91歳で死去したゴダール、スイスで認可の“自殺ほう助”選択 2014年すでに意向ほのめかすが「まだ好意的な返事はない」

多くの著名人らが追悼しています。

» 2022年09月14日 17時35分 公開
[城川まちねねとらぼ]

 9月13日(現地時間)に映画「勝手にしやがれ」(1960年)「気狂いピエロ」(1965年)「中国女」(1967年)などで知られる仏映画監督ジャン=リュック・ゴダールが91歳で亡くなりました。スイスとフランスの国籍を持っていたゴダールは、70年代から住んでいたスイスで、同国が認可している「自殺ほう助」により人生を終えたと仏リべラシオン紙が報じています

ジャン=リュック・ゴダール、91歳で自殺ほう助により亡くなる 世界三大映画祭全てで最高賞を受賞した(ヴェネツィア国際映画祭のInstagramから)

 同紙は、妻のアンヌ=マリー・ミエヴィルとプロデューサーらが「スイスのロール、レマン湖のほとりにある自宅で愛する人々に囲まれ安らかに亡くなった」と午前遅くにゴダールの死を確認したこと伝えています。また、家族の友人は「彼は病気ではなくただ疲れ果てていた」と説明したとのこと。さらに別の友人も「彼は全て終わらせることにした。それは彼の決断で、公表することは重要なことだった」と語ったそうです。

2014年にRTSとのインタビューで自殺ほう助について語っていたゴダール

 ゴダールは2014年5月にスイスの公共放送ラジオ・テレビジョン・スイス(RTS)とのインタビューですでに自殺ほう助について語っていました。

 インタビュアーが「あなたが死ぬとき――できるだけ遅くにということですけど……」と言いかけると「必ずしも“できるだけ遅く”ってわけじゃない」と遮ったゴダール。そして、自殺ほう助について考えを聞かれると、「よく主治医や弁護士にこう尋ねる。ペントバルビタール・ナトリウムやモルヒネを頼んだら、くれるのかって。でもまだ好意的な返事はないね」と答え、自身の死について自殺ほう助も考慮に入れていることをほのめかしていました。

 スイスでは消極的安楽死など、さまざまな形で死の援助が認められており、自殺ほう助は最もよく知られているもの。医師が薬品を注入するといったことは認められず、処方された致死量の薬を付添人が運び、自分で服用するという方法で死を迎えます。国内だけでなく国外からの希望者を受け入れる団体もあり、一定の条件下で認められます。また、“利己的な動機で”自殺ほう助した者には5年以下の懲役または罰金が科せられます。

ジャン=リュック・ゴダール、91歳で自殺ほう助により亡くなる カイエ・デュ・シネマも長文で追悼(カイエ・デュ・シネマのInstagramから)

 ゴダールが若いころ、フランソワ・トリュフォーやエリック・ロメールらと批評を書いていたヌーヴェルヴァーグの象徴的な仏映画批評誌『カイエ・デュ・シネマ』は、「ジャン=リュック・ゴダールが死んだ」という一文から始まる長い追悼文を公式サイトなどで公開しています。

 同誌は彼の作品が「いくつかのものがすでにそうであるように古典になるだろう」と予想し、ピカソやマティス、ジョイスら近代の偉人と同様にゴダールの芸術が「古いものへの膨大な知識に根差したものだった」と分析しています。

 また、映画史にとって重要な人物であるゴダールの死は国内外で大手紙が報じていますが、「彼をパンテオンに埋葬したり彼の偉大さを公にしようだなんて思わないことが大切だ。全ての栄光と評価を慎重に隠してきた人なんだから。芸術以外の全ての文化ルールに逆らった人。墓に“その反対に”と刻んでほしがった人」と近しい友人のように言い表す語り口には同誌からの深い愛がにじんでいるようです。

 ゴダールは2019年にフランス・キュルチュールの番組で、「以前妻が――まあ、墓は作らないと思うが――私の墓には“その反対に”、妻の墓には“疑いを抱いている”と入れたいと言ってた」と冗談めかして語っていました。

ジャン=リュック・ゴダール、91歳で自殺ほう助により亡くなる カンヌ国際映画祭では21作品が上映された(カンヌ国際映画祭のInstagramから)

 ゴダールは世界三大映画祭全てで最高賞を受賞した映画監督でした。ベルリン国際映画祭、ヴェネツィア国際映画祭、カンヌ国際映画祭はそれぞれSNSで彼を追悼しています。

 特に1968年にゴダールがトリュフォーやクロード・ルルーシュらと乗り込み各賞の受賞を阻止した因縁あるカンヌ国際映画祭は、意図的にその当時の写真も投稿。2018年にスペシャル・パルムドール賞を受賞し、最新作「イメージの本」で映画人たちへ語りかけた際、審査委員長であったケイト・ブランシェットが同映画祭を代表し「映画を前進させ、限界を押し広げ、映画の定義と再定義を探し続けた芸術家」と賛辞を送ったことを紹介。そして「彼の働きなくして映画に現在の姿はなく、私たち映画祭は深い悲しみと限りない感謝、深い尊敬の念とともに、かの芸術家に最後の敬意を表します」と結んでいます。

 また2001年から2014年まで同映画祭代表を務めたジル・ヤコブもTwitterで「ジャン=リュック・ゴダール、映画界のピカソ。直感と閃光、言葉とイメージ、音と色で遊び時代の先を行った。難解で魅惑的な、道しるべとなるような映画を即興で作った。世界中の映画が孤児になってしまった」とゴダールの死について述べています。

 ゴダールの代表作の1つである「軽蔑」(1963年)の主演俳優ブリジッド・バルドーは同作での画像とともにコメントを投稿。「そしてゴダールは『軽蔑』を作り出し、力尽きて偉大な創作者たちの最後の星として天空に加わった」と「勝手にしやがれ」の原題「A bout de souffle」を引用したツイートをしました。

 エマニュエル・マクロン仏大統領はTwitterで「まるでフランス映画の出現でした」とゴダールの存在を表現。「そして巨匠になった。ヌーヴェルヴァーグのもっとも象徴的な映画作家ジャン=リュック・ゴダールは、断固としてモダンで、強烈に自由な芸術を発明したのです。我々は国宝、天才のまなざしを失ってしまった」とその死を惜しんでいます。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2412/29/news100.jpg 大谷翔平、妻・真美子さん妊娠公表→エコー写真に“まさかの勘違い” 「デコピン妊娠?」「どう見てもデコピンで草」
  2. /nl/articles/2412/29/news101.jpg チェジュ航空社長、日本語で謝罪 犠牲者は170人以上との報道 公式サイトは通常のオレンジからブラックに
  3. /nl/articles/2412/30/news070.jpg 大谷翔平の妻・真美子さん妊娠→現役時代に語っていた「将来の夢」に感動の声 「なんか泣けてくる」
  4. /nl/articles/2412/29/news005.jpg 母「昔は数十人もの男性の誘いを断った」→娘は信じられなかったが…… 当時の“想像を超える姿”が2800万再生「これは驚いた」【海外】
  5. /nl/articles/2412/29/news075.jpg 「スマホ入荷しました」 ハードオフ店舗がお知らせ→まさかの正体に大横転 「草しか生えない」
  6. /nl/articles/2412/30/news071.jpg 子どもがお店で“高額おもちゃ”を欲しがる→通りすがりの“五輪選手がまさかの理由”でプレゼント 「すごすぎる話」「今年一番感動」
  7. /nl/articles/2412/29/news098.jpg 大谷翔平と妻・真美子さん“家族ショット”に210万いいね 「素敵な1枚」「幸せな家族写真!」【“大谷家”の新たな一歩】
  8. /nl/articles/2412/29/news013.jpg 毛糸で“お花をぷくぷく”編んでいくと…… 思わず笑顔になるアイテム完成に「なんて美しい」「母に編んであげよう」
  9. /nl/articles/1611/04/news117.jpg 「ヒルナンデス!」で道を教えてくれた男性が「丁(てい)字路」と発言 出演者が笑う一幕にネットで批判続出
  10. /nl/articles/2412/30/news039.jpg ヤクルトが“投げ売り状態”かと思ったら…… 「大勘違い」引き起こしかねない光景に「さすがに飲めない」
先週の総合アクセスTOP10
  1. ザリガニが約3000匹いた池の水を、全部抜いてみたら…… 思わず腰が抜ける興味深い結果に「本当にすごい」「見ていて爽快」
  2. 新1000円札を300枚両替→よく見たら…… 激レアな“不良品”に驚がく 「初めて見た」「こんなのあるんだ」
  3. 家の壁に“ポケモン”を描きはじめて、半年後…… ついに完成した“愛あふれる作品”に「最高」と反響
  4. 「庶民的すぎる」「明日買おう」 大谷翔平の妻・真美子さんが客席で食べていた? 「のど飴」が話題に【大谷翔平激動の2024年 「お菓子」にも注目集まる】
  5. 100均のファスナーに直接毛糸を編み入れたら…… 完成した“かわいすぎる便利アイテム”に「初心者でもできました!」「娘のために作ってみます」
  6. “プラスチックのスプーン”を切ってどんどんつなげていくと…… 完成した“まさかのもの”が「傑作」と200万再生【海外】
  7. 「バグってる」 シャトレーゼの“864円で買える”「1人用クリスマスケーキ」に大絶賛の声 「企業努力すごい」
  8. 「昔モテた」と言い張るパパ→信じていない娘だったが…… 当時の“驚きの姿”が2900万再生「おおっ!」「マジかよ」【海外】
  9. トイレットペーパーの芯を毛糸でぐるっと埋めていくと…… 冬に大活躍しそうなアイテムが完成「編んでるのかと思いきや」【海外】
  10. “月収4桁万円の社長夫人”ママモデル、月々の住宅ローン支払額が「収入えぐ」と驚異的! “2億円豪邸”のルームツアーに驚きの声も「凄いしか言えない」
先月の総合アクセスTOP10
  1. 「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの仕打ち”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」
  2. 「絶句」 ユニクロ新作バッグに“色移り”の報告続出…… 運営が謝罪、即販売停止に 「とてもショック」
  3. 「飼いきれなくなったからタダで持ってきなよ」と言われ飼育放棄された超大型犬を保護→ 1年後の今は…… 飼い主に聞いた
  4. アレン様、バラエティー番組「相席食堂」制作サイドからのメールに苦言 「偉そうな口調で外して等と連絡してきて、」「二度とオファーしてこないで下さぃませ」
  5. 「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
  6. 「やはり……」 MVP受賞の大谷翔平、会見中の“仕草”に心配の声も 「真美子さんの視線」「動かしてない」
  7. ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
  8. 「母はパリコレモデルで妹は……」 “日本一のイケメン高校生”グランプリ獲得者の「家族がすごすぎる」と驚がくの声
  9. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  10. 「真美子さんさすが」 大谷翔平夫妻がバスケ挑戦→元選手妻の“華麗な腕前”が話題 「尊すぎて鼻血」