「カクレンジャー」鶴姫役の広瀬仁美にインタビュー 俳優引退からアーティスト転身、30周年目前のサプライズ全員集合の裏側も聞いてみた(1/2 ページ)
スーパー戦隊シリーズ第17作。
人生100年時代といわれる現代、「何歳からでも新しいステージに踏み出すのは遅くない」という考え方が広がっています。著名人も例外ではなく、ある分野で成功を収めた人が転機を経験し、別のフィールドで奮闘する姿は多くの人に勇気を与え、モチベーションやインスピレーションを与えています。
インタビュー連載 「私の人生が動いた瞬間」
広瀬仁美さんは1994年から1995年にかけて放送されたスーパー戦隊シリーズ第17作「忍者戦隊カクレンジャー」に、鶴姫/ニンジャホワイト役で出演。その後もシリーズ作品のテレビシリーズや映画、Webドラマといったシリーズでちょくちょく顔を見せ、俳優として第一線からしりぞいた今もスーパー戦隊ファンにはおなじみの存在となっています。
ねとらぼでは3月10日に誕生日を迎え、43歳となったばかりの広瀬さんにインタビュー。「カクレンジャー」直撃世代の記者が、出演中から引退を決意するまで、現在の暮らしぶりといった話に加え、ファンが最も気になる2023年に迫ったカクレンジャー30周年の話も聞きました。
早すぎる引退からアーティストへ転身 変わらないのは“表現したい”気持ち
―― 現在、俳優業はほぼ引退してアーティストとして活動されています。転身にはどんないきさつがあったんでしょうか。
広瀬仁美(以下、広瀬) 絵を描き出して6年目。3年前からは幼稚園に勤務しながらやっています。きっかけらしいきっかけは特になくて、強いて言えば、引退してお芝居を辞めちゃってから表現する場所がなかったので始めたんです。小さいころから絵を描くのが好きだったので「じゃあ個展をやるのを夢にしよう」と。先に夢ありきで、美大に行っていた経歴もないし完全に独学です。
―― 現在は個展を開いていらっしゃるので、当初の夢は達成できたということになりますね。今はどんなことを目指していますか?
広瀬 そうですね。全国いろんなところを回りたいという目標もかなえられたので、次は特撮ファンだけではなくて、「いい絵だね」と通りすがりの方がフラッと立ち寄ってくれるような個展をできるようにしたいです。今はどうしても特撮ファンの皆様に支えてもらっているので、そこから一歩ずつ進んで公募にも挑戦したいです。日展ほど大きいものじゃなくて小さいものからコツコツやっています。
―― 俳優業は20歳前に引退。かなり早い時期に決断したといえますが、何があったのでしょうか?
広瀬 カクレンジャーが終わってからしばらくは、学校に通いながら時々オーディションを受けてお仕事をしていました。でも落ちるし、違う番組が始まったら私たちは忘れられていって「向いていないんだ」と完全に自信喪失。母親の体調に不安もあった中で、アルバイトをしながらの生活でどんどん自信がなくなっていきました。
今の時代ならSNSやインターネットで発信できるじゃないですか。でも私たちのときってそういうツールがなくて、自分たちがどう評価をしてもらえていたかも、どう受け入れられてるかも実感することがなかった。そこで踏ん張れるだけの気持ちに持っていくことができなくて、18歳のとき、19歳になる前もうやめよう、もう無理だと引退を決めました。
―― ちょうど高校卒業が重なり、一般的にも将来を考えるタイミングですね。
広瀬 そうですね。周りもどんどん新たな道へ進んでいく中で続けていても仕方がないかなって。どこか諦めきれない気持ちも引きずりながらでした。それからわりと早い時期に結婚して子どもも生まれ、主婦、お母さんとして普通の生活に。映画や舞台は変わらず好きだったので、家事や育児の合間に見ては「こうだったらな」「ああだったらな」と思う時期もありましたが、子どもができてからは「今目の前にあるものをどうやって幸せにしていこうか」を最優先にして頑張ってきました。私自身、母子家庭で育って寂しかったので家族を持ちたい思いがあって。
―― お聞きした印象だと引退の決断はあまり前向きな転身ではなかったようで、当時カクレンジャーを応援していた1人として胸が痛みます。この時の広瀬さんにとって、支えになってくれた人はいたのでしょうか?
広瀬 やはり母です。辞めても辞めなくても、何をするのも「自分のことだから自分で決めなさい」と。たまたま連れて行かれたオーディションで「シュシュトリアン※」という番組に出演が決まるまでは引きこもりのようで、学校に行かない時期もありました。でも当時から心配はしてもうるさく言ってこない人で、黙って見守り待っていてくれました。
あとは黄色の河合(秀)、セイカイ/ニンジャイエロー役の彼とは仲が良くて「もっと頑張りなよ」「もったいない」とも言わず、母と同じく「自分で決めたことなら」というスタンスでいてくれました。そこでこの世界を辞めても否定されることはないんだなと感じられて、すごく助けられたような気がします。
カクレンジャーはメンバーみんな仲が良くて、今でも何かあれば連絡を取り合う関係。そんな仲間にちょっと支えられていたのかもしれない。なんか腹が立つんですけどね(笑)。
※「有言実行三姉妹シュシュトリアン」(1993) …… カクレンジャーと同じく東映制作で放送された特撮テレビドラマ、東映不思議コメディーシリーズ第14作にして最後の作品。広瀬さんは主人公3姉妹の末っ子・山吹花子/シュシュトリアン花子を演じていました
―― 表舞台から去っておよそ10年たった2010年あたりから「天装戦隊ゴセイジャー」を皮切りに、徐々に東映作品を中心に俳優として活動するようになりました。なぜこのタイミングだったのでしょうか?
広瀬 うちのレッド、小川(輝晃、サスケ/ニンジャレッド役)と夫婦役で出演しました。当時は東映さんも私の連絡先を知らず、たまたま小川に話が行きなんとか私まで。実はかなりアバウトな話だったんです。本当に普通のお母さんとしての生活を送っていたので、すごく久しぶりの撮影でした。
タイミングがすごく良かったんです。子どもも少し手が離れ、次が生まれるまで余裕のあるときで、きっとあと1年早くても遅くても断っていた。東映さんも子どもがいるからなるべく短時間で撮ろう、拘束時間も短かくと配慮と後押しをしてくれました。ファンの皆さんにとっては、この時期になんとなく現れたみたいな感じだったと思います。
久しぶりに大泉学園の駅から撮影所まで歩きながら、軽く迷子になりました。景色が違うし見たことない銅像みたいなのも立っているし「なんだこれは」「あれ? こっちで合ってるっけ?」とドキドキしながら移動したのを覚えています。昔は目をつむってでも歩けると思っていた場所なのに。それこそ電車に乗って、自分の用事で何時間も家をあけるなんて十何年ぶり。普段は幼稚園、学校、買い物と決まった場所へしか行かない生活だったんです。
「こうやって忘れ去られていくんだろうなと思っていたのに」 あとで知ったファンの愛
―― 30年前の放送当時は、ファンの反応が見にくかったというお話でした。現在はSNSを通じてファンと交流したり、イベントにも出席したりされていますが、今になって初めて目の当たりにした根強いファンの存在に驚きはあったのでしょうか?
広瀬 めちゃくちゃ驚きました。だってもう私としてはカクレンジャーの放送が終わって、最後に小さいイベントをやったきり。後継の「超力戦隊オーレンジャー」が始まってからはテレビをつけても自分が出てくることはなく、「こうやって忘れ去られていくんだろうな」という気分でしたから。
でもゴセイジャーで復帰する何年か前にイベントへ参加したら、ファンがいっぱいで「こんなに来てくれるんだ」と。インターネットで調べると「すごい好きだった」と言ってくれる人がいたり、応援してくれる掲示板があったり、こんなに思ってくれていたんだと感激でしたね。もっと早く教えてくれ、もっとみんな手を挙げてくれよ、と(笑)。インターネットってすごい。
―― 今まさにYouTubeで配信が始まったばかり。ますます注目度が上がるタイミングです。
広瀬 個展をやれるようになって良かったのは、全国いろんな場所へ行けること。北海道から熊本まで各地を回っていると「当時は生まれていなかったんですけど」と20代前半の方が結構来てくれるんです。YouTubeでの配信が開始してからはフォロワーさんも300人くらい増えました。最初にTwitterを始めたときは70人くらいしかいないひっそりしたコミュニティーだったところから「東映特撮ファンクラブ」での配信が始まった途端にブワーっと数が増えて、今回はさらにYouTubeだから誰でも見れるわけじゃないですか。
―― おそらくYouTubeで番組を見て、「今の広瀬さんって何してるんだろう?」と検索してこの記事をご覧になる方もいらっしゃると思います。そうした方へ向けて、カクレンジャーってどんな番組だったのか教えてください。
広瀬 まとめると、スーパー戦隊シリーズ初の女性リーダー、初の忍者もの。普通の若者たちがいつの間にか忍法を使い始めて、敵は人とか妖怪で、最終的には人間にとって一番大事なことを守るために戦う青春ロードムービー……ですかね。その辺のお兄ちゃんとお姉ちゃんが、壮大なものと戦いながらの青春ロードムービーです。
―― 確かに鶴姫とジライヤ以外の3人って、いつの間にか強くなっていた印象です。
広瀬 そうなんですよ。2話から急に戦ってるなと思いながら。短期間で一生懸命修行したんでしょうね(笑)。
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再び“ジャー”が冠された作品に。
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