「怖すぎる」とネットを席巻したホラー小説『近畿地方のある場所について』はどのように生まれたか 作者インタビューで裏側を聞く(3/6 ページ)

» 2023年07月07日 21時00分 公開
[たけしな竜美ねとらぼ]
※本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

――確かに怖いですね、実際に住んでいるのかいないのか、目的はなんなのか……。ほかにもエピソードがあれば教えてください。

背筋 「インタビューのテープ起こし 1」に「怖い話とジェスチャー」についてのお話を書いたのですが(※)、これは私が大学の卒業研究で本当に行った実験をモデルにしているんですよ。話の中ではかなり盛っていますが、実際には被験者のひとりが「変な音がする」と言い出してパニックを起こしています。

※卒業研究で「ホラー映像の感想を伝える際のジェスチャー」を調べる中で怪奇現象が発生するエピソード

――実験自体が背筋さんらしいかなり踏み込んだものですし、被験者の方がパニックを起こしたこと自体が怖いですね。

「インタビューのテープ起こし 1」

背筋 このように作中のエピソードは私の経験だったり、友人などから聞いた話だったりをもとにふくらませ、大きな脚色をつけて制作したものが少なくありません。

――話は変わりますが……全盛期の洒落怖、ホラー映画や作品、都市伝説などさまざまお話が出てきまして、背筋さんが相当なホラー・オカルト愛好家であることがよく分かりました。つきましては、そういったものを好きになった原点などはありますでしょうか。

背筋 強いて言えば、父方が寺の住職だったことかもしれません。小さなころから怖い話や驚くような話、不思議な話などをいろいろと聞かされてきましたから。怖い話や不思議な話って、ある意味では小さなころから慣れ親しんできたコンテンツなんです。

 作品としては、水木しげる先生の影響が強いと思います。5歳ぐらいのころから『墓場鬼太郎』や『水木しげるの妖怪事典』『水木しげるの世界妖怪事典』など、水木しげる先生の漫画と事典本を何度も読み返していました。今になって考えるとちょっと気持ち悪い子どもなんですが(笑)。父の聞かせてくれた話と水木しげる先生の作品が原体験になっているのかもしれないな、と思います。

――『ゲゲゲの鬼太郎』ではない、という点にこだわりを感じます。

背筋 こだわりと言えば、今回『近畿地方〜』を書いていくなかで、ものすごくこだわった部分があるんですよ。これはホラー作品が大好きだから、ということもあるのですが……先ほども申し上げたとおり、作中に登場する怪異にはさまざまなモチーフを取り入れていて、例えば「アクロバティックサラサラ」(※)や「梅田の赤い女」、有名なところでは「リング」の貞子や「呪怨」の伽椰子の要素も取り入れています。

※「アクロバティックサラサラ」とは、赤い服に赤い帽子、長くてサラサラの髪を生やし、異常に背が高い女性の姿をしているという謎の存在。見かけるだけで呪われるタイプの怪異で、その動きは非常にアクロバティックだという。「アクロバティック」と「サラサラの髪」と足して「アクロバティックサラサラ」「悪皿」と呼ばれている

――これまでのインターネットの怪談や都市伝説も取り込んだ融合体ですね。

背筋 だから作中の表現をもって「またこれかよ」と思われたくなかったんです。さきほど出した「梅田の赤い女」なんですけど、大阪の梅田にある「泉の広場」に出るという、赤いコートにボサボサの長い黒髪という姿でそこに立っていて、それを見てしまうと……という都市伝説なんですけれど。この外見って言ってしまえば「お化けのテンプレート」ですよね。

 そういったオーソドックスな怪異がいたとして、「この怪異にできるだけ意外性があり、なおかつ怖くて嫌な動きをさせよう」と考えました。

 リングの「テレビから幽霊が這い出してくる」だったり、呪怨の「2階から幽霊が這いずって降りてくる」だったり。そういう表現って、それが出るまで誰も描かなかったじゃないですか。だからもう素人なりに必死に考えて、作中に登場する怪異には「それら先輩方と同じぐらいに印象に残る特徴的な、かつ今までにない怖くて嫌な動き」をさせるようにこだわりました。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2411/22/news018.jpg 猫だと思って保護→2年後…… すっかり“別の生き物”に成長した元ボス猫に「フォルムが本当に可愛い」「抱きしめたい」
  2. /nl/articles/2411/22/news184.jpg 「やはり……」 MVP受賞の大谷翔平、会見中の“仕草”に心配の声も 「真美子さんの視線」「動かしてない」
  3. /nl/articles/2411/21/news027.jpg 大きくなったらかっこいいシェパードになると思っていたら…… 予想を上回るビフォーアフターに大反響!→さらに1年半後の今は? 飼い主に聞いた
  4. /nl/articles/2411/13/news176.jpg 「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
  5. /nl/articles/2411/23/news025.jpg 「大企業の本気を見た」 明治のアイスにSNSで“改善点”指摘→8カ月後まさかの展開に “神対応”の理由を聞いた
  6. /nl/articles/2411/05/news138.jpg 「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの仕打ち”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」
  7. /nl/articles/2411/22/news205.jpg 松田翔太、憧れ続けた“希少な英国製スポーツカー”をついに入手「14歳の僕に見せてあげたい」 過去にはフェラーリやマクラーレンも
  8. /nl/articles/2411/22/news047.jpg 「行きたすぎる」 入場無料の博物館、“宝石展を超えた宝石展”だと40万表示の反響 「寝れなくなっちゃった」【英】
  9. /nl/articles/2411/22/news051.jpg 自動応答だと思って公式LINEに長文を送ったら…… 恥ずかしすぎる内容と公式からの手動返信に爆笑 その後について聞いてみた
  10. /nl/articles/2411/22/news198.jpg ユザワヤが教える“引っ張るだけで簡単に畳めるエコバッグ”の作り方が100万再生 便利でかわいいアイテム完成に「何枚あってもいい」「最高です」
先週の総合アクセスTOP10
  1. 「飼いきれなくなったからタダで持ってきなよ」と言われ飼育放棄された超大型犬を保護→ 1年後の今は…… 飼い主に聞いた
  2. ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
  3. 「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
  4. まるで星空……!! ダイソーの糸を組み合わせ、ひたすら編む→完成したウットリするほど美しい模様に「キュンキュンきます」「夜雪にも見える」
  5. 妻が“13歳下&身長137センチ”で「警察から職質」 年齢差&身長差がすごい夫婦、苦悩を明かす
  6. 人生初の彼女は58歳で「両親より年上」 “33歳差カップル”が強烈なインパクトで話題 “古風を極めた”新居も公開
  7. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  8. 互いの「素顔を知ったのは交際1ケ月後」 “聖飢魔IIの熱狂的ファン夫婦”の妻の悩み→「総額396万円分の……」
  9. ユニクロが教える“これからの季節に持っておきたい”1枚に「これ、3枚色違いで買いました!」「今年も色違い買い足します!」と反響
  10. 中央道から「宇宙戦艦ヤマト」が見える! 驚きの写真がSNSで注目集める 「結構でかい」「どう見てもヤマト」 撮影者の心境を聞いた
先月の総合アクセスTOP10
  1. 50年前に撮った祖母の写真を、孫の写真と並べてみたら…… 面影が重なる美ぼうが「やばい」と640万再生 大バズリした投稿者に話を聞いた
  2. 「食中毒出すつもりか」 人気ラーメン店の代表が“スシローコラボ”に激怒 “チャーシュー生焼け疑惑”で苦言 運営元に話を聞いた
  3. フォロワー20万人超の32歳インフルエンサー、逝去数日前に配信番組“急きょ終了” 共演者は「今何も話せないという状態」「苦しい」
  4. 「顔が違う??」 伊藤英明、見た目が激変した近影に「どうした眉毛」「誰かとおもた…眉毛って大事」とネット仰天
  5. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  6. 星型に切った冷えピタを水に漬けたら…… 思ったのと違う“なにこれな物体”に「最初っから最後まで思い通りにならない満足感」「全部グダグダ」
  7. 「泣いても泣いても涙が」 北斗晶、“家族の死”を報告 「別れの日がこんなに急に来るなんて」
  8. ジャングルと化した廃墟を、14日間ひたすら草刈りした結果…… 現した“本当の姿”に「すごすぎてビックリ」「素晴らしい」
  9. 母親は俳優で「朝ドラのヒロイン」 “24歳の息子”がアイドルとして活躍中 「強い遺伝子を受け継いだ……」と注目集める
  10. 「幻の個体」と言われ、1匹1万円で購入した観賞魚が半年後…… 笑っちゃうほどの変化に反響→現在どうなったか飼い主に聞いた