【ネタバレなし】「ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー」レビュー “喪失”を描いてきたMCUの最新型(1/2 ページ)
ありがとう、チャドウィック・ボーズマン。
「ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー」が11月11日より公開されている。本作は同じ世界観を共有するマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)の30作目。そして、前作「ブラックパンサー」(2018年)で主演を務めたチャドウィック・ボーズマンが2020年8月28日に大腸癌のため、43歳の若さで亡くなった後に制作された続編だ。そのことを鑑みつつ、ネタバレにならない範囲で魅力を伝えていこう。
現実でもボーズマンはヒーローだった
ブラックパンサーはもともと1966年に生まれたアメリカン・コミック史上初となるアフリカ系(黒人)のヒーローであり、彼を演じたボーズマンもまた、現実における黒人たちの希望の象徴となるヒーローだった。自分たちと同じ外見をしたヒーローが、誰もが見るハリウッド大作映画に登場したからこそ、特に黒人の子どもたちに勇気と希望を与えていたのだ。
そのボーズマンの死を、世界中の人々が悼んだのは言うまでもない。しかも、その3カ月前の2020年5月25日に、白人の警察官の不適切な拘束によって黒人男性が殺害される事件が起き、人種差別抗議運動「ブラック・ライブズ・マター(BLM)」が広がっていた。排他主義的な対立や、その他さまざまな問題が進行中だった最中に、BLMへの支援も表明していたチャドウィック・ボーズマンを失った彼らの悲しみがどれほどのものだったのか、想像もつかない。
もちろん、ボーズマンの死は「ブラックパンサー」の続編を手掛けるはずだったスタッフとキャストたちにも尋常ではないショックを与えた。実は、ボーズマンは過去の映画撮影時にも闘病中だったにもかかわらず、スタッフにはそのことを打ち明けていなかった。ライアン・クーグラー監督でさえ訃報の発表時に初めて、ボーズマンが初対面の2016年からずっと「病気と共に生きていた」ことを知ったのだそうだ。
深い喪失の中にいたクーグラー監督は、「ブラックパンサー」の続編に限らず、映画制作の仕事から離れようと思ったことすらあったそうだ。しかし、生前のボーズマンとの会話や昔の映像、演じているティ・チャラ王やワカンダ国が彼にとって何を意味するかについてのインタビューを思い出し、ついに「続けることに意味があるとわかった」と決意したという。
そして、「ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー」は、ボーズマンの死を受けて、彼が演じていたティ・チャラ王の死を前提とした物語として作られることになった。劇中でその死を悼む様は、そのままボーズマンという俳優および現実のヒーローへの弔いに見えるだろう。
大真面目かつ前作の魅力を引き継いだ内容に
本作を見終わった第一印象は、「めちゃくちゃ大真面目」ということだった。物語の発端が「偉大な指導者の死」であるため、ある程度シリアスな内容になることは織り込み済みだったが、161分という長尺の中で堅実にドラマを組み立ていき、アクション映画としての見せ場も大迫力という、ヒーロー映画としては予想以上に王道も王道の内容に仕上がっていたのだ。
そう感じたのは、最近のMCUが映画「ソー:ラブ&サンダー」やドラマ「シー・ハルク:ザ・アトーニー」など、コメディー色が強めかつ、シリーズの中でも変化球気味の作品だったことも理由だろう。とはいえ、今回もユーモアあふれるシーンや、予想を覆すサプライズはしっかり込められており、型通りになりすぎていないのも美点だ。
また、前作「ブラックパンサー」については、悪役の「キルモンガー」がMCU屈指の名悪役だとよく語られている。「貧しさゆえに犯罪や殺人に手を染めるしかなかった」悲しさが、黒人への差別と抑圧を体現しており、ブラックパンサー/ティチャラもまた「そうなっていたかもしれない」存在にも思えるよう描かれていた。
一方で、今回の敵である、海の王国の王「ネイモア」は、自分の国を守ることを信条としている。彼もとある「過去」の出来事から、彼なりの「正義」を貫いているとも言える人物だ。悪役にも悪役なりの行動理由があることも、前作「ブラックパンサー」のキルモンガーに通じる魅力となっていた。国家間の対立や侵攻は、今の現実の世界をも思い起こさせるだろう。
そして、「ブラックパンサーの意志をどうやって、誰が継ぐのか」ということこそ、多くの人が気になっていることであり、見どころだろう。それに至るまでの過程も実に用意周到に計算されており、それは現実の「チャドウィック・ボーズマンがいなくなっても、私たちの物語は続いていく」意志につながっているように思えた。
ボーズマンが生きていることを願っていた、でも……
MCUには「ヒーローたちが活躍する明るいお祭り映画!」なイメージもあったが、実は愛する人たちが消える、いなくなる、そして死んでしまうからこその、「喪失感」が描かれてきたシリーズでもある。特に2018年の「アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー」以降は、もの悲しさが作品に漂うことが多くなり、「残された人たちがこれからどうするのか」というドラマが実際に描かれてきた。
今回の「ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー」では、ブラックパンサー(ボーズマン)の意志を受け継いでいく、現実とフィクションが一致した作品になった。もちろん、ボーズマンが今も生きていることを、世界中の誰もが願っていただろう。だが、これまでも喪失感を描いてきたMCUで、彼を「見送る」ことができたことは、作品にとって、そして彼を愛していた全ての人にとっても、幸福ではあったと思うのだ。
また、ワカンダ国は「もしもアフリカが植民地化されておらず、貴重な資源(架空の金属であるヴィブラニウム)により独自の発展を続けていたら?」という“IF”を体現している、ある種の黒人たちにとっての理想郷ともいえる(だが平和であり続けるのは簡単ではない)場所だ。その国を、王がいなくなっても永続させるという意志を示す「ワカンダ・フォーエバー」というタイトルも、これ以外には考えられないものだろう。
そして、MCUの「フェーズ4」は、本作で終わりを迎える。「フェーズ5」の始まりとなる、2023年2月17日公開予定の「アントマン&ワスプ:クアントマニア」で、MCUはどのような景色を見せてくれるのだろうか。楽しみにしている。
(ヒナタカ)
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