60年にわたる“三毛猫の謎”を解明したい――ニャンコ好き研究者のロマンあふれる遺伝子解明プロジェクトが支援募集中・九大
ドキドキ&ワクワクを感じる研究が進んでいます。
九州大学の佐々木裕之名誉教授が率いる「三毛猫遺伝子探索プロジェクトチーム」が、三毛猫の毛色をつかさどる遺伝子の解明を目指すプロジェクトの支援を「READYFOR」にて募集しています。三毛猫遺伝子の正体が明らかになるかも……!?
猫や動物が好きな人は「三毛猫やさび猫(二毛猫)はメスばかりで、オスはほとんどいない」という話を聞いたことがあるかもしれません。その理由は、茶・黒の毛色を決める遺伝子が、性別を決める性染色体上にあることと関係しているといいます。
この遺伝の仕組みは約60年前に提唱されたものの、実は「どの遺伝子が、三毛猫の毛色を作っているのか?」という疑問を解明した研究者は今もいないのだそうです。遺伝情報全体を1つの図書館に例えてみると、“どの本に書かれているのか”までは分かっているが、“本の中のどの文章にあたるのか”が分からない状態だといいます。
この謎を解明すべく集まった同プロジェクトチームのメンバーは、猫好きな研究者や獣医師たち。力を合わせて日々研究を行うなかで、生命の不思議に興味のある人や猫を愛する人など、多くの人に遺伝子の世界の面白さを伝えるべくクラウドファンディングを立ち上げたそうです。提供された資金は、研究に必要な消耗品費や人件費、機器使用料、光熱水費などに使用するとしています。
毛や肌の色を決める遺伝子の働きは、多くの生物で共通しているとのこと。プロジェクトの過程で生み出されるデータは人類にとっての貴重な財産となり、将来のペット医療や動物福祉に貢献する可能性もあるのだとか。同研究の成果は学会や学術雑誌で報告するとともに、サイトや一般向け講演を通して分かりやすく公開する予定とのことです。
なお同プロジェクトで使用する研究サンプルは、獣医師が通常の診療や保護活動の際に得た猫の血液・細胞などを分与していただくもので、猫たちに負担をかけることはないそうです。
今回、ねとらぼ生物部では“ニャンコ大好き”な佐々木名誉教授にインタビューを実施。同研究が成功した場合の私たちへの影響や、“オスの三毛猫”に関するうわさなど、さまざまな疑問を聞いてみました。
――同研究が成功した場合、猫と暮らしている私たちにどのような良い影響があると考えていますか?
佐々木名誉教授:この研究は性染色体にあることは分かっているけれど、実体が分かっていない茶黒の毛色を決める遺伝子を見つけて、その分子的な働きを調べるものなので、「愛する猫たちのことをもっとよく理解できた!」という満足感が得られて、ますます猫ちゃんがいとおしくなるかもしれないですね。ですので、謎解きのロマンのようなものを感じていただけるとうれしいです。
また、日本のイエネコ10匹以上の遺伝子解析を行い、そのデータ(遺伝子配列の個体差など)を世界中の研究者に公開しますので、将来的に猫の病気の原因やかかりやすさなどの解明、予測、治療薬の開発などに役立てばよいと考えています。
――染色体異常によって生まれる“オスの三毛猫”は「体が弱く短命」「生殖能力がない」といわれていますが、これらは事実でしょうか?
佐々木名誉教授:オスの三毛猫の原因となる染色体異常は何通りかありますが、「生殖能力がない」場合がほとんどだと思います。ただ、必ずしも「体が弱く短命」ではなく、長寿のオス三毛猫もいるようです。原因となった染色体異常の違いにもよるのかもしれませんね。ちなみに、サビ猫も三毛猫と同じ遺伝子によって茶黒のパターンができるので、ほぼメスばかりになります。
――なるほど。ちなみに同研究の成功によってオスの三毛猫の生殖能力が回復する可能性はありますか?
佐々木名誉教授:残念ながら、今回の研究成果により、オスの三毛猫が子どもを作れるようになることはあまり期待できません。だからこそというわけではありませんが、たっぷりかわいがってあげて、幸せな一生を送れるようにしてあげたいですね。
――遺伝子学的に、猫の毛色と性格は関係するのでしょうか? また現状は“謎”である場合、同研究で解明される可能性はありますか?
佐々木名誉教授:猫の毛色・模様と性格の関係は興味深い話題ですね。毛色と性格を直接つなぐ遺伝子は見つかっていませんが、毛の色素を作る色素細胞は発生学的に一部の神経細胞と由来が同じですから、そのような関係が見つかる可能性もあると思います。
ただ、性格の形成には多くの遺伝子が関係しますし(品種や系統による違いは主にこれ)、毛色による外見の影響や、それとは全く関係ない生育時の環境なども影響するでしょうから、決定的なことを言うのはなかなか難しいかもしれませんね。
――最後に、同研究に協力している猫ちゃんたちの紹介をお願いします!
佐々木名誉教授:同研究に協力している猫ちゃんの一部として、「しんのすけ」「いちご」「わさび」「ティアラ」の4匹がいます。いずれも保護猫です。「しんのすけ」はプロジェクトメンバーの愛猫さんで、あとの3匹はその同級生たちの愛猫さんたちです。
しんのすけ(オス・7歳)はこのプロジェクトの協力猫第1号。性格は人懐っこいが抱っこは長持ちせず、なかなか爪を切らせてくれません。引き戸を開けても閉めず、飼い主が電話しているとなぜか手をかみに来ます(遊んで遊んでのサイン?)。
いちご(メス・4歳)は、「一期一会」から命名された保護猫です。保護場所は車のボンネットの中で、譲渡会で運命的に出会いました。性格は穏和で人好き、初対面の人もウエルカム。「シャー」と怒ることがありません。
ティアラ(メス・15歳)は若いころは気位が高かったけれど、歳とともに人にも懐くようになってきました。最近では飼い主のオンラインの仕事に、飼い主より前に陣取って参加しています。
わさび(メス・推定6歳)はいつもクールでひとりが好き、ちゅ〜るに見向きもしないなど、何かと好みが厳しいです。おやつが欲しくなると少し離れたところから姿勢を正して、パパがおやつをくれるまでまなざしを向け続けます。ママには塩対応ですが、パパは陥落メロメロなので、別名「銀座のママ」と呼ばれています。
(了)
寄付の募集期間は1月31日午後11時まで。目標金額を達成した場合にのみ、集まった寄付金を受け取ることができる、All-or-Nothing方式のプロジェクトです(寄付を行うと税制上の優遇措置を受けられます)。
- プロジェクトページ「レディーフォー 三毛猫の毛色をつかさどる遺伝子を解明したい!〜60年間の謎に挑む〜」
(三日月 影狼)
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