名作ゲーム「Kentucky Route Zero」、“悪夢のような公式翻訳”を修正する非公式日本語化MODがついにリリース 幻想的なマジックリアリズムの世界へようこそ(2/2 ページ)
本作「Kentucky Route Zero」を一応ジャンル分けするならポイント&クリック式のアドベンチャーゲームということになるだろう。画面の中の気になるものをクリックし、調べ、ときに会話の選択肢を選ぶことでストーリーが進行していく。ほぼ映像/美術作品+読み物で構成されているゲームなので「難易度」のようなものは存在せず、ゲームを始めることができる人であれば、全員がクリアできるはずだ。
主人公……というか一応の視点人物はコンウェイという老齢のトラック運転手で、相棒の犬と共にアンティークを配達する仕事にいそしんでいるらしい。彼は荷物の配達先である「ドッグウッド通り」にたどり着くことができず途方に暮れている。そこにたどり着くためにはゼロ号という道を通らねばならないらしい。プレイヤーはゼロ号を探す中で現実とも非現実ともつかない、不思議な状況や人物に遭遇していくことになる。
本作の物語を説明することは難しい。Wikipediaによればガブリエル・ガルシア・マルケスやフラナリー・オコナー、デビッド・リンチの作品に影響を受けているとのこと。作中にも「マルケス」や「ホルヘ」という南米文学作家を引用した登場人物が出てくるため(ガブリエル・ガルシア・マルケスやホルヘ・ルイス・ボルヘスが代表する)、「マジックリアリズム/魔術的リアリズム」というジャンル/性質の作品であると説明されることが多い。要は現実と非現実の境界がかなり曖昧で、幻想的な雰囲気をまとっている作品だと理解しておけばそれほど間違ってはいないだろう。本作では例えば「登場人物の誰が死んでいて、誰が生きているのか」すら判然とせず曖昧で、意図的にその境界が取り外されている。
テキストだけではなく楽曲や美術も非常にクールで、この世界観が好きな人にとっては代替不可能な魅力を持っている。特に登場するさまざまなロケーションの空間/美術表現は素晴らしく、とにかく美しい。似たアートスタイルの作品も存在するにはするだろうが、本作はレベルが違うと感じた。カメラ位置や証明もバッチリ決まったとにかく尋常じゃないぐらいカッコいいゲーム画面というのが「Kentucky Route Zero」の最大の特徴だろう。デカいフォントでバン! と表示される各シーンタイトルも印象的だし、目が覚めるようなカメラの動き方をするシーンもある。途中インスタレーション展示が行われている美術館が登場するシークエンスがあるが、本作はゲーム全体がある種インスタレーションのようなものになっている。
物語はかなりとりとめがなく、ときに不気味に感じられることも多い。作品に通底して流れているのは痛み/悲しみで(筆者はそう感じたが、そう感じない人もいるかもしれない)、今にも仕事を失おうとしているトラックドライバーの老人という登場人物像はそのテーマにぴったりだ。なので、完全に理解不能というわけでは全くなく、誰にとっても必ずやってくる「人生の締めくくり方」……つまり死について思いをはせずにはいられない内容になっている。そういう意味では、普遍的なものを描いているといえるだろう。
作中冒頭、「詩を作るように選択肢を選べ」というような示唆があたえられるが、本作における「選択肢」の役割はかなり特殊だ。何を選んでも「不正解」ということはなく、読者である自分が読んでいて心地よい会話の流れにするために選ぶ、という感じだ。なにせ会話している二者両方の会話内容を交互に選ぶような場面もある。実質的に一人遊びをしているようなものだ。
選択肢の上でもゲームプレイの上でも視点人物はころころ切り替わるため、誰が主人公かは特定できない(一応の視点人物たちというか「主人公一行」のようなものは存在する)。演出もそれを反映し、非常に多様な演出が行われる。例えば「主人公一行を見ている誰かの会話のみで進むシーン」や「舞台演劇を見るシーン」や「電話の会話を聞くだけのシーン」など手を変え品を変えさまざまな視点変化が行われるので、混乱させられると共にスリリングでもある。個人的には須田剛一氏のアドベンチャーゲーム……「トワイライトシンドローム」や「シルバー事件」などを連想させられた(特に「トワイライトシンドローム」には電話の会話を聞き続けるシークエンスがある)。
難解だが気長に付き合いたいと思わせる魅力がある
有志翻訳はかなり読みやすいとはいえ作品本来が持つ難解さ、解釈しづらさが緩和されているわけではない。選択肢や訪れることのできる場所、調べられるものにはかなりバリエーションがあるようなので、2周3周と遊ぶことでより理解が深まることもあるだろう。
筆者は今回時間が足りず2周目は冒頭までしか遊べていないが、冒頭の時点で後半につながるいくつかの伏線があったことを発見し、興奮するなどした。プレイ時間は15時間弱といったところだが、複数回遊べることを考えるとボリュームはかなり多いだろう。正直なところ1周遊んだ程度では、本作のことを1割も理解できたかどうか怪しい。……まあ、人生は長いのだから気長に付き合えばよい。少なくとも筆者にとって、本作は「気長に付き合いたい」作品となった。願わくは、これを読んでいる誰かにとってもそうでありますように。
前述の通り本作は操作が難しいゲームではない。だが、内容はとりとめがなく幻想的で、ときに難解に感じられることもあるだろう。正直言って人を選ぶ作品ではあろうと思う。とはいえ、この記事を読み、スクリーンショットを見て興味をもった方であれば、恐らく波長が合っているということだろうから、きっと楽しめるはずだ。
最後に、非公式日本語MODの製作者であるashi_yuriさんに、これからMODで本作を遊ぶことになるプレイヤーの方にメッセージを頂いたので、紹介させていただきたい。
「本作品及び非公式日本語翻訳MODに興味をお持ちいただきありがとうございます! このMODは、有志翻訳の諸先輩方やテストプレイヤーの皆さまなど、いろいろな方々に助けてもらって出来上がったものです。これをきっかけに、Kentucky Route Zeroという作品の持つ魅力が少しでも日本語で伝わればうれしいです。皆さまもぜひ、不思議で美しく余白に満ちた0号線の旅路をお楽しみください。最後にあらためて、本作の開発会社であるCardboard Computerの皆さまに感謝と敬意をささげます。そして翻訳の問題について開発会社・パブリッシャーが対応し、一日でも早く日本のプレイヤーが正当に本作を遊べる日が来ることを願っています」(ashi_yuriさん)
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