「怖すぎる」とネットを席巻したホラー小説『近畿地方のある場所について』はどのように生まれたか 作者インタビューで裏側を聞く(3/6 ページ)
――確かに怖いですね、実際に住んでいるのかいないのか、目的はなんなのか……。ほかにもエピソードがあれば教えてください。
背筋 「インタビューのテープ起こし 1」に「怖い話とジェスチャー」についてのお話を書いたのですが(※)、これは私が大学の卒業研究で本当に行った実験をモデルにしているんですよ。話の中ではかなり盛っていますが、実際には被験者のひとりが「変な音がする」と言い出してパニックを起こしています。
※卒業研究で「ホラー映像の感想を伝える際のジェスチャー」を調べる中で怪奇現象が発生するエピソード
――実験自体が背筋さんらしいかなり踏み込んだものですし、被験者の方がパニックを起こしたこと自体が怖いですね。
背筋 このように作中のエピソードは私の経験だったり、友人などから聞いた話だったりをもとにふくらませ、大きな脚色をつけて制作したものが少なくありません。
――話は変わりますが……全盛期の洒落怖、ホラー映画や作品、都市伝説などさまざまお話が出てきまして、背筋さんが相当なホラー・オカルト愛好家であることがよく分かりました。つきましては、そういったものを好きになった原点などはありますでしょうか。
背筋 強いて言えば、父方が寺の住職だったことかもしれません。小さなころから怖い話や驚くような話、不思議な話などをいろいろと聞かされてきましたから。怖い話や不思議な話って、ある意味では小さなころから慣れ親しんできたコンテンツなんです。
作品としては、水木しげる先生の影響が強いと思います。5歳ぐらいのころから『墓場鬼太郎』や『水木しげるの妖怪事典』『水木しげるの世界妖怪事典』など、水木しげる先生の漫画と事典本を何度も読み返していました。今になって考えるとちょっと気持ち悪い子どもなんですが(笑)。父の聞かせてくれた話と水木しげる先生の作品が原体験になっているのかもしれないな、と思います。
――『ゲゲゲの鬼太郎』ではない、という点にこだわりを感じます。
背筋 こだわりと言えば、今回『近畿地方〜』を書いていくなかで、ものすごくこだわった部分があるんですよ。これはホラー作品が大好きだから、ということもあるのですが……先ほども申し上げたとおり、作中に登場する怪異にはさまざまなモチーフを取り入れていて、例えば「アクロバティックサラサラ」(※)や「梅田の赤い女」、有名なところでは「リング」の貞子や「呪怨」の伽椰子の要素も取り入れています。
※「アクロバティックサラサラ」とは、赤い服に赤い帽子、長くてサラサラの髪を生やし、異常に背が高い女性の姿をしているという謎の存在。見かけるだけで呪われるタイプの怪異で、その動きは非常にアクロバティックだという。「アクロバティック」と「サラサラの髪」と足して「アクロバティックサラサラ」「悪皿」と呼ばれている
――これまでのインターネットの怪談や都市伝説も取り込んだ融合体ですね。
背筋 だから作中の表現をもって「またこれかよ」と思われたくなかったんです。さきほど出した「梅田の赤い女」なんですけど、大阪の梅田にある「泉の広場」に出るという、赤いコートにボサボサの長い黒髪という姿でそこに立っていて、それを見てしまうと……という都市伝説なんですけれど。この外見って言ってしまえば「お化けのテンプレート」ですよね。
そういったオーソドックスな怪異がいたとして、「この怪異にできるだけ意外性があり、なおかつ怖くて嫌な動きをさせよう」と考えました。
リングの「テレビから幽霊が這い出してくる」だったり、呪怨の「2階から幽霊が這いずって降りてくる」だったり。そういう表現って、それが出るまで誰も描かなかったじゃないですか。だからもう素人なりに必死に考えて、作中に登場する怪異には「それら先輩方と同じぐらいに印象に残る特徴的な、かつ今までにない怖くて嫌な動き」をさせるようにこだわりました。
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