専門学校の講師からのセクハラ、信頼できる大人の助言に救われて…… 学びの場で起きた実体験を描いた漫画に反響(1/2 ページ)
相談できる相手がきっといる。
ある女性が、学生時代に講師から受けたセクシャル・ハラスメント(セクハラ)と、周囲の対応について描いた漫画をTwitterに投稿。3500件以上の“いいね”や、共感のコメントが集まるなど話題になっています。学校や職場などでセクハラがあったとき、当事者や周囲の大人はどのような対応を取るべきなのでしょうか?
投稿者は、花森はな(@hanamori_h)さん。今回の漫画は、20年程前、花森さんが専門学校に通っていたときに受けたセクハラと、周囲の大人の対応について描いたものです。
中学校の先生にお尻を触られるなど、子どもの頃から何度か性被害を受けてきたという花森さん。しかし、学生の頃は性被害にあっても「大人に言って何とかしてもらおう!」と思ったことはあまりなかったといいます。理由は「たぶん言ってもムダだ」という諦めがあったからです。
高校卒業後、花森さんがデザインの専門学校に通っていたときも、それは例外ではありませんでした。
ある日のこと。夜遅い時間に講師のK山さんから電話がかかります。電話に出ると、今から飲みに来ないかという誘いでした。
花森さんが断ると、K山さんは「これからデザイン業界でやっていくんやったらこういう誘いはいつでも乗らなあかんねんで!」と脅すように言い、自分が若い頃の自慢話を延々と続けます。こうしたことが何度もあったものの、相手が講師という目上の立場であるだけに、学生の花森さんはどうすればよいか分かりませんでした。
友人に相談すると、実はその友人にもK山さんから電話がかかってきており、仕事のモデルを頼まれたり、性的なことを言われたりしていることが判明。
すると、そばで話を聞いていたSちゃんが「それ事務室に言いにいこ」ときっぱり言いました。「こんなことで……?」「いいん……?」とためらう花森さんたちに、Sちゃんは事務室まで付きそってくれることになりました。
Sちゃんは社会人経験のある25歳。当時未成年だった花森さんに対して、本当は講師が学生に電話番号を聞いてはいけないこと、その証拠にK山さんは、元社会人の学生には一切電話番号を聞いてこないことなどを教えてくれました。
そして3人で事務室へ行き、K山さんのことを相談。事務の男性は真摯に相談に乗ってくれ、事実確認することを約束してくれました。
それを機にK山さんからの電話はぴたりとなくなりました。さらに、K山さんは他の学生にも毎年同様のことを繰り返していたことが判明し、後期からK山さんの授業もなくなったのです。
学校が自分たちの話を信じてくれ、ここまで対応してくれたことに驚いた花森さん。学校に感謝しながらも、K山さんの仕事がなくなったことを受け、「私ら悪いことしたんやろか」と不安になってしまいます。Sちゃんはこのときも、「いやいや!! 悪いのは大人である先生の方やからな!?」と助言をくれました。
学生の年齢層が幅広い専門学校。当時10代だった花森さんにとって、Sちゃんのような社会人経験のある年上の友人から助言をもらえたことは、視野を広げる貴重な経験となりました。
また、その翌年にはこんなことがありました。授業でも下ネタばかり話している講師が、ある日学生たちの飲み会に乱入してきたのです。飲み会の途中でトイレから戻った花森さんは、講師が学生にキスを迫っているところを目撃します。
キスを迫られていた女性は、講師から離れるとともに、花森さんに「アイツヤバイで ここにいる女子の殆どに迫ってる…!!」と状況を教えてくれました。花森さんたちは、そのあとすぐに会をお開きにすることに。翌日、他の学生と一緒に事務室へ報告に行きました。
前回と違い、学校にすぐ報告しに行こうと思えたのは、一度目のときから自分たちの話をていねいに聞いてくれ、しっかりと対応してくた学校への信頼があったからです。事務の男性は、「話してくれてありがとう! 後はこちらに任せて下さい!!」と頼もしい返事をくれました。花森さんが卒業した後、講師は解雇になったそうです。
噂によると、講師は「誰やねんチクった奴は!! 絶対デザイン業界におらへんようにしたるからな!!」と言っていたそうですが、花森さんは今も問題なくデザイン業界で働いています。
専門学校の講師はその道のプロ。花森さんは今でも尊敬している講師がほとんどだといいます。しかし、小学校から中学校とは違い教員免許が必要なわけではないので、さまざまな人がいるのも事実です。
教員になることにハードルが下がろうとしている今、花森さんは「もし学校の先生との間で何かあった時、信頼して話せる環境、しっかりした対応があるよう願ってます」つづっています。
全ての人が「学びたいことを全力で学べる環境」へ
ねとらぼGirlSide編集部は、作者の花森はなさんに詳しい話を聞きました。
−−漫画に描かれたエピソードの、当時の率直な心境を教えてください。
花森さん:当時は若かったことと、セクハラがまだまだ軽んじられていた時代的なものもあり、嫌だな、不快だなと思っていても言ってもいいかわかりませんでした。この程度で騒いでもいいのか。相手は先生だし……どうしようという思いの方が強かったです。
−−漫画の中で、相談しようと思えるようになったのは社会人経験がある方のアドバイスのおかげ、とありましたが、当時受けた助言で印象的なものはありますか。
花森さん:「自分達は悪くない」と言ってもらえたのが大きかったです。そんなことを言ってもらったことが一度もなかったので……。この後、就職した先でもセクハラにあうのですが、彼女の言葉があったからこそ対応できた部分もありました。
−−学校に相談したあと、心境の変化はありましたか。
花森さん:「人に相談してもいいのか」と心が軽くなりました。これまで、性被害に遭っても親も駅員さんも相手にもしてくれませんでした。「すきがあったのでは」「現行犯じゃないと無理です」と言われてきたので、こんなセクハラでも真摯に対応してくれる大人がいるというのは本当に力になりました。当時は救われた思いでしたが、今こうして20年経ってみると、あのときのように今度は私が話を聞いてあげられる大人でありたいと思うようになりました。
−−投稿への反響で印象的なものはありましたか。また、あらためて伝えたいメッセージがあればお願いします。
花森さん:驚くべきことに、今でもこういった専門学校における講師のセクハラ被害があるということでした。学校に誠実に対応して頂いてない方も多数いらっしゃいました。元々この漫画を描いたのは、最近教員による性加害の事件があまりにも多く、20年前の話ですが、こういった大人もいるよ、相談できる人もきっといるよという思いで描きました。昔の話なので今はもっと対応もアップデートされていると思っていたのですが、そうではないようなところも多い印象でした。
専門学校だけではなく、全ての学校にこういった相談に乗っていただけるところ、誠実に対応できるような人がいればいいなと思います。今回はセクハラのお話でしたが、学校には悩みを抱えた子どもたちがとても多いです。全ての人がそういった思いを少しでも軽くして、学びたいことを全力で学べる環境作りをしていただけたらなと思います。
性被害にあったとき、特に社会経験が少ない学生は、「こんなこと相談してもいいのだろうか?」と、周りの人や大人に相談することをためらいがちです。加害者が自分より上の立場である先生や講師ならば尚更です。
また、「業界でやっていくなら誘いに乗れ」「業界でいられなくしてやる」といった脅しを受けると、将来への影響を恐れてますます相談しづらくなる可能性もあります。しかし、大切なのは「性被害を受けた側は悪くない」という認識を日頃から持つこと。周囲に相談することや、加害者が何らかの処分を受けることに罪悪感を抱く必要はありません。花森さんのエピソードでは、周りの人もしっかりと「性被害を受けた側は悪くない」という認識をもっていたからこそ、無事に問題が解決しました。
それに加えて、学校側は学生からの相談にしっかりと対応できる体制を整えていなければいけません。「話を聞くだけで対応がされない」という経験は、被害で傷ついている被害者の心をより深く傷つけるのです。
やった側は軽い気持ちであったとしても、被害を受けた人の心にはいつまでもその記憶が残るもの。性被害で悲しい思いをする学生がいなくなることが願われます。
花森はなさんは、この他にもTwitter(@hanamori_h)で漫画作品を公開しています。また、書籍『息子が学校に行けなくなりました。』も販売中です。
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