映画「シン・仮面ライダー」レビュー ライダーに変身したくない本郷猛と、エヴァに乗りたくない碇シンジ

3年連続で庵野作品を見られる幸せをかみ締める。【ネタバレ注意】

» 2023年03月26日 18時00分 公開
[ツヤマユウスケねとらぼ]

 3月17日、庵野秀明監督最新作「シン・仮面ライダー」の劇場公開がはじまった。特撮の名作をリブートする「シン」シリーズ第3弾となるが、「シン・ゴジラ」(2016年)や「シン・ウルトラマン」(2022年)とは全く違う作風となっている。今作は登場人物たちの内面に徹底してフォーカスした物語なので、同監督のアニメ『エヴァンゲリオン』シリーズに近いのではないか……? そんな視点で「シン・仮面ライダー」をレビューする。

※この記事では映画「シン・仮面ライダー」のネタバレが含まれますので、ご注意ください。

シン・仮面ライダー

庵野版・仮面ライダーはよく悩み、よく泣く

 池松壮亮演じる仮面ライダーこと本郷猛は、強くて臆病なヒーローだ。彼は、敵であるSHOCKERのメンバーが「人間」だからこそクヨクヨ悩む。SHOCKERたちの息の根を止めることは、突き詰めれば殺人に他ならない。それを平気でやってしまう自分が怖い。彼は、敵が怖いなんてことは一切言わない。人間離れした力を持つ自分自身を一番恐れているのだ。

 庵野監督の「シン・仮面ライダー」は、1971年テレビ放送の「仮面ライダー」と石ノ森章太郎の同名漫画のリブート作品。今作に登場する秘密結社・SHOCKERは、「人類の持続可能な幸福」の実現をうたい、一般市民を洗脳して隷属させるなどの非合法的手段を用いる集団だ。SHOCKERに捕らえられた青年・本郷猛は、近未来のバイオテクノロジーでバッタの能力を身体に埋め込まれた生物兵器となる。彼も洗脳されてSHOCKERのメンバーとなるはずだったが、その寸前、メンバーの一人である緑川ルリ子(浜辺美波)の手引きでアジトから脱出する。

シン・仮面ライダー

 石ノ森漫画版でも本郷は殺人を犯す罪悪感に苛まれるが、「シン・仮面ライダー」ではそれがより深刻に描かれる。予告編通り、人間離れしたミュータント的な顔つきのSHOCKERメンバーは少ない。たいていは仮面を付けていて、仮面を外せば人間の顔のまま。それに、ぶん殴られれば普通の人間と同じように赤い血が噴き出す。本郷は戦闘が終わってわれにかえると、手にべっとりついた血と、仮面の力によって増幅した自らの闘争本能にぼうぜんとする。

 印象的なのは、本郷が鏡の前で自分の変わり果てた姿におびえるシーンだ。石ノ森漫画版では「おれは戦わねばならない! 戦い続けなければいけない!」と自分を鼓舞するが、「シン・仮面ライダー」では違う。本郷の脳裏に、かつて目の前で父を殺された耐え難い暴力の記憶がよみがえる。そして、自らも殺人を犯してしまう状況について「思ったよりもつらい」と正直に話し、再びライダーに変身することをためらう。

 それに、今作の本郷はよく泣く。仮面をつけたままなので表情は見えない。だけど震える肩や荒い息遣いから、深い悲しみがズシンと伝わってくる。

シン・仮面ライダー

「シン・仮面ライダー」はエヴァ要素「全部乗せ」な作品

 そんな本郷にとって救いになるのが、一緒に戦う仲間の存在だ。本郷とともにSHOCKERを抜けた緑川ルリ子は、庵野監督の「エヴァンゲリオン」シリーズをほうふつとさせる「戦うヒロイン」として活躍する。例えるなら、エヴァに乗りたがらない碇シンジを奮起させる綾波レイのよう。

 ルリ子もレイも、他人を優しく励ますような性格ではない。自らの目的のために合理的に行動し、必要とあらば一人でさっさと戦場に行く。どちらかというと言葉ではなく、背中で語るタイプだ。繊細な本郷やシンジはそんな仲間のあとを追って行動し、過去に経験した絶望と、厳しい戦いを強いられる運命を乗り越えていく。

 この点、「シン・仮面ライダー」は「エヴァ」に近い作風になっている。「シン・ゴジラ」や「シン・ウルトラマン」は、心情を描く回想シーンを一切出さず、日本に襲来した怪獣への対処を客観的に描写していた。一方「シン・仮面ライダー」は、「エヴァ」と同じく各キャラクターが抱える闇を少しずつ明らかにするストーリーだ。

 さらには「人類補完計画」のような試みを進めるキャラクターまで登場する。ルリ子の兄でSHOCKER幹部の緑川イチロー(森山未來)は、全人類の魂を強制的に抜き、バラバラだった人間の心を一つにして孤独を埋めあおうと考える。イチローもまた、大切な人を失って心を病んでいた。本郷に限らず誰しもが救われたいと願っている。

 人間はどうすれば暗い過去と決別して、前を向いて進めるようになるのか? この問いについて庵野監督は何度も何度も映画で描こうとする。彼にとって永遠の課題なのだろう。現時点での庵野監督の答えを、ぜひ劇場で見て確かめてほしい。

 振り返れば、2021年の「シン・エヴァンゲリオン劇場版」公開以降は、庵野作品が毎年見られる夢のような3年間だった。その締めくくりとなるのが「シン・仮面ライダー」。堂々たる出来栄えに、圧倒されること間違いなしだ。なお、今回も庵野作品らしく最初から最後まで情報の洪水なので、2度も3度も見に行くことをお勧めする。

(C)石森プロ・東映/2023「シン・仮面ライダー」製作委員会



Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2411/21/news027.jpg 大きくなったらかっこいいシェパードになると思っていたら…… 予想を上回るビフォーアフターに大反響!→さらに1年半後の今は? 飼い主に聞いた
  2. /nl/articles/2411/20/news049.jpg 高校生の時に出会った2人→つらい闘病生活を経て、10年後…… 山あり谷ありを乗り越えた“現在の姿”が話題
  3. /nl/articles/2411/20/news222.jpg ディズニーシーのお菓子が「異様に美味しい」→実は……“驚愕の事実”に9.6万いいね 「納得した」「これはガチ」
  4. /nl/articles/2411/20/news027.jpg 「こんなことが出来るのか」ハードオフの中古電子辞書Linux化 → “阿部寛のホームページ”にアクセス その表示速度は……「電子辞書にLinuxはロマンある」
  5. /nl/articles/2411/20/news054.jpg 「防音室を買ったVTuberの末路」 本格的な防音室を導入したら居住空間がとんでもないことになった新人VTuberにその後を聞いた
  6. /nl/articles/2411/20/news050.jpg プロが教える「PCをオフにする時はシャットダウンとスリープ、どっちがいいの?」 理想の選択肢は意外にも…… 「有益な情報ありがとう」「感動しました
  7. /nl/articles/2411/21/news083.jpg 間寛平、33年間乗り続ける“希少な国産愛車”を披露 大の車好きで「スカイラインGT-R R34」も所有
  8. /nl/articles/2411/21/news085.jpg 「もしかしてネタバレ?」 “timeleszオーディション”候補者がテレビ局を退社 ディズニーの“船長”としても話題
  9. /nl/articles/2411/18/news107.jpg 走行中の車から同じ速さで後方へ飛び降りると? 体を張った実験に反響「問題文が現実世界で実行」【海外】
  10. /nl/articles/2411/21/news018.jpg グルーミングが出来ない生まれたての子猫、とんでもない体勢になり…… 想像以上のへたくそっぷりに「どこにも届いてないww」「反則級」
先週の総合アクセスTOP10
  1. 「飼いきれなくなったからタダで持ってきなよ」と言われ飼育放棄された超大型犬を保護→ 1年後の今は…… 飼い主に聞いた
  2. ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
  3. 「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
  4. まるで星空……!! ダイソーの糸を組み合わせ、ひたすら編む→完成したウットリするほど美しい模様に「キュンキュンきます」「夜雪にも見える」
  5. 妻が“13歳下&身長137センチ”で「警察から職質」 年齢差&身長差がすごい夫婦、苦悩を明かす
  6. 人生初の彼女は58歳で「両親より年上」 “33歳差カップル”が強烈なインパクトで話題 “古風を極めた”新居も公開
  7. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  8. 互いの「素顔を知ったのは交際1ケ月後」 “聖飢魔IIの熱狂的ファン夫婦”の妻の悩み→「総額396万円分の……」
  9. ユニクロが教える“これからの季節に持っておきたい”1枚に「これ、3枚色違いで買いました!」「今年も色違い買い足します!」と反響
  10. 中央道から「宇宙戦艦ヤマト」が見える! 驚きの写真がSNSで注目集める 「結構でかい」「どう見てもヤマト」 撮影者の心境を聞いた
先月の総合アクセスTOP10
  1. 50年前に撮った祖母の写真を、孫の写真と並べてみたら…… 面影が重なる美ぼうが「やばい」と640万再生 大バズリした投稿者に話を聞いた
  2. 「食中毒出すつもりか」 人気ラーメン店の代表が“スシローコラボ”に激怒 “チャーシュー生焼け疑惑”で苦言 運営元に話を聞いた
  3. フォロワー20万人超の32歳インフルエンサー、逝去数日前に配信番組“急きょ終了” 共演者は「今何も話せないという状態」「苦しい」
  4. 「顔が違う??」 伊藤英明、見た目が激変した近影に「どうした眉毛」「誰かとおもた…眉毛って大事」とネット仰天
  5. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  6. 星型に切った冷えピタを水に漬けたら…… 思ったのと違う“なにこれな物体”に「最初っから最後まで思い通りにならない満足感」「全部グダグダ」
  7. 「泣いても泣いても涙が」 北斗晶、“家族の死”を報告 「別れの日がこんなに急に来るなんて」
  8. ジャングルと化した廃墟を、14日間ひたすら草刈りした結果…… 現した“本当の姿”に「すごすぎてビックリ」「素晴らしい」
  9. 母親は俳優で「朝ドラのヒロイン」 “24歳の息子”がアイドルとして活躍中 「強い遺伝子を受け継いだ……」と注目集める
  10. 「幻の個体」と言われ、1匹1万円で購入した観賞魚が半年後…… 笑っちゃうほどの変化に反響→現在どうなったか飼い主に聞いた