映画「岸辺露伴 ルーヴルへ行く」レビュー 高橋一生の存在感と「怪奇テイスト」の成功(1/3 ページ)
ワトソンっぽい飯豊まりえとの掛け合いも楽しい。
5月26日から公開中の映画「岸辺露伴 ルーヴルへ行く」が、ドラマ版に続いて、再び漫画の実写化の「正解」を示してくれた。
キャスティング、ビジュアル、脚本など全方位的に隙がない素晴らしい作品だったのだ。特に後述する“暗がり”の画は間違いなくスクリーン映えするので、ぜひ劇場で見てほしい一本となっている。
実写化成功の理由の筆頭は間違いなく高橋一生
本作は、漫画「ジョジョの奇妙な冒険」のスピンオフ「岸辺露伴は動かない」シリーズを原作としている。NHKではテレビドラマ版が2017年から2022年にかけて8話放送されており、そちらでも高橋一生の怪演が大好評を博した。本作は、その制作チームが日本とフランスを股にかけて作り上げた劇場版となる。
今回の映画のあらすじは、「“黒い絵”の謎を解くためにルーヴル美術館を訪れる」というシンプルなもの。物語は独立しており、主人公の漫画家・岸辺露伴が「人の記憶を本のようにして読む特殊能力を持つ」ことは今回の映画でも簡潔に示されるため、原作漫画やテレビドラマ版を見ていなくても問題なく楽しめるだろう。
まず、テレビドラマ版も含めて実写「岸辺露伴」シリーズが成功した理由は、何よりも主役の高橋一生の存在にある。矢継ぎ早にしゃべる様は「デスノート」の探偵・Lを演じた松山ケンイチにも近く、一挙一動から醸し出される変人っぽさと同居する聡明さは高橋一生その人の個性を見事に生かしている。
今回の映画では、序盤の「僕はただ美術品を求めているんじゃあない。美術品のリアリティーを求めているんだ!」と実に“らしい”セリフからシビれた。原作の岸辺露伴が持つ威圧感や身勝手さ、そして芸術に対し揺るぎない信念を持つ唯一無二のキャラが「漫画からそのまま出てきた」ような魅力があったのだ。
「怪奇テイスト」にハマったビジュアル
漫画から実写への見た目の変化も見事だ。岸辺露伴の「ギザギザのヘアバンド」は再現されているものの、それ以外では現実にいても違和感がないバランスになっている。そして、「翔んで埼玉」や「シン・ 仮面ライダー」などへの参加でも知られる柘植伊佐夫が人物デザイン監修・衣裳デザインを手掛けており、その色味を抑えたシックな画作りおよび美術が、原作由来の奇妙な謎に包まれる「怪奇テイスト」にハマったといえる。
さらに、テレビドラマ版でも演出を務めた渡辺一貴監督は、ベルナルド・ベルトルッチ監督の映画「暗殺の森」(1970)から映像ルック、 美術設定、 扮装表現に至るまで刺激を受けたとも語っている。 やや暗いトーンで描かれるパリの街並みおよびルーヴル美術館や、日本を舞台にしたサスペンスシーンでの「おどろおどろしさ」も見応えがあり、菊地成孔による音楽もそれぞれの雰囲気に最大限にマッチしていた。
さらに、今回の映画ではクライマックスでのバトルの画が鮮烈だった。美術スタッフが総出で地面や壁面に向けて水をまき続けていたからこそ実現したジメッとした空気感と、その対比となる暗闇に炎がゆらめく様が美しい。そして、「ジョジョの奇妙な冒険」の作品群に通底する、一触即発のハラハラドキドキと共に、「どのように危機を回避するか」のサスペンスが明確なロジックと共に展開する様にも期待してほしい。
小林靖子の脚本の素晴らしさ
今回の原作漫画「岸辺露伴 ルーヴルへ行く」は、2009年にルーヴル美術館のバンド・デシネのプロジェクトために描き下ろされた、荒木飛呂彦初となるフルカラーの読切作品。総ページ数が130ページに満たない中編であったので、そのまま映画化すると2時間弱で描く内容としてはボリューム不足になってしまうのではないか? という懸念も見る前にはあった。
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