製作期間30年! 「グロい」「ヤバい」「頭おかしい」三拍子そろった地獄巡りストップモーションアニメ映画「マッドゴッド」レビュー(1/3 ページ)

「狂っている」は褒め言葉。

» 2022年12月04日 19時00分 公開
[ヒナタカねとらぼ]
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 映画「マッドゴッド」が12月2日より公開されている。ポスターから「他の映画とは何もかもが違う」雰囲気をお察しできると思うが、本編は予想をはるかに超えてヤバかった。タイトルさながらの「狂っている」が褒め言葉になる、とんでもない内容。その理由を紹介していこう。

「狂っている」が褒め言葉の地獄巡りストップモーションアニメ映画「マッドゴッド」レビュー 「マッドゴッド」 12月2日(金)、新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ渋谷、池袋シネマ・ロサ、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開 (C)2021 Tippett Studio
「マッドゴッド」予告編

汁を盛大に垂れ流したり流れ作業的に殺される地獄

 本作は「ストップモーションアニメ」だ。それは人形や小物を作り、それを少しだけ動かして撮影し、また少しだけ動かして撮影し……という恐ろしく手間のかかる手法により創造されるもの。同様の手法で作られた名作として「ナイトメアー・ビフォア・クリスマス」「KUBO/クボ 二本の弦の秘密」などが存在する。

 他にも、ストップモーションアニメとして「PUI PUI モルカー」「ウォレスとグルミット」「ニャッキ!」など、子どもに向けられている作品も多い。だが、この「マッドゴッド」はかなり大人向け、しかも明確に見る人を選ぶ作品と言っていいだろう。

 なぜなら、シンプルにめちゃくちゃグロい。公式サイトのあらすじには「人類最後の男に派遣され、地下深くの荒廃した暗黒世界に降りて行った孤高のアサシンは、無残な化け物たちの巣窟と化したこの世の終わりを目撃する」とあり、確かにその通りのひたすらに「地獄巡り」をしていくような内容なのである。

「狂っている」が褒め言葉の地獄巡りストップモーションアニメ映画「マッドゴッド」レビュー (C)2021 Tippett Studio

 その無惨な化け物は何かしらの「汁」を盛大に垂れ流したり、なぜか流れ作業的に殺されたりして、この地獄に謎の「工場」というか「システム」があるようにも見えてくる。

「狂っている」が褒め言葉の地獄巡りストップモーションアニメ映画「マッドゴッド」レビュー (C)2021 Tippett Studio

 しかも日本のホラー映画「リング」に影響を受けたという「実写パート」もあり、臓物を積極的に飛び散らすことに重きを置いたような手術シーンが展開したりもする。本作はPG12指定がされているが、それでも「本当にこのレーティング止まりでいいの?」と問いたくなった。

「狂っている」が褒め言葉の地獄巡りストップモーションアニメ映画「マッドゴッド」レビュー (C)2021 Tippett Studio

全編セリフなしの汚い「2001年の宇宙の旅」

 もうひとつ重要なことは、前述した公式のあらすじ以外の物語は、さっぱり意味不明ということだ。何しろ全編セリフなしで(冒頭の旧約聖書のレビ記の引用以外は)テロップもなく、説明が一切廃されている。

「狂っている」が褒め言葉の地獄巡りストップモーションアニメ映画「マッドゴッド」レビュー (C)2021 Tippett Studio

 つまりは、次から次へと繰り出されるグッチョンエンガチョドロドロデロデロをひたすらに眺めていく、という見る者の胆力が試される場でもあるのだ。だが、とにかくバリエーション豊かな奇天烈な画が続き、断片的なイメージからこの地獄が生まれた背景を想像させる余地もあるので退屈はしないし、一周回ってこの気持ち悪い世界が気持ち良くなっていくような感覚さえあった(危ない)。

「狂っている」が褒め言葉の地獄巡りストップモーションアニメ映画「マッドゴッド」レビュー (C)2021 Tippett Studio

 グロ描写を除いて近い作風と言えるのは、SF映画の金字塔「2001年宇宙の旅」(特に後半部分)だろう。こちらも説明がほとんどない、難解な映画の代名詞的な存在でもあり、「マッドゴッド」の劇中にはその明確なオマージュが込められていたりもするのだ。そちらよりもさらにぶっ飛んだとある展開も含め、「汚い2001年の宇宙の旅」的な面白さに満ちている。他にも、「ふしぎの国のアリス」を強く連想させる場面もあった。

「狂っている」が褒め言葉の地獄巡りストップモーションアニメ映画「マッドゴッド」レビュー (C)2021 Tippett Studio

 見ているうちに理屈とかはどうでもよくなり、ひたすらにこの狂気に満ち満ちた地獄に身を任せるべく、ブルース・リーのごとく「考えるな! 感じろ!」になってくる貴重な体験ができることは間違いない。

 ともあれ、これほどのグロさ+わけのわからなさこそ、「マッドゴッド」が見る人を選ぶ理由というわけだ。試写会アンケートで8割以上が「人を選んで勧めたい」と答えたのも当然である。この感じがイケると思った方には、ぜひ劇場で見て「グロい」「ヤバい」「頭おかしい」と3拍子そろった衝撃を味わってほしい。

CGに移行することになった時の監督の絶望

 そんなわけで「作った人は狂っているし見ているこっちも頭がおかしくなる(超褒めてる)」と思い続けてしまう「マッドゴッド」であるが、本作をより深く理解するためには、監督であるフィル・ティペットがストップモーションアニメーターおよび特殊効果スタッフの巨匠である、という背景も重要だ。

「マッドゴッド」謎の巨大生物!メイキング映像

 例えば「スター・ウォーズ エピソード5/帝国の逆襲」の兵器「AT-AT」のシーンを作り出し、続く「ジェダイの帰還」ではアカデミー賞の特殊視覚効果賞を受賞した。スティーヴン・スピルバーグ監督からは「人生にはフィル・ティペットが必要だ」と言わしめ、「パシフィック・リム」などのギレルモ・デル・トロ監督からは「彼は巨匠であり、師であり、神だ」と称賛されている。

 だが、1993年の「ジュラシック・パーク」から、業界全体が本格的にCGにシフトすることになる。同作ではもともとはティペットによるアナログな特殊効果を用いる予定だったが、恐竜をCGで制作することを知ったティペットは「まるで絶滅するようだ」と言い、スピルバーグから「いいセリフだ。映画で使うよ」と返されてしまったらしい。その後ティペットは「築き上げたものがゴミ箱行きだ」などと自分の存在意義がなくなったことに絶望し、肺炎に2週間かかっていたという。

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