「亡くした愛猫を剥製にする」とパートナーが言い出して…… “ペットの死”への向き合い方を描く漫画に考えさせられる 作者に思いを聞いた(2/4 ページ)
作者「動物と共に暮らす以上、必ずその死を見届ける責任が人間にはある」
―― この漫画を描くことになったきっかけを教えてください
矢野さん: きっかけは海外のネットニュースで愛犬を剥製にした人の記事を見て、「これは漫画にしたらインパクトがあるのでは!?」「話題になるのでは!?」「賞に残れるのでは!?」と下心満載でこのテーマを選んだのが正直なところです。
その記事に対するネット上の反応はほとんどが否定的で、私もはじめは剥製にしたい人の気持ちがよく分かりませんでした。しかし、剥製にするのはおかしい、かわいそうという意見があまりにも多かったので、元来あまのじゃくな私は逆に「何でおかしいと言い切れるの?」と思い、そういう考えをひっくり返せたらこのテーマを漫画にする意味があるのではと考えました。
そこから、自問自答を繰り返し、剥製にしたい人の気持ちに徐々に近づいていったことでこの漫画が描けたのかなと思います。
―― 実際にペットを剥製にした(またはしたいと思った)ことはありますか?
矢野さん: わが家には2匹の猫がいますが、今のところは火葬にするつもりで、それぞれと同じ柄の猫の貯金箱を骨つぼにするために置いてあります。
これは自分の心の準備のためでもあります。でもこの先「やっぱり剥製にしたい!」と思うかもしれません。実際にそう思うときもあります。「剥製になってもいいくらい立派な猫だよね〜」と家族で話したりもします。
正直どうするかまだ決めかねているのですが、弔い方の1つとして剥製は選択肢にあります。これはこの漫画を描く前と後で大きく変わったところです。
―― ペットロスは深刻な問題だと思いますが、向き合い方について考えをお聞かせください
矢野さん: 私はまだペットロスを経験していなくて、「いつかこの柔らかくて暖かい毛玉が、冷たく動かなくなってしまうんだ……」と考えただけで泣きそうになるので、むしろ私が聞いて回りたいくらいではあるのですが……。
まずは、動物と共に暮らす以上は必ずその死を見届ける責任が人間にはあると思っているので、死と向き合うことの覚悟はしています。怖いものは怖いですが。
あとはペットロスを扱った作品を通して、さまざまな死との向き合い方を知るのもよいかなと思います。愛猫の死についての漫画を描いておきながら、私自身は動物の死を扱った作品は絶対にしんどくなるので避けがちなのですが、いい作品と出会えれば「こういう受け止め方もあるんだ」「こんなふうに思ってもいいんだ」と支えてくれたり寄り添ってくれると思うので。おすすめの作品は、町田康さんの『猫にかまけて』、松本英子さんの『ずっと、ウチのハナちゃん』、須藤真澄さんの『長い長いさんぽ』です。
あとは後悔のないよう愛情・時間・お金を自分のできる範囲で最大限に惜しみなく猫たちに押し付けていくつもりです。そのときが来たら意外と大丈夫かもしれないし、何も手につかなくなるかもしれない。そのときの感情を否定せずにそのまま受け入れようと思っています。ちなみに今、半泣きです。
―― 漫画への反響について感じたことを教えてください
矢野さん: デリケートな内容なので否定的な反応も覚悟していたのですが、想像していたより肯定的な反応が多かったことに驚きました。漫画を読んでどう感じるかはもちろん自由ですが、この漫画で伝えたかったことがちゃんと、むしろ自分が考えていた以上に、たくさんの方に伝わって受け入れてもらえたことはとてもうれしいです。
お家の動物とシビを重ねて読んでくれた方も多かったので、動物に関する悲しくて痛ましいニュースもあるけど、その反面こうして本当に愛されている動物もたくさんいるんだなと実感できて、動物のことになると涙腺ゆるみまくり人間な私は、それぞれのその大切な子に思いをはせながらまた泣いてしまいました……。「作者がこんなに泣くことってある?」と思いながら。
―― 最後にお聞きします。愛猫の好きなところはどんなところですか?
矢野さん: 「その全て」ではありますが、あえて抜粋するならば………美しいお目目。素晴らしい毛並み。走るときに揺れるお腹。香ばしい肉球。小さいたまたま。冷たいお鼻。一生聞いていたい寝息。甘えるときフードコートの呼び出しベル並みに振動する短いしっぽ。それぞれの鳴き声。それぞれの足音。かぐわしき口臭。おトイレ中の真剣なまなざし。絵に描いたようなうんちハイ。影さえもかわいいところ。2匹で寝てるとき必ず頭と頭をくっつけて寝ているところ。カメラを向けると迷惑そうにそっぽを向くところ。スリスリすると心底迷惑そうな顔をするところ。私が出掛けるとき一瞥(いちべつ)もくれないところ。玄関で入り待ちしてくれるところ。これはうちの子達だけかもしれないのですが……ご飯のとき「ゴハーン」と言うところ。ご飯のときだけ意思疎通めちゃくちゃできるところ。常に人間の食べ物を狙っているところ。人間の都合をまるで考えずに甘えたりご飯や遊びの催促をしてくるところ。お客さん(特に中年の男性)が好きなところ。一緒の布団で寝てくれるところ。布団に入るとき私の体を容赦無く踏んでいくところ。私の股の間で陣地争いをするところ。私の顔に寄り添って寝たいのかと思ったら枕を奪って寝るところ。あったかいところ。私より速い鼓動。私の家に来てくれたところ……「その全て」です。
※作品提供:矢野満月(@yanomaan)さん
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