共通テストの倫理に「親ガチャ」想起させる問題、なぜ出題? 予備校関係者や大学教授に聞く背景(2/3 ページ)
「明らかに『親ガチャ』を意識したものではないか」
――共通テストの倫理での「社会的格差における運と努力」をテーマとした出題が「親ガチャ」を連想させると話題になっています。倫理学の立場から貧困や平等などの課題に取り組まれている先生は、この出題をどのように感じられましたか。
馬渕教授:この出題は明らかに「親ガチャ」を意識したものではないかと感じました。リアルタイムな社会問題とうまく交差した会話文になっていて、その点では良い問題だったと思います。
今後、予備校などの問題解説で書かれるのではないかと思いますが、倫理学では「運の平等主義」という考えがはやっていて、こうした動向も背景にある問題だと考えられます。自分の選択の結果、生じた不平等は選択の結果なのだから引き受けなければならないけれども、「運(自分の選択や努力ではどうしようもないこと)」による不平等は正されるべきだという考え方が「運の平等主義」です。
この出題には「親ガチャ」のようなリアルタイムな社会問題は、倫理学のトピックにも直結するというメッセージが込められていると感じました。このように話題になり、出題者は手応えを感じているのではないかと推測しています。
――共通テストには会話文の他にも、「まじめに努力していれば、いつかは必ず報われると思う」「いくら努力しても、全く報われないことが多いと思う」と思う割合についての調査の結果を、1988年と2013年で比較した出題も見られました。同調査では後者の割合が20代から70代以上の全世代で高くなっています。
馬渕教授:問題で使用されていたのは2013年のデータですので、やや古いですが、現在も同じような傾向にあるのではないかと予想します。経済状況が一向に改善しないことが背景にあるでしょう。
このことも「運」と関連付けて考えられます。なぜなら、人は自分が生まれる時代を選べないからです。どの時代に生まれるかということも、やはり「運」だと言えます。この運の影響を露骨に受けたのが、いわゆる「ロスジェネ世代」ではないでしょうか。生まれた時代がたまたま不景気だったため、「就職時に正規雇用に就けず、その後ずっと非正規雇用から抜け出せないでいる人も多い」という現実があります。
――運と努力、ひいてはその人が持つ出自や性別などが社会的格差に与える影響について、先生の見解を教えてください。
馬渕教授:大雑把に言えば、近代より前の社会は「属性主義」の社会だったと言えます。属性主義は性別や家柄、身分のような属性を基準にして人を評価することです。近代社会の建前は属性主義をやめ、「個人の能力」を尊重しようとしたことだと思いますが、その建前を実現するのは容易ではありません。性別や出自などによる露骨な差別や格差がなくなったとしても、家庭環境、経済環境、社会環境などが個人の能力に大きな影響を与えてしまうからです。
もちろん、能力主義にすれば問題がすべて解決するわけではありません。会話文でも近しいことが書かれていましたが、能力にも「運」が影響する部分があります。「たまたま能力が乏しい人は、そのことで不利になっても諦めなければならないのか。能力が乏しいと認定される人は屈辱感を味わうのではないか」などの問題もあると考えられます。
いずれにせよ、私たちには「個人の出自や性別などで、人生が決定されるような社会は良い社会なのか、そんな社会に住みたいと思うかどうか」が問われていると感じています。格差是正の主張に対しては、逆差別や弱者優遇などさまざまな批判が向けられていると思いますが、最も重要なのはどのような社会に私たちが住みたいと思うかだと考えています。
取材後記
代ゼミは今回の出題について、共通テストや倫理の授業では「格差社会における運と努力」というテーマは典型的としつつも、受験生たちが現代社会の格差などの問題に当事者意識を持ち、「より『平等』『公正』な社会を作っていくためにはどのようにすれば良いのか」を自ら考察させる出題意図があったのではないかと考察しています。
また、馬渕教授は「この出題は明らかに『親ガチャ』を意識したものではないか」と感じたとして、近年流行している「運」による不平等は正されるべきだとする「運の平等主義」などの議論に言及しつつも、「最も重要なのはどのような社会に私たちが住みたいと思うかではないか」と疑問を投げかけました。
出題ではその後、2人の高校生は先生に意見を聞き、「運の違いも努力の差も軽視しない社会の仕組みを考え付くことができるといいですね」という先生の言葉で会話は締めくくられています。どうすれば、運の違いも努力の差も軽視しない社会はやってくるのか。受験生だけではなくわれわれに対する大きな命題に思えます。
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