「カクレンジャー」鶴姫役の広瀬仁美にインタビュー 俳優引退からアーティスト転身、30周年目前のサプライズ全員集合の裏側も聞いてみた(2/2 ページ)

» 2023年04月09日 12時00分 公開
[小西菜穂ねとらぼ]
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広瀬仁美さん 鶴姫/ニンジャホワイト役の広瀬仁美さん

30周年へのフラグ? 2022年8月、Twitterを席巻した集合ショットについて聞いてみた

―― お決まりの質問ですが、お子さんたちはお母さんがヒーローだったことをご存じですか?

広瀬 知っています。上の子たちは「カクレンジャー」を見て育ちました。今でも覚えているのが、テレビにかじりついていたら盛り上がっちゃって「忍法使う!」って暴れだし机の角で頭をガーン! 血だらだらの子を「修行してからにしてくれ」とテレビもつけっぱなしのまま病院へ駆け込んだこと。今ではいい思い出です。

 あとは学校の先生とのエピソードが多くて。ファンの方からいただいた文房具を使わせていたら、世代だったようで先生が「これは!」と。子どもは別のシリーズ世代だからどうしてと聞かれて「これ、うちの母さん」みたいな。

―― 「うちの母さん」は強すぎる。ちなみにお子さんたちは鶴姫推しなのでしょうか?

広瀬 いや、みんなジライヤ(ニンジャブラック役、ケイン・コスギさん)推しでしたね。やっぱり動けるからじゃないですか。「お母さんはいつも忍法でバババババーってやって終わり」とつれない。生身で戦う方が胸に熱いものがくるみたいです。

広瀬仁美さん 「忍法でバババババー」(イメージ)

―― 皆さん仲良しでうれしい限りです。今でも連絡を取り合っているとのことでしたが、他の4人についてのお話しをきかせてください。

広瀬 イエローの河合は私と同じように表舞台から遠ざかっています。昔から話上手で、人の話もよく聞いてくれる人。やたらと人に信頼される人っているじゃないですか。「人徳だね」で納得できちゃう、そういうタイプで今は普通のサラリーマンとしてめっちゃ出世してるんですよ。

 セイカイは問題児で、大きくなっちゃったり食べるのが我慢できなかったり(第7話「こいつぁデカい」)、女の子大好きだったのに今じゃ立派に偉くなってます。

―― サイゾウ/ニンジャブルー役の土田大さんも軽めのキャラでしたけど、現在は声優として渋めのキャラを演じられることが多い印象です。

広瀬 河合が言ってました。「土田は日本の宝だ」と。ディズニーの「カーズ」(マックィーン役)にも出て、「進撃の巨人」(グリシャ・イェーガー役)も、「お前らは見たか」と。「すごいぞ、あんなにいい周波数する声優、日本の宝だ」って言っているくらい。この間はガンダム※をたまたま見ていたら「大ちゃんじゃない!? 今大ちゃんの声したんだけど!」って速攻調べたらやっぱり大ちゃんだった。私たちもすごく応援しています。

※「機動戦士ガンダム 水星の魔女」……土田さんはOVAの「機動戦士ガンダム 水星の魔女 PROLOGUE」にメインキャストのナディム・サマヤ役で出演

―― ガンダムを見ていて「大ちゃん」って言える人はなかなかいないでしょうね。

広瀬 「大ちゃんがいる!」みたいな(笑)。いろんなところで土田の声を聞いては反応しています。

 あとはやっぱりケインですよね。「SASUKE」※も放送時間が早かったので、さっさと夕飯作って食べ物とお菓子とテレビの前に用意して最初から最後まで見ました。年を感じさせないというか、修行のたまものなんでしょうね。人の良さがまた全力で出ていて、彼が愛される理由を再確認しました。あの渋い見た目とかっこいい体、だけどめちゃくちゃ優しい性格。昔から変わっていません。

※ケイン・コスギさんは2022年12月27日放送の「SASUKE2022〜NINJA WARRIOR〜」第40回大会に出演。1stステージをクリアし、史上最高齢記録を打ち立てた

―― 世間一般のイメージ通りの方なんですね。ここまでのお話しを聞くと、サスケ役の小川さんもキャラクターのまんまというか、レッドらしい方という印象です。

広瀬 小川さんは不思議な人。お互いサル年で私とは年齢がひと回り違うんですよ。なんか熱いんですよね。基本的に考え方がすごくレッドっぽい。普段はみんなをまとめようとするんだけど空回りしがち。それが「ほらもう〜」「サスケは〜」と期待通りでキャラのまんまですね。

 彼も今、声優だったりモーションキャプチャーだったりいろんなところで名前を聞くし、最近はYouTubeで「炎神戦隊ゴーオンジャー」の古原靖久さんとコラボもしました。これまでは戦隊OBとしての自分を全面に出さない印象があったところから後輩と絡むようになってきて、30周年の節目にサスケなりに思うとこもあるのかな。

 やっぱりみんな節目って感じるものがあると思うんです。当時より応援の声も届きやすくなっているし、30周年って言ってくださる声も届いていて、私と河合は特にもう引退しちゃっているからなおのこと。長いです、30年って。

―― 2022年8月に5人がそろった写真をSNSへアップし大きな話題になりました。そのときのお話しを聞かせてください。ケインさんが悪役を演じた「劇場版 仮面ライダーリバイス バトルファミリア」(2022年7月公開)に小川さんと広瀬さんも出演し3人が顔をそろえていましたが、30周年を前にファンの期待も高まる一方です。

広瀬 あの日は本当に久しぶりに全員で集まろうとなったんです。「リバイス」で3人そろったから「どうせなら5人で集まろうよ」とただそれだけの理由でした。不思議ですよね。5人でしっかり集まったのって本当に何年ぶり? 20何年ぶり? それが一瞬で昔のような気持ちになれた。思い出話をしながら、「みんなで写真撮ろうよ」「どうせだったら当時の並びで」とワイワイ。河合は完全に引退しているので悩んだけど、5人そろっているんだからとなったとき、サスケが「どうせだったらみんなで一斉にやろう」と言い出して、そうしたらあんな大騒ぎになっちゃった。

 何か狙いがあったわけでもなく、逆にTwitterでトレンドに上がってきたのを見て私たちの方が「どうしたんだこれは」と慌てちゃった。「なんか期待させちゃうよね」と言い合っています。お世話になっていたスタッフさんからも、「あれはテレ朝か」「どこにいるんだ」「何をやるんだ」と電話がかかってきました。ちょっと偉い方相手に「いや、本当にご飯食べただけなんです」と弁解したら、先方も「そうだよな、俺が知らないもん」と。でも今ってグッズとかもすごい出ているんですよ。

―― 絶対何かあると信じていました。大人サイズのカクレマル(※武器)とか売り出してほしい。

広瀬 私、家に2本あるんですけどね。バンダイさんに今、企画を出してくれているのも、当時見ていた子どもたちの世代。大人になったカクレンジャー世代の皆さんがまた盛り上げてきてくださっているので、私たちはそれに甘えながら、感謝しながらやらせていただいています。

 私たち5人の中ではせっかくの30周年、5人そろって何かできるならこれで最後という気もしています。40周年となると還暦くらいになっちゃうし、みんなどうなっているか分かんないよねって。まだ元気で人としての形を保っている間に何かできればいいねと話しています。

広瀬仁美さん

変わり続けるスーパー戦隊にOGとして願うこと

―― スーパー戦隊シリーズも47作目の「王様戦隊キングオージャー」がスタートしたばかり。46作目の「暴太郎戦隊ドンブラザーズ」では初の男性ピンクが登場し進化を続けています。いまだ破られていない最年少メインキャスト記録を含め、OGとして今後シリーズへどんな風になっていてほしい、どんな役割を負ってほしいといった思いはありますか?

広瀬 「次のヒロインは何歳だ?」ととにかく気になります。気にしつつ、例えば「ドンブラザーズ」では男性がピンクだったり、「機界戦隊ゼンカイジャー」(45作目)「宇宙戦隊キュウレンジャー」(41作目)には人じゃないキャラが登場したり、多様性を感じます。

 スーパー戦隊って子どもがメインの番組じゃないですか。子どもに向けて、正義、強さ、優しさといった大切なことを教える役割があり、私にとってはすごく誇りに思えることです。ちょっとずつ大人たちが変化して、女性を認めていこう、誰だって自分らしくていいとなった結果、仮面ライダーで女性も変身するようになった。私たち大人が子どもへ伝えたいメッセージを届けるため、東映さんもシリーズを作ってきてると思います。

―― 鶴姫が初めて女性リーダーの役割を背負っていたという意味では、変化の起点にカクレンジャーがあったようにも思えます。

広瀬 中には昔ながらの戦隊、いわば王道が好きな方もいらっしゃるでしょうし、カクレンジャーだって最初は「女がリーダーなんて」と思った人もきっといっぱいいたでしょうね。思うとこってみんないっぱいあるけど、47年続いてきた「子どもたちに夢を」という気持ちはずっと変わっていないはず。だから大人はお口にチャックして、作っている側の熱意を、見る側として受け入れていきたい。2歳から6歳くらい、一番重要な時期に子どもが何を見て何を感じてくれるのか。これから先も大切に守ってほしいなと思います。

―― すてきなお話をありがとうございます。広瀬さん自身、ここ10年くらいはさまざまなタイミングでシリーズに参加されていますが、今後もどこかで会える機会はありそうですか?

広瀬 東映さんが呼んでくれる限りは! あのころは14歳で、何も考えずガムシャラに1年間を走り抜けてしまいました。今は当時と違って感謝しながらその場にいられるし、気が引き締まりますし自分自身を見つめ直す機会にもなる。シュシュトリアンも入れると2年間、学校より東映へはるか多く通っていて、最初は最年少だった自分が今じゃお母さん役と思えば感慨深い。恩返しというか何かお力になれることがあれば、自分で良ければいつでも力を尽くしたい気持ちです。

―― もし、カクレンジャー以外でお気に入りのシリーズがあればお聞きしたいです。

広瀬 私、ライダーも好きで「エグゼイド」(2016年)「電王」(2007年)も全部見ているし、あと「オーズ/OOO」(2010年)も。「W」(2009年)は東映さんのセット開放日に、普通の人に混じって参加しちゃいました。

 戦隊で一番を決めろとなると困っちゃうんですけど、「烈車戦隊トッキュウジャー」(38作目)が大好きでロケ地巡りまでしました。「手裏剣戦隊ニンニンジャー」(39作目)「動物戦隊ジュウオウジャー」(40作目)も全部見てるし、あとキュウレンジャーも。引退してすぐより子育てしながら見ていた作品が多いです。

―― めちゃくちゃオタクだった。顔パスで行けそうなものなのに。

広瀬 あまり気付かれません(笑)。仮面ライダー展(※2023年4月現在、全国巡回中)も楽しく見てきました。全然バレないです。ただGロッソだけは行ったことないんですよね。いつか行ってみたい。いっぱいパネルが飾ってあるスペースがあるらしくて、そこで写真を撮りたい。

 スーパー戦隊レストランもあるらしいじゃないですか。よく皆さんサインとか書かれてるけど、自己申告なのかな? そこを誰かに聞いてから行こうと思っています。気まずくなっちゃっても中途半端に相手に気を遣わせても悪いし気にしちゃって(笑)。

大切なことはカクレンジャーから学んだ 今も“ヒーロー”であり続ける、広瀬さんからのメッセージ

―― これから広瀬さんと同じように、新しく何かを始めて頑張ろうとしている人へエールを送るとしたらどんな言葉をかけたいですか?

広瀬 私は毎日が新しいスタートだと思っています。挫折を経験して子育て期間に入り一段落した今、また自分でやりたかったことをかなえるため新生活へ。幼稚園での仕事を始めてからは両立という課題と戦う中で、昨日できなかったことに今日もう一度挑戦してみよう、その積み重ねです。

 不安でも、同時に希望も絶対あるはず。新しいスタートを切る時には必ずどこかに「こうなりたい」ってイメージがあるじゃないですか。生活にもまれて忙しくしているうちに忘れがちになってしまう理想を、めげちゃうときには思い出して。私自身も子育て、個展、仕事と毎日しっちゃかめっちゃかだけど、みんなに「ありがとう」と感謝をされる人でいたいという最終的な目標がある。「お母さんありがとうね」といってもらえる、理想とする自分を思い出して「すごく疲れてるけどもう1回洗濯機まわしてきます」みたいな、そういうちっちゃい積み重ねでいいと思うんです。

 結局、カクレンジャーでも最後の敵は人間の負の感情でした。忙しかったり後悔したり、「あの人はちょっとずるいな」と妬むよりは、自分をしっかり持つことで自分の心を自分で安定させてあげるしかない。若い人でもお仕事をリタイアした世代でも、どの世代でもきっと同じだから理想を忘れずにいて。

 でも休憩はしっかり取りましょう。休まないと振り返る時間も思い出す時間も取れないから、「まあいっか」って息抜きしながらやっていきましょう。新しい環境に挑んでるだけで100点満点! 偉い! よく挑戦してるねってちゃんと自分で自分のことを褒めてあげて。そして後悔はなるべくしない。ちょっとの失敗は振り返らずなかったことにしましょう。ちょっとくらいずるさがあっていいと思います

―― さまざまなお仕事をされるようになり、今の立場になって見えてきたことや、良かったと思うようなことはありますか?

広瀬 生きている分だけキャパは大きくなる、それが人生だと思っています。急に大きくしようとしても経験値がなければ難しいし、そこまで欲張りになる必要もない。いいかげんになれる自分も生まれ、人との付き合い方も上手になって、分かり合えない人はさけちゃいましょうと正攻法以外のやり方も見つけ、ゆとりができる。

 最初は親に送り出してもらって学校へ、それが職場として撮影所に送り出してもらうようになっても、帰ってきたら部屋はきれいで助けられてきました。大人になると自分でやらなければいけなくなり、子どもが生まれればそれだけタスクは増えた。でも同時に自分のキャパシティーも大きくなっていくものです。

―― 最後に広瀬さんにとってのカクレンジャーとは?

広瀬 もうすぐ30周年で、私が今43歳。人生のほとんどなんですよね。おそらく人生の一番大事な時間を過ごしたので、私の考え方の基礎は全部カクレンジャーの仲間や周りにいたスタッフの方で作られています。メンバー4人と1年を一緒に過ごせたからこそ、今の私がいるってすごく感じる。私の全部と言ってもいい。

 誰かに親切にしたい、優しくありたい、ダメなことはダメって言いたい。ごみが落ちてたら拾っちゃうし電車で席は譲っちゃう、ベビーカーの人がいたら持ってあげたい。そういうのは全部、カクレンジャーっていうヒーロー、ヒロインをやっていたから。私も視聴者だった子どもたちと同じように、あそこで学んだなって思っています。

―― 広瀬さん自身、今でもヒーローなんですね。

広瀬 「そうあるべき」と「そうでいたい」っていうのがすごく大きい。私自身もこの4月で幼稚園での仕事を始めてからちょうど3年たち、そのときの年少さんたちを送り出したばかりなんです。コロナ禍だったし思い入れもあって、でもまた新たな3年がスタートする。30周年イヤーも目前なので、同じように私も頑張っていこうと思っています。

広瀬仁美さん いつまでもヒーロー、ヒロインのままでいてくださって、ありがとうございます!

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