ終了” 共演者は「今何も話せないという状態」「苦しい」
  4. 「顔が違う??」 伊藤英明、見た目が激変した近影に「どうした眉毛」「誰かとおもた…眉毛って大事」とネット仰天
  5. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  6. 星型に切った冷えピタを水に漬けたら…… 思ったのと違う“なにこれな物体”に「最初っから最後まで思い通りにならない満足感」「全部グダグダ」
  7. 「泣いても泣いても涙が」 北斗晶、“家族の死”を報告 「別れの日がこんなに急に来るなんて」
  8. ジャングルと化した廃墟を、14日間ひたすら草刈りした結果…… 現した“本当の姿”に「すごすぎてビックリ」「素晴らしい」
  9. 母親は俳優で「朝ドラのヒロイン」 “24歳の息子”がアイドルとして活躍中 「強い遺伝子を受け継いだ……」と注目集める
  10. 「幻の個体」と言われ、1匹1万円で購入した観賞魚が半年後…… 笑っちゃうほどの変化に反響→現在どうなったか飼い主に聞いた